表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
次元の最果で綴る人生~邪魔者⇒葬る~   作者: URU
大海の覇竜と赤の姫
72/512

不意打ちの価値

いつもより1日早いですが、置いておきます。

 この後、水を掛け合ったり、ユーディの泳ぎの練習をしたり、水中を綺麗に見えるよう空気の膜で目を覆って潜ってみたり、色々と遊んだ。

 そうして天辺まで昇っていた太陽が傾き、雲が増えて暗くなり始めたころに上がることにした。


「楽しかった……!」

「ああ……。しかし、こんなに楽しんで泳いだのは何年ぶりだろうな……」


 泳ぎを覚えたての頃は楽しかった記憶はあるが、年を取るにつれて泳ぎに対するそんな感情は消えていった。

 ああ、これが海に遊びに行く奴らの心境か。なるほど、この年になってようやく理解できた。


 若干濡れている自分の両腕を改めて見ると、泳ぎ始めと比べさほど肌の色は変化していなかった。

 思ったほど焼けていないな。まあ、日焼け止めなんていう高尚なものがない以上はいいことではあるが。


「んぅ、べとべと……中に砂はいってる……」


 スク水の胸元をつまんでのぞき込むユーディ。……たぶん俺のフンドシの中も細かい砂であふれているのだろう。


「さくっと取り除いて、軽く体を流そうか」


 いくら透明度が高い海とはいえ、海水は海水だ。流さない理由にはならない。


「ナナにぃ、砂は私がやってみる。[抽出]──砂!」


 俺とユーディの体表とスク水・褌から砂が集まり、ユーディの手元に玉状に集まった。それをぽいっと海に向かって放り投げる。が、距離が足らず、砂浜に落ちて砕けた。


「むぅ」

「流石に力不足だな。んじゃ、次は俺だ。[抽出]──純水」


 頭上に直径2mほどの水玉が即座に出来上がり、そのまま静止している。流石海岸ということあって、集まるのが早い。ユーディが耳を押さえたのを確認した後、それを少しずつ流し体を洗っていく。


「ぷは……」

「プルプルっ」


 まあ後は宿に戻って体を拭いて、夕食後に改めてきっちり体を洗おう。流石に水で流しただけで終わりにはできない。


「へくちっ」

「ぶぇくしょぃ!」


 が……思った以上に風が出てきて冷える。揃い揃ってくしゃみが出てしまった。これは少々宜しくない。冷え対策に体周りの温度を維持する[ヒートコート]を使った。



--------------------

ヒートコート

 干渉系中位火術。

 対象の周囲を一定の温度に保たせ、熱・冷気によるダメージを軽減する。

--------------------



「どうだ?」

「ん、あったかい!」


 うむ、マジあったかい。これなら移動中に体も乾くだろう。感覚としては、暖かい空気のコートを纏っているような感じだ。

 ……ただ、快適と言えば快適だが、常時かけっぱなしでは体温調整がバグッてしまう。夏場にエアコンをガンガンかけて体調を崩すような感じに近く、あくまで必要に応じた運用に留めなければならない。


「よし、それじゃあ戻……ッ!!![サンドウォール]!!!」


 言いかけて、俺は反射的に[サンドウォール]を正面に展開。ユーディを抱きよせた。



--------------------

サンドウォール

 障壁系下位土術。

 地面より砂の壁を一時的に生成する。

 生成された壁は耐久上限を超えるか、壁内に残留する魔力が尽きる事で分解される。形状は形成時に魔力を追加消費することで任意で変更可能。また、任意で解除も可能。

--------------------



「ナナにぃ!?」


 直後、砂壁越しで熱が襲い掛かった。砂壁の左右から炎が漏れている。どうやら火術をぶち込んだらしい。一体どこの馬鹿だ?


 熱が感じられなくなった頃合いで[サンドウォール]を解除すると、眼前には朝食時に遭遇し、以降物陰からこちらを凝視していた亜麻色の瞳と藤色の髪の姉妹が手をかざし、睨みつけていた。


「さすがアオビトの魔法使いっ。わたくしのメギドフレイムを防ぐなんて……!!」


 アオビト?このアマ何言ってやがる?っざけやがって……!


