霧の中の老竜帝
翌日、宿の親父さんに掛け合って小船を借りた。そこらの浜に係留されているカヌーみたいなやつだ。マストはない。
無論タダではなく、金貨を3枚ほど積んだ。小舟とはいえ、作るにも手間も時間もコストも資材もかかる貴重なものだ。それを海竜が出現した海に出る男に貸し出そうというのだから、そりゃあ多めに積まなければならない。下手をすれば瓦礫になって戻ってくるのだから。
……まあ、親父さんがNOとは言えないことは分かっていた。海竜出現時、この親父さんは息子を即座に十字街へと買い出しに向かわせたらしい。ダルエダの食糧事情が逼迫し、宿泊客への食事が出せなくなることを危惧して先手を打ったのだ。
しかしながら、どれだけ確保して戻ってくるのかはわからない。今件を商機と見て動いた商人も多く、場合によっては食料を持ち込んだ商人から買い付ける必要も出てくる。
基本的にダルエダは海産物による自給自足で成り立っている。つまり、現金での備蓄意識が乏しいのだ。商人を相手にする場合、言わずとも金銭は必須。故にこの状況においては、現金がいくらあっても困ることはない。平時であっても、小舟一隻の作成には全部ひっくるめて金貨1枚ほどかかると見積もっている。現状において、全く損のない話なわけだ。
そんなこんなで、小舟にユーディを乗せ、手作り感満載のオールを必死こいてせっせと漕いで……現在、そこそこの沖で釣り糸を垂らしている。なぁに、浜辺は見えているから問題ない。……流されないようにだけは注意しなくちゃあならないが。
「浮けるのになんで舟借りたの?」
その疑問はもっともだ。浮いて釣りに興じればいいのだから。しかし俺が言うのもなんだが、現実はご都合主義ではない。
「土は本来、時間をかけてやるものだ。……真面目な話、[アンチグラビティ]ありきの釣りは危険だ。魔力が尽きたら海にドボンだぞ?柔軟も何もなしにいきなり落とされて、濡れた服が体にまとわりついてろくに泳ぐことも出来なくなる。最悪、脚の筋肉が吊って溺れ死ぬ」
「んぅ……服着てると泳げなくなるの?ナナにぃあんなに泳げるのに?」
「思った以上に邪魔になるもんだよ。……そうだなぁ、籠を背負って、その中を野菜で一杯にしたのを想像してごらんよ?そのまま、日常生活を送るところを想像してみればわかるかね」
「んー……重そう。邪魔。疲れる」
「まさにそれさ。だからダルエダの住民は海に潜る際に最小限の衣類しか身に着けない。プラス、そういった理由で水着というモノが存在するわけだ」
「そっか。じゃあ、舟の上で釣るのは、溺れる事にならないための安全策?」
「正解。体内魔力を温存しておけば、最悪の場合それこそ[アンチグラビティ]で離脱できる。それに小舟であっても積載量は馬鹿にできたもんじゃないさ」
[アンチグラビティ]で浮く場合、釣れた魚を積める面積に大きな制限があるし、釣れば釣るだけ重くなる。だが舟があれば、自分の体を魚で重くする事も無く、また体内魔力を浪費することなく釣りに興じる事が出来る。溺れるリスクも勘定に入れれば、金貨3枚分の価値は……過剰かな?どうだろう?
ちなみに餌はウニだ。出発前の早朝に昨日と同じポイントまで単身全速力で出向いて用意した。ちなみに弁当はアワビとホタテのバター焼き。こちらは弁当箱と料理の両方を時間停止させているため、汁は漏れず、解除した瞬間に出来立てアツアツになる。解除しなければ腐らず、濡れず、そして食えずだ。……流石に借り物の舟の上で火を使う勇気は無い。
それにしても……。
「釣れないね」
「ああ、全く釣れないな」
特上の、餌にするのは本当にもったいないウニを使っているというのに、全くかからない。昨日のような入れ食いにはならないだろうと踏んではいたが、ここまでかからないのは少々……。
……餌が流されたか食いちぎられた?
