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次元の最果で綴る人生~邪魔者⇒葬る~   作者: URU
大海の覇竜と赤の姫
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海竜


 丑三つ時(ウシミツアワー)、ナナクサとユーディが宿泊する部屋の前に、二つの影が佇んでいた。


「ネェさま、まずいですよ」

「しっ、静かに……」


 ルチアナとリムリスだった。ルチアナは未だ、ナナクサとユーディが夫婦であることに納得していなかった。年の離れた兄妹としか思えなかったのだ。もし本当に夫婦だというのならば、所謂夜の性活が行われているはずと踏んで覗きに来たのである。あの、ナナクサに対して。


 飴が濃すぎたのか、それともチョロ過ぎるのか、ルチアナの中でナナクサに対する恐怖心は薄らいでいた。エロへの好奇心が勝ったのだ。リムリスはそんなルチアナに危機感を抱き、なんとか引きとめようと説得し続けたが、結局徒労に終わってしまい、今に至る。


 ルチアナはわずかに空いていた扉の隙間から、じっと中を伺う。防音処理をしている為に、音はまるで聞こえていない。それは同時に、中の二人が部屋の外の音を聞き取れないことも意味する。覗き込んだルチアナは、中で行われている事情に目を奪われ、驚愕した。


(……!?え!?あ、あんな体勢で、あんな恥ずかしい、いやらしい格好で!?あんなに激しく!?あんなもので胸の先を挟んで痛くないんですの!?それに、あの口の丸い穴が開いた玉がついた革のベルトは……あれでは喋れないどころか涎が……!!そんな、あそこはお尻の……!?あんなに光悦とした、蕩ける様な幸せそうな顔であんなことを……)

「ネェさ……だめだこりゃ」


 扉に張り付き、食い入るように夢中で凝視するルチアナを見て、リムリスはもうこれ以上何を言っても無駄だと諦め、静かに部屋へと戻った。如何に実の姉とは言え、発見された際に巻き添えは喰らいたくなかったのだ。リムリスにとって姉であり同志であるが、一緒に死にたい程ではない。長時間の正座説教を、二度と受けたくなかった。


 しかしルチアナが説教されることはなかった。……扉は最初から僅かに開いていた。否、ナナクサが意図して、ユーディとの合意(・・)の元で開けていたのだ。全ては来るであろうルチアナに対して付け入る隙のないことを示し、痴態を晒すことでユーディを興奮させるためだった。


 この夜、ルチアナは新しい世界の扉を開き、悶々としたままベッドへ潜った。当然寝付けるわけがなく、一人で声を押し殺して致した結果、起床したのは昼に差し掛かる寸前だった。




*




 やんわりと朝日で部屋が明るくなり、目覚めと同時に失態に気づいた。


「水着洗ってねぇ……」


 学生時代、水泳の授業があった日は必ず水着を持ち帰るだろう。しかし、中には持ち帰るのを忘れる馬鹿もいる。その馬鹿の中には開き直って次の水泳の授業まで持ち帰らず、そのまま置いておくという暴挙に出る奴もいる。いくら塩素殺菌されている水とは言え、中途半端な温度で長時間放置すれば腐るだろうに。クラス一同全員がゴミを見るような目でそいつを見ていた。


 雑菌云々もそうだが、水着というやつは一度濡れれば再び着るのは難しい。過去何度か、正午を跨いで1日に二度市民プールで泳いだことがあるが、その際に濡れた水着を再着用するのは苦労した。冷たいし、水を吸って硬いし、身につける際のヒンヤリ感が気持ち悪い。パンツタイプでさえ苦戦したのだから、スク水タイプでどれほど苦戦し、どれほど不快になるか俺には想像つかない。


 と、いうわけで、ユーディを起こさないように、[抽出]して浮かばせた純水の水玉の中にスク水と褌を放り込み、そこに空気の渦を加えて洗濯機っぽく。さらに固形洗剤のかけらを投入して、泡立てる。


 ……ジローのやつ、ほんと色んなもんを残してやがるよなぁ。石鹸、洗剤以外にも、城に街に味噌に醤油に製紙技術に将棋、医学知に建築学……挙げても挙げてもきりがない。今の俺は人工……いや、神工チートだが、あいつは天然チートだからなぁ……。ジローの軌跡を追えばラノベ8巻分くらいの物語にでもなるんじゃないだろうか?……追えれば、だけどな。っていうか、8巻は8巻でも1冊300ページ超、外伝込みで3000ページくらいになりそうな気がする。


 それにしても……水流に舞う褌、時々スク水……。


「…………シュールだな」


 なんつーか、うん、シュールだ。


 その後、水を替えて2度濯ぎ、熱風の渦に放り込んで急速乾燥させて完了。褌は疑似アイロンがけまできっちりとしたいところだが、どうせまた濡れる。変なシミはないし、問題なしだ。