「何のつもりだ?人がいい気分で浸っているところを邪魔しやがって……ぶち殺すぞこのクソアマ」

「むぅ……!!ひどい!!」


 俺もユーディも流石にお冠だ。今の火炎は、常人なら間違いなく灰になっている代物。[サンドウォール]と[ヒートコート]越しでも十分すぎる熱を感じたし、濡れていた体がきっちり乾いてしまっている。奴は間違いなく、過去にぶち殺したワグナー以上の術士だ。なら……こちらも相応にやってやろう。殺すつもりの攻撃を受けて、ニヘラニヘラと笑っていられるような阿呆じゃあない。


「ネ、ネェさま!!やっぱりあの人は違うよ!?」

「ありえませんわ。見たでしょう、あの二人の魔法。アカビトにできる代物ではありません。ここでやらないと、やられるのはわたくし達ですわ」

「だとしてもおかしいよ!?なんで(・・・)獣人(・・)とあんなに(・・・・・)密着(・・)できるの(・・・・)!?」

「些細なことですわ!!」

「あーもぅ……わかったよぉ!」


 口論に近いやり取りの後、、姉の方が第二波を放とうと詠唱を始めた。そして妹の方も詠唱をはじめる。


「姑息な手ェ使いやがって……」


 俺とユーディの術は殆どが殲滅型──要するに広範囲を超威力で殲滅するタイプだ。で、姉妹は街を背に陣取っている。こちらからでかい術をぶち込めば、街もろとも巻き込む結果になるのは明白だ。

 仮に圧縮空気弾をぶち込んで回避されようものなら、崖に面した市街地のどこかに弾丸がぶち込まれる。つまりこいつらは街の住民を盾にしているのだ。流石にそれはまずい。けが人が出ようが出まいが、他国(・・)の住宅地に攻撃をぶち込んだという事、それ自体がまずい。


 ウルラントに籍を持つ以上、俺達は魔王領住民だ。ここで無関係な周囲を巻き込んで死傷者を出すようなことをしでかせば、間違いなく外交問題にまで発展するだろう。それだけは回避しなければならない。だが、だからといって死んでやる理由なんてどこにもない!!!


「離脱するぞ!!正面任せる!!」

「んっ!![成形]──砂壁!!」

「[成形]──氷壁!!プラス砂壁!!」


 ユーディが前方2m先に[サンドウォール]を模倣して分厚い砂壁を[成形]。俺はその砂壁の少し後ろに分厚い氷の壁を[成形]。さらにもう一枚、今度は氷壁に密着するように砂壁を[成形]した。


「──────[エアロブラスト]!!」


 直後、相手妹の声が壁向こうから響く。海へと砂を大量に含んだ暴風が吹き抜けた。


「ほぼ読み通りだが、なんて威力だ……!中位風術でこのレベルかよ!」



--------------------

エアロブラスト

 放射系中位風術。

 対象方向へ暴風を持続して放射する。

 毎秒放射量は消費魔力に比例し、放射を続ける限り消費も持続する。

--------------------



 壁周りの砂浜がごっそりと削れて無くなっている。姉妹揃ってとんでもない術士だ。


「──────[メギドフレイム]!!」


 続けてさらに炎が襲う。砂壁の一層が崩壊、氷壁に直撃し、広範囲に渡って水蒸気が充満した。

 水蒸気は俺達と姉妹をもろとも飲み込み、視界を真っ白に染め上げる。


「くっ……なんですの!?」


 ただの目くらましだ。すかさず[アンチグラビティ]をかけてユーディと共にふわりと静かに跳躍。水蒸気の一帯から飛びぬけた。ふっ、まさか空を飛んでいるとは思うまい。


「うわ……ギャラリーめっちゃいる……」


 何事かとこちらを見る大勢の住民達。俺達を見てあんぐりと大口を開けている。

 そりゃあそうなるよなぁ。術士同士のドンパチなんて、そうそうあるもんじゃあない。おまけに片方が飛んでいる。それも、片割れがほぼ裸のフンドシ野郎だ。良くも悪くもとんでもないインパクトだろう。心中お察しします。


「ねぇ、あそこに雷落としたら、終わりかも」


 ユーディが指差す方向は、ついぞ先ほどまで俺達がいた水蒸気のモヤだ。


 ……あー、そうか。水蒸気を帯電させるのか。確かに感電させて終わりだな。後ろを取って水蒸気ごと氷で圧殺するよりスマートなやり方だが……でもなぁ……。


 冷静になってきた頭がパチンパチンと算盤を弾き始め、弾き終える頃には脳みそが完全にクールダウンしていた。


「いや、ぶっ殺さずに情報がほしい。あの姉妹は少なくとも、ウィルゲートの住民ではない。つまり、別大陸の情報を得るまたとない好機だ。それによくよく考えるとだ。こんな所で死体を作れば、明日と言わず今日から滞在できなくなっちまう。出禁案件には十分だ」