リールを巻き上げ確かめるも、ぐっさり針に食い込んでいる。
「ん、ウニついてるね」
「ああ、しっかりぶっ刺さっているな」
となると、根本的な問題だな。要はここら一帯に魚が全くいないらしい。いくらネタが特上でも、お客が居なければ全くの無意味だ。店が潰れる。
「……妙だな」
魚がいない事は奇妙だが、他にも奇妙に思う点があった。
今の海は些か静か過ぎる。風も波も全くない、所謂ベタ凪だ。砂浜が見える距離だというのに、大海原を漂流しているような錯覚すら起こす、そんな不気味な静けさだ。
このままこの不気味な海を漂い続けていいものか。否。君子危うきに近寄らず。
「予定変更だ。急ぎ引き上げるぞ」
「ん、りょーかい」
ユーディも危うい何かを感じ取っていたのか、異論を挿むことは無かった。
この状況で釣りを続けるのは利にもならない上に、精神的に宜しくない。何より──
「つまらん!!」
「つまんない!!」
あの入れ食いを経験した後でこの状況を楽しめというのは無理な話だ。
オールを手にし、さあ漕ぐぞと振るおうとした途端──
「む?」
「んぅ?霧……?」
──周囲に霧が満ちてきた。まるで、海が俺たちを帰さないような、そんな意思すら感じるタイミングだ。
「おいおいおいおい……」
霧はどんどん濃くなっていく。……が、焦らない。狼狽えない。ユーディの天候操作もあるし、俺の[錬金術もどき]と風術で吹き飛ばすこともできる。確かに焦りは無い。無い、が……異常性だけはひしひしと、十分すぎるほどに、おかわり不要なレベルで感じていた。
「んぅ?」
ピクリとユーディの耳が動く。
「ナナにぃ、なにか来る」
そうユーディが言った直後、沖から長い何かが巨大な水飛沫を上げて現れた。庇うようにユーディを抱き寄せる。……何だあれは?濃霧の中、長いシルエットだけが確認できる。まるで直立した蛇のようだ。
だが、直後にその正体を知る。巨大な山のようなものが浮き、そこから長い蛇のようなものが生えていたのだ。いや、それは山ではなかった。微かに見えるその模様、色合い、それは甲羅だった。蛇だと思ったそれは長い長い首だった。似たような存在に、ついぞ最近遭遇した覚えがある。
「海竜……か?」
昨日の海竜と比べてふたまわり以上も巨大だ。いや、巨大すぎる。首だけでアラストルを超える高さだ。
その海竜らしきシルエットの周囲だけ霧が消えていく。そうして現れたのは確かに海竜だった。だが、明らかに昨日の海竜とは一線を画した存在だった。
その巨大さもさる事ながら、長い時を生きてきたと思わせるボロボロの鱗と無数の古傷。片方が欠け、残るもう片方も傷らだけの真っ白な角。甲羅に張り付き共生していたと思われる赤珊瑚らしきものの死骸。そして、遥か頭上からこちらを見下ろす金色の瞳から伺える知性──。
昨日の海竜が子供ならば、この海竜はまさに賢老と呼ぶに相応しいだろう。どれほどの年月を生きてきたのか、想像で語ること其の物がおこがましい。
『あんたたちだね、昨日あたしの孫を助けてくれたのは』
「ほげっ!?」
おいおいおいおい、この海竜喋ったぞ!?
『安心し。とって食いやしないよ』
「言われずとも、こうして姿を見せた時点で……」
食うつもりなら海中からガブッとやればそれで事足りる。こうして俺たちだけを霧に包んだのは、姿を見せたことで街へ混乱を与えないための配慮だろう。
『あたしは蒼海帝ゼブリアノム。【大海の覇竜】とも呼ばれているさね。今日はあんたたちに礼をいいに来たんだ』
竜帝自らが出向いてくるっていう時点で、礼以外の何かがあるとしか思えない。なんて勘ぐってしまうのは、昨日感じ取った変な予感が原因だ。
「んぅ、昨日の子、元気?」
『あんまり元気はないねぇ。傷の痛みはもうないらしいけど、心の方が参っちまってるのさ……』
ゼブリアノムの体に隠れるように、昨日の海竜が首を伸ばしてこっそりこちらの様子を伺っている。
『あんたたちにそれ絡みで仕事を頼みたい。……あんたたちにしか出来ないことさね』
ほらな、やっぱりな。そんな事だろうと思ったよ。もう厄介な匂いしかしない。……なんでこう、この世界に来てから高頻度で厄介事に遭遇するんだろうな?