「んぅ……?」

「おろ、もうちょっと寝ていてもいいぞ?昨日はだいぶ激しかったしな」

「……おきる」


 ゴシゴシと目をこすり、欠伸をしてぐっと体を伸ばすユーディ。


「顎は大丈夫か?痛くないか?違和感とかないか?」

「ん、へいき……。ちゃんと動くし、ななにぃ心配しすぎ」

「そうか。……俺はちょいと朝の運動をしてくるが、どうする?といっても、散歩みたいなもんだけどな」

「ん……私も行くから、待って」

「はいよ」




 ユーディが着替えた後、髪に櫛を通し、尻尾をブラッシングする。お互いに身だしなみを確認した後、揃って宿を出た。


 散歩みたいなものと言ったが、ここダルエダの散歩は割と過酷だ。崖に面しているため、路地のほとんどが階段で構成されていて、所によっては家の屋根が通路になっていたりもする。そして高配が緩やかな階段もあれば、幅が狭く急な階段もある。浜まで降りて、また崖上の宿まで上がるだけでも相当な段数を上がらなければならない。いわば、魔王坂の階段バージョン1/2スケールだ。


 こうして探検気分で散歩するだけで、足腰に大分クる。新婚旅行に出てからは日課の鍛錬がおざなりになっていたこともあり、思った以上に早く足が悲鳴を上げ始めた。やはり筋肉は少し構わないだけですぐスネる。


「ここ、住んでる人……すごいね……」

「ああ……マジヤバい……」


 目先の下り階段を見れば、明らかにお迎えが近いであろうシワシワヨボヨボのじいさんがひょいひょいと軽快な足取りで階段を登っている。足腰だけで見れば、ウルラント精鋭兵を凌駕しているだろう。彼らはあくまで鍛錬の範囲で魔王坂ダッシュをしているが、対してダルエダ住民はこの階段路地の移動が生活に密着している。つまりごく普通に暮らすだけで、強靭な足腰になるのだ。


「……んぅ?ナナにぃ、あれ」

「どした?」


 突然、ユーディが海を指さす。視線を指先へと向けると……。


「なんだありゃ?」


 妙なシルエットのなだらかな島の様に見えなくもない何かが沖から浜辺へとゆっくり接近してきている。


 よくよく見れば、亀のような、しかし縁が妙に刺々しく、甲羅は黒色に近い。そこから首長竜のような長い首が海面に浮かぶように伸びている。その先の頭部には一対の真っ白な太く短い角、そしてワニのような長く大きな顎。甲羅から伸びているであろう四肢は完全に海水に浸かっており、ここからでは確認ができない。


 その存在に気づいたのは俺達だけでなく、朝から岸壁で釣りをする者も、これから潜ろうとする者も、小舟の上で釣り糸を垂らす者も、一様にその姿を注視していた。いや、小舟の上の釣り人は釣竿を放り投げ、オールを全力で漕いで浜へと戻っていく。


「どうした、若いの。何が見え……ひょええええええ!!」


 俺とユーディのところまで登ってきたじいさんは、注視していた何かを見て腰を抜かし、隙きっ歯をむきだしにして叫び散らかす。


「だ、大丈夫ですか?」

「か、か、か……」

「か?」

「海竜じゃーー……!!!」


 派手に唾飛ばすんじゃねぇよ、きたねぇ!!


 しかし、あれが?……いやちょっと待ってくれ、海竜ってのは、もっと沖の、水深が深いエリアが縄張りじゃないのか?


「間違いない!70年……いや60年前だったか、若い頃、釣り糸を垂らしておった時に一度見たことがある!一大事じゃーーー!!!はやく領主様に知らせんと!!!」


 じいさんは素早く起き上がり、とんでもない速さで階段を駆け上がっていった。


「元気すぎ……」

「ああ……」


 ……前言撤回。ありゃ死神も尻尾巻いて逃げるわ。エネルギッシュGさんの称号に相応しい。


「しっかし、妙だな。ありゃ泳いでるっていうよりは……」

「流されてる?」

「おう、それそれ。さっきのじいさんの1割のパワーもないように見えるんだが……」


 まさか死んでるんじゃないだろうな?……この距離じゃあどうにも判別できないな。


「ナナにぃ、近づく?」

「……行くか」


 さっきのじいさんは領主であるカスケイドさんへ知らせると言っていたが、体調を崩していて身動きがとれないはず。まともな指揮はできないだろう。加えて、竿を捨ててまで漕いで戻ってきた釣り人らの反応を見る限り、進んで近寄ろうとするものはいない筈だ。


 恐怖心か。海が生活に密接に関わるダルエダの住民にとって、海竜は海に住まう頂点の種、逆立ちしようがナニしようが太刀打ちできない次元の違う存在。そんな存在に恐れを抱かないわけがない。あるいは、ジローの船が沈められた出来事が伝承として伝わり、恐怖の存在としてひとり歩きしているのかもしれないが。


 問題なのは、このままでは漁獲量が減って魚にありつけなくなってしまう事だ。あれじゃあ素潜りも釣りもあったものじゃあない。早い話、街全体が飢える。=海の幸が食えない。俺もユーディも、まだまだ海の幸が食い足りない。退去なりなんなりしてもらわんとな……。


お読み頂き有難うございました。

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