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次元の最果で綴る人生~邪魔者⇒葬る~   作者: URU
大海の覇竜と赤の姫
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正座

 さて、この一連の騒ぎ、当然ながら領主の館の窓から、カスケイドと、その執事メットンも見ていた。ほぼ最初から、最後まで。


「…………」

「だ、旦那様?」


 密偵からの簡単な報告では、ナナクサと他4人が巨大な竜じみたの魔物とその軍勢を圧倒的な力をもって打倒したという。一介の料理人にそれだけの力があるわけがないと一蹴し、詳細な報告書を読むことなく放置していた。

 しかし、今目の前で起きた光景が、その報告が事実だと、そう考えざるを得ないものだった。


「メットンよ、もしナナクサが何かやらかしても、一切手を出すなと兵に伝えろ。あれは……常人の手に負える者ではない。うかつなことをすれば滅びる。それと、今すぐ金庫の金を数えなおせ」

「かしこまりました」

「いや、それよりも先にジョンスに釘を刺しておけ。あの思い込みが激しいバカ息子がもしナナクサの逆鱗に触れようものなら……」


 カスケイドには娘の他に二人の息子がいた。思い込みが激しく周りの言うことに耳を貸さないジョンス。対照的に、周囲の意見を尊重するウィダムス。

 実父であるカスケイドがバカ息子と言い放つほどに、ジョンスは愚かだった。自らを御伽噺の騎士に重ね、云われない冤罪で旅人を拘束・拘留など茶飯事。御伽噺の騎士に憧れ、しかもその上本人は自分が正しいと頑なに信じている。

 彼らに付き従う兵も哀れだ。ジョンスのしでかした後始末に奔走するのは決まって彼らなのだ。諌めようものならば投獄され、それをカスケイドが諌め、しかし聞く耳持たず。本人は自分が父の跡を継ぐと思っているが、カスケイドには全くその気はなく、むしろ……。


「……そろそろ、覚悟をお決めになってはいかがでしょうか?ジョンス様はウィダムス様が統治された後のレバンシュットには……」

「そうだな、無益にして不要、害悪でしかない……。奴の後始末でどれだけの利益が消えているのか……。良い機会だ、これで忠告を聞かぬならもはや息子とは思わん。その時は……」

「汚れ役も、執事の勤めでございます」

「すまぬな……甘やかしすぎたわしが、そもそもの原因だというのに……」

「わたくしも子を持つ父でございます。お気持ちは痛いほどに」


 メットンが自室より去ったのち、こっそりと執務室に行き、捨て置いた報告書を探しあさるカスケイドであった。彼らは知らなかった。愚息が既に虎の尾を踏み、命を散らしていることを。




*



ナナクサ視点


 とりあえず捕獲した姉妹をそのまま部屋に引っ張り、簀巻きにして正座させた。無論、床に直で、NO座布団。付着した砂はお情け半分で排除しておいた。部屋を砂まみれにされても困るしな。


「な、なんなんですの、この座り方……足が……ああああ……っ」

「も、だめぇ……」

「ただの正座だ。上に岩載せないだけマシだろうが」


 こんなもの俺にとっては拷問のうちにすら入らないが、正座文化がない外国人にとっては拷問に等しいという話をふと思い出す。……まあ、そんな事情知らんけどな。


「んじゃー、名前と出身と、身の上全部話してもらおうか。あと、あの箒の正体もな。途中で足崩したら、嬉しくて嬉しくて、何するかわかんねーからな」




 そんなわけで、手始めに身辺事情を洗いざらい吐かせ、次いで俺たちを狙った理由を吐かせたところで──


「このド阿呆が」


 俺の口からごく自然に、呼吸をするかの如く罵倒の言葉が漏れた。


 この二人、ルチアナとリムリスは海の向こうのヘイルドゥノー王国の王族で、政略結婚から逃れて、国宝をパクってここまで飛行してきて。そんで俺たちを敵対国であるマルディーン王国が自分たちへ放った刺客だと勘違いして、殺られる前に殺れの精神で奇襲したと。


「ナ、ナナにぃ、キれてる?」

「うん、超キれてる」


 キれる他ないわ。こいつら舐め過ぎだろ。多分今眉間に青筋浮き出ていると思う。ここまでキてるのは久しぶりの気がするな。


「ま、まだ正座してなくちゃダメ、ですの……?」

「ああ゛?そのまま座ってろボケ。そして悔いながら静聴しろ」


 俺は向かい合うように胡座をかき、頬杖をついて語り始めた。


「お前らな、まず王族ってのは国民から集めた税金で生かされて、贅沢できてんだぞ?なんでそれが許されるか、考えたことあんのか?王族が国の指導者で、国を導く為に不自由を強いられるからだ。体だけじゃねぇ。精神もだ。時には自分の心を殺して、非情の判断を下さなきゃならねぇ。それが王族に課せられた責務だ。

 それがお前らはなんだ?相手が気に入らないからって、散々贅沢してきた後で逃げ出すとか、国民を馬鹿にしすぎだろうが!なぁ?あれだぞ?馬鹿にもわかりやすく言うなら、贅沢させてきた飼い犬に手首噛みちぎられたようなもんだぞ?お前らそもそも自分で金を稼いだことあんのか?ねぇからこんな阿呆なマネできんだろうがよ?おぉん?汗水流して、時間を、寿命を犠牲に得た給金から税金払うんだぞ?税金ってのは国民の金であると同時に、国民の命だ。金の一銭は血の一滴だ。だから血税って言われんだよ。わかってんのか?ああ!?」