「はぁ……とりあえず、聞かせてください。やるかどうかは、内容を吟味してからですがね」
『ああ、構わないよ。きちんと聞いて行動する、そういう奴はあたしゃ好きだしね』
さいですか。……なんか、この海竜おばあちゃんっていう感じだ。どうにも、数年前に亡くなったばあさんを思い出してしまう。
『ここ数週間、妙な呪いが海に蔓延しているんだよ。そいつはかかると正気をなくして暴れて、次第に体が化物に変わっていっちまう。そのせいであたしたち海竜もマーム族も、かなりの数が減っちまったのさ。5日前、ついにその病気の出処を突き止め、あたしは一族全員の指揮を取って、破壊に乗り出した。そして……あたしと、後ろに付いてきていたこの子、ハルネリア以外の全員が死んだ。同族だってのに互いに醜く食い合い、狂い、死んでいったよ……』
依頼内容が見えてきた。つまり、このおばあちゃんは俺とユーディに……。
「その出処を破壊してほしいっていうのか?」
『そのとおり。病も毒も、そして呪いすらも完全に無効にできるあんたたち、ナナクサとユーディリアにしか頼めないことだ』
っ……!!こいつ、何故[病毒無効]の事を!?呪いまで無効!?それに俺たちは名乗っていないぞ!?聞き耳を立てて名前を聞き取ったというのもありえない。俺はこっちでユーディをユーディリアと呼んではいない。
「……まさかとは思うが、あんたは[鑑定]、あるいはそれに類似する力を持っているのか?」
鑑定、識別、解析──呼び方は様々だが、その効果は一律にして単純、対象の情報を読み取り、特技から弱点までその全てを丸裸にする。異世界俺TUEEE系ラノベの鉄板にして、正真正銘人権級チート能力だ。
『病と毒の両方無効なんて初めて見たよ。その上、神に近い神力を持つときた。あたしも長く生きてきたけどね、はっきり言ってあんたたちの神力は生き物が持つ枠を外れている。ある意味では、あんたたちは神に一番近い存在だ』
……冗談、だろ?
「しん、りょく?」
ユーディは神力のことを全く知らない。そも、普通に生活していて知れることではない。
「ああ……神力は世界を守護し、調停する神の力だ」
俺は死後、魂に累積されていたそれ全てと引き換えに、[危機察知]・[病毒無効]・[全言語理解]・[錬金術]の4つの能力を得てこの最果ての世界へと降り立った。だから俺に神力があるはずがない。
が……初対面で知りえるはずがない情報を知っている相手が言うならば、信憑性は0ではない。それに、先日含めて何度か経験したあの力の循環……。全面否定できるだけの材料はなく、肯定する材料ばかりがそろいつつある。
『もちろん、報酬は出すよ。あたしがこんな事態のために何千年もかけて溜め込んだものの一部を出す』
「……ゼブリアノムよ、その発生源は建物かなにかなのか?」
『海底の洞窟が発生源だ。ブレスの射程内まで近づいて、木っ端微塵に粉砕する──その算段で指揮を取って、飲まれちまったんだよ』
「呪いの範囲が拡大しているのか?それも、あんたの予測を上回る速さで」
『ああ。……このままだと、3ヶ月もすれば陸まで侵食するだろうね。……いや、もっと早いかも知れない。2年あればウィルゲートもすっぽり飲み込んじまうだろう』
「……どうなると予想しているんだ?」
『死んだ一族と同じさ。理性をなくして、食い合い、殺し合うだろう。全て死に絶えるまでね』
おいおいおいおい、リアルバイ○ハザードかよ。ふっざけんなよ……マジでふっざけんな。あれか?呪い無効の俺達でなければ、その呪いの発生源へ確実に行けない。ほっときゃ大陸が滅ぶってか?なんでこんな短期間にまた大陸の危機が来ちまうのよ?おかしいだろ頻度が!?出来損ないのバトル漫画じゃねーんだぞ!?
「あんた……最初から、これが目的だったんだな。あらかじめ遠巻きに……昨日の濃霧に紛れて、俺達を視たんだろう?」
放置すれば遅かれ早かれ、ウィルゲート大陸は安寧に程遠い地獄絵図と化す。今俺とユーディにしかできないなら、2年後でも解決できるのは俺とユーディくらいだろう。違いがあるとすれば、海が手遅れになるかどうかだ。
報酬ありで動くか、それとも放置か。
2年後に解決した時には海の幸が永久に失われ、陸の動物もしっちゃかめっちゃかになって半分地獄絵図の惨状で、おまけに無報酬。今動く以外の選択肢が無い。ずるい婆さんだわ、全く。
『卑怯者と言いたければ言うがいいさ。本来、これはあたしら海の住民の管轄だ。けど、マーム族も大きく数が減って、海竜ももう、老いぼれのあたしと未熟なハルネリアだけになってしまってねぇ……。はっきり言って、もう海に住まう者にこの件を解決できる力はない』
「つまりこうなるまで放置していた──いや、発見できなかったあんたたちの落ち度だ」
『否定はしない。誰よりも海と長く過ごし、誰よりも海を知り、誰よりも海を愛していると自負するあたしが気づけなかったんだ……』
俺は命の安売りはしない主義だ。自分の命も、嫁の命も、家族の命もな。グラム何十円の特売品と同等に思われちゃ困る。つまり、提示される報酬はこの婆さんにとっての海の価値そのままでなければならない。
『報酬はあたしとの契約と、遥か昔に別の世界から流れてきたアーティファクトを5つ全て、毒なしの魚介類を1万トン、精製されたオリハルコンをあんたの体と同じくらい。あんたの力を使えば、陸の経済をひっくり明けせるだけの莫大な富に化けるだろう。それで動いてもらえるかえ?」
……なんかすごいのが出てきたんだが?
契約ってのはあれだ、一昨日ルチアナから聞き出した竜帝との契約だろうが……問題はその他だ。
アーティファクトってのは、ルチアナが持っていた箒のような、製法不明の超遺物。具体的な内容は不明だが、婆さんが保有している5つ全て。ヤバイ。
精製済みオリハルコンを、俺の体積とトントンでってのもヤバイ。オリハルコンの外見は無色透明で、うっすらと美しく青く輝く特徴を持つ。一見金属に見えないが、アダマニウムすら凌駕する超硬度を誇り、また、加工方法も謎に包まれている。
鍛冶屋業界での通説では先史文明の遺産だとか言われているが、この世界の成り立ちを知る俺からすれば、流れ着いた物語の、形ある残滓の一部なのだと思われる。実際、オリハルコンの原石は未だに発見されていないらしい。
もし加工することができれば、それは技術者にとっての誉れであり、その技術によって永遠の富が約束される。加工されたオリハルコン製品には天文学的価値が付くだろう。恐らく俺にはそれができる。出来てしまう。
現状の出土品である精製済みオリハルコン相場は、100gでウルラントの年間予算に相当する。……俺の体積分、つまりおよそウルラントの700~800年分の予算だ。それを加工するわけだから…………あかんわ。大陸中の金を集めても届かない気がする。
「ん、できても、ほとんどお蔵入り」
「だよなぁ……経済乗っ取れるわ、これ」
ウィルゲートの現貨幣制度そのものを破壊しかねない、暴力的な──否、破滅的な報酬だ。
……そういえば、ユーディに結婚指輪は渡していないんだよなぁ。こっちでは結婚指輪の風習がないから、郷に入ればなんとやらで作っていなかったが……オルハルコンで作るか。世界に一対しかない指輪を。
そして最後に魚が1万トン……。量がやばい、というよりも頭おかしい。うちのやつら全員でかかっても食いきれないぞ?っていうかどうやって運べと!?