 1時間後──。




「大体お前らは短絡的すぎるんだよ?なんでウィルゲートに術士が、人間がいないって先入観を全肯定してやらかすわけ?俺がお前らに襲われるまでに視線が交わったのは2回だけだろうが。バカジャネーノ?始末するなら朝飯食ってる時点で始末されてると思わねーの?どんな教育受けてきたの?ねぇ馬鹿なの?馬鹿だろ?認めろよ?」




 さらに1時間後──。




「わたくしが悪かったです。救いようのない馬鹿で申し訳ありませんでした……」

「もう足が限界です~、後生だから許してください~」


 げっそりと半泣き状態になった。……このへんで勘弁してやろうかね。くどくど言いすぎて顎と喉がイテェ。のど飴が欲しいくらいだ。向こうに戻ったら作っておこう。店の持ち帰りラインナップに加えるのもありだな。


「んぅ、おなかすいた……」

「ぬぁ……そういやぁ遊ぶのに夢中すぎて昼飯抜いてたっけな……」


 今更ながらに空腹感が半端ない。腕時計を見て時刻を確認すると、既に8時を回っていた。


「まじか……これもう夕食時間過ぎてるぞ……しくったな……ちょっと待っててくれ。確認とってくる」

「ん、行ってらっしゃい」


 俺は食堂へと小走りで急ぎ降りていった。




*




「もう普通にしていいよ?」


 ユーディがそう言うと、リムリスとルチアナは足を崩して……動けなくなった。


「あ、足が……あぅああああ……」

「痺れて動けませんわ……」


 当事者ではないユーディには分かるはずもなかった。正座のしびれは経験者にしかわからない。


「生きているだけ、ありがたいと思ったほうがいいよ?もし仕掛けてきたのが街の中じゃなかったら、貴方たち塵も残ってない」

「「えっ」」」

「ナナにぃは敵には容赦しないから。貴方たちが生きていたのは、幸運」


 そう言うユーディの目は、空腹のせいか、少し不機嫌さがにじみ出ていた。


「ここに来る途中、昨日ね。盗賊が出たの。武器を持ったのが、6人。荷物と私を置いて行けって。その上ナナにぃを違法な奴隷商人扱い」

「……どうなったんですの?」

「ナナにぃが皆殺し。逃げられないように地面と足もろとも凍らせて固定してから、一人ずつ両腕を少しずつ氷のナタで輪切りにして、最後は氷の槍で蜂の巣。死体は全部灰にして、風に乗って消えた」


 聞いている間にルチアナ・リムリスは揃って顔面蒼白になった。ひと思いに殺さず、一人ずつじわじわと刻むことで後に殺される者に恐怖を刻みこむ。刻まれる側も、それを見せられ、抵抗すら許されずに待つ間の恐怖は計り知れない。ひとつでも間違えれば彼女らもそんな運命を辿ったのだろう。


「同盟調印時に定まった各国共通の法の一つでな。簡潔に言えば、『盗賊に人権はない』だ」


 いつの間にかナナクサがドアを開けて立っていた。


「ん、おかえり。どうだった?」

「おー、ダメだったわ。夕飯残り0。完売。閉店ガラガラー」


 両腕でバツ字を作るナナクサの顔には、空腹感がにじみ出ていた。腹のすき具合を自覚し、夕食の有無を確かめ、そして今、なかったことを報じる。自前で用意すれば食事にありつけるまで時間がかかる。それが空腹感を更に水増しさせていた。


「……どうするの?」

「厨房は借りられたからな。馬車から食材下ろして作るわ。のんびり待っててくれ」


 馬車には野菜類と、初日に確保していた魚が何匹かが時間停止状態で放り込まれていた。残っている野菜と、疲れた体への消化吸収、以上の観点から、ナナクサは夕飯のメニューをつみれ汁にしようと決めた。


「手伝うよ?」

「無理しなくても──」

「手伝う」


 体が小さく、自身よりスタミナが厳しいユーディを気遣ってのことだったが、彼女にとってナナクサとの料理は、日々の楽しみの一つなのだ。確かに疲弊していたが、それはナナクサも同じ。故に、彼女の中で手伝わないとういう選択肢は最初から存在していなかった。


「あー……んじゃ、俺の代わりにこのバカ姉妹に拷問してやれ」

「「ひぇ!?」」


 ルチアナ・リムリスはなんでそうなるのか理解不能だった。そしてすぐさま揃って気づく。まだ途中だったのだと。


「んー……具体的にどーすればいいの?」


 ユーディの問いに対してナナクサが口を開き答える間は数秒だったが、ルチアナとリムリスにとって、人生で最も長い絶望に満ちた数秒だった。


「つついてやれ。足をな」


 そう言って、ナナクサは足早に部屋を出ていく。正座で痺れた足をつつく──それは正座の痺れを知るものにとってまさしく拷問だ。が、知らないユーディにとっては、拷問かどうか甚だ疑問だった。


「や、やめ……!」

「今つつかれたら……!!お願いですからっ!!」

「…………」


 ルチアナとリムリスの間に無言でしゃがみこみ、少し横に崩した足を容赦なくつつく。


「「ひひゃああああ!!」」

「……?」



つんつん



「あひぃいいい!!」

「くぁぅああああ!!」



つんつんつん



「ひひゃうぁぁあああ!!!」

「ああああああーーーっ!!!」


(なんだか楽しくなってきたかも……)


 ドSの気持ちが少しわかったユーディだった。


 その後、宿に二人の嬌声が響き、何事かと宿泊客や従業員が覗きに来たが、少女が姉妹の足をつついているだけだったため、特に止めるどころか、叫ぶ二人に対して「つつかれているだけで騒ぐな!」「うるせぇ!!」「追い出すぞ!!」と罵られ、涙目で声を上げるのを耐える事になった。



お読みいただきありがとうございました。

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