「報酬のアーティファクトに無限に物が入る入れ物がある。そこに入れておけば持ち運びの問題はないだろうよ」
四○元ポケットキタコレ!!
……豪華報酬すぎるが、不安要素を抱えたまま海底洞窟攻略は、どうにも二の足を踏む。報酬が豪華でも、死んでは元も子もない。
加えて俺もユーディも、広域殲滅が長所だ。閉鎖空間での活動はどうにも難しい。石橋を叩いて渡るどころではなく、石橋を叩いて叩いて叩き壊して、その上をほふく前進するくらいの慎重さで動きたい。むずかしいだろうけどな……。
「ん……ハルネリアのおとうさんとおかあさんは?」
『あの子の父親はわからないのさ。顔を見たことも無い。ハルネリアにとっての親は母親だけだったんだけどね……。……あの子の尻尾の傷は、狂った母親がつけたもんだ。あの子は母親に尻尾を食いちぎられたんだよ……。あたしが他の海竜に絡まれている間、あの子は必死で逃げて……。傷だらけになって皆殺しにして落ち着いた時には、もうどこにいるのかわからなくなっていた。あたし自身も、とても探しに行けるだけの体じゃあなかった。そしてあの子だけ帰ってきた。目を見てわかったよ。あの子は母親を殺して、生き残ることを選んだ。あたしは孫に母親殺しの業を負わせた、馬鹿なババアさ……』
自嘲するゼブリアノムは、今にも泣き出しそうなほどに目を潤ませていた。
『ばーちゃ?いたいの?けがなおってないの?』
そんなゼブリアノムを、心配そうな表情でハルネリアは見上げた。
『おお、心配することはないよ、ハルネリア。あたしゃ大丈夫だ』
「…………強がりやがって」
子が母親に手をかけられる──それはどれだけの恐怖を与えただろうか?子が母親を殺める、それがどれほどの罪となり、この先の生の枷となるだろうか?どれだけの苦悩と絶望になるだろうか?それを止めることも叶わなかったゼブリアノムの苦悩はどれだけだろうか……。
「ねぇ、ナナにぃ」
「……わかっている。ゼブリアノムよ、その報酬に一つ、いや、二つ加えてもらおう」
『これ以上何を望む?あたしの角かい?それとも鱗かい?』
「ん……ハルネリアが大人になって結婚するまで、死んだらだめ。ひとりぼっちはさみしいもの、ね」
「そういうこった」
子供に親殺しの業を背負わせるなんざ、許しちゃおけねぇ。ゼブリアノムは自分を責めているが、根本がこの婆さんにあるわけじゃない。それで責められようか?断じて否だ。
そも、多勢に無勢で、それも守りながら戦うのは簡単なことではない。いかに強大な力を持っていようとも、個人では点でしかない。しかし、二人三人と集まれば、点は繋がり線となり、面となる。これでようやっと、最低限守りながら戦う条件が整うのだ。ゼブリアノムは確かに巨大だが、巨大な点でしかない。全方位を護る壁ではない事は結果が証明している。
『変な奴らだね、あんたたち。お人好しなのか強欲なのか色欲まみれなのか……振れ幅が広すぎるねぇ』
「俺はただの、子供に優しい、敵には容赦しない、そして嫁を愛する悪い魔法使いだ。欲しいものは手に入れる、家族に仇なすやつは滅ぼす、愛する人とめいっぱい愛し合う。ただ自分がしたいことを、思うがままに好き勝手にしているだけだ」
『悪い、ねぇ……そういうことにしておこうかねぇ。それで、もうひとつは何だい?』
「あくまで可能ならばの話だ。不可能なら諦める」
これが可能なら、この依頼を遂行するにあたって大きな利点となるだろう。
「ゼブリアノム……あんたの鑑定能力、それを依頼遂行までの間、拝借したい」
お読み頂きありがとうございました。仕事増えすぎやねん……。