「あ……確かに……」


 言われてユーディも理解したらしい。一番の問題は、死なない程度の電撃に調整して撃てるかだ。手札の[スパークボール]では足らんだろうし、[スパークリングノヴァ]じゃあオーバーキルも間違いなし。針穴に糸を通すような精密さは今現在持ち合わせていなかったりする。


 いっそ諦めて殺すか?いや、海竜族が存在するために遠洋航海ができない以上、外の情報は希少にして貴重。うまくすれば、俺が持ちあわせていない技術も搾り取れ────




 ちょっと待て。




 遠洋航海ができないんだったら、あの姉妹はどうやってここに?仮に海竜族が存在しなかったとしても、これだけの海を小船で渡ることは無理だ。少なくとも帆船、十分な糧食、そして水夫がいなければ不可能。帆船も水夫も確認はできない。


「まさか……」


 脳裏によぎった一つの可能性。ありえない。必要に迫られたとしても、俺でもやる気になるかどうか分からない無謀な行為に近い。だが、そうとしか考えられない。


 その可能性を肯定するように、水蒸気の中から一本の箒に並び腰掛けた姉妹が突き抜けて上がってきた。


「まーじか……」


 予想は当たった。この姉妹は飛んで横断してきたのだ、水平線の彼方が霞むこの大海原を。


「ど、どうしてアーティファクトもなしに飛べますの!?」


 どうやら、俺達を追って飛んだわけではなさそうだ。耐えかねて離脱したってところだろう。


「俺としては、箒で飛んでるお前らの方がいろいろおかしい」


 絵本の魔女じゃああるまいし。ま、俺が褌でユーディがスク水の時点で一般論ではどっちも大概だろうけどな。


「まさか、あの子の首輪がアーティファクト!?」


 いや、アーティファクトってのが何か知らんけど、これ俺のお手製よ?劣化しない以外に何の特殊効果もないよ?強いて言えば愛がこもっているとしか……。


「これ、ナナにぃの愛の証。大事なもの」


 あーもう……!そんなこと言われたら今晩激しくなっちまうって!!


「ネェさま!だからあの人はアオビトじゃないって!!」

「だったらそれ以外になんだって言うんですの!?」


 ……なんか、根本的に噛み合っていない気がする。所謂あれだ。滑稽なピエロの演目に巻き込まれたような感がしてきた。


「なー、ユーディ。まだ怒り心頭か?」

「……ナナにぃと同じ。割とどーでもよくなった」


 そう、もうどうでもよくなってきた。しかし、お仕置はしなければなるまいよ。街の中で殺人火炎をぶっぱなしてきたんだ。勘違いでしたごめんなさい、で済ませる気は毛頭ない。命を狙われたのは紛れもない事実なのだからな。ごめんで済むなら警察はいらない。


 しかし興奮冷めた現在、敵とは言えこれ以上殺して(・・・・・・・)血濡れの新婚旅行(ブラッディハネムーン)を確たるものにするのは憚られる。


 ……よし、奴らには精神的責め苦を与えてやろう。快楽とは程遠い、苦痛のみを。魔力のストックは潤沢だし、[アンチグラビティ]も発動式を改良して燃費を下げたし、やれるはずだ。


「おい、クソ姉妹」

「く、クソ!?」

「ボクは男だよ!?」


 あーそうなん?……いやいや嘘だろ、どうみても胸が控えめな美少女だろ?騙そうったってそうは問屋が卸さんよ?そんなアイドル顔負けの可愛い顔して何を言っているんだ?説得力皆無だ。……ま、いいや。


「ゲェムをしよう」

「「は?」」


 ま、そういう鳩豆鉄砲顔になるよなぁ。だが、その顔はもうさせねぇ。


「先行する俺達に追い付ければ……そうだな、俺に触れればお前らの勝ち。お前らには何もしないし、俺達は今日中に、いや、勝負後30分以内にこの街から去る。で、俺達はお前らの後ろを取って一発入れれば俺らの勝ちだ。もちろん互いに遠距離攻撃は無し、直接接触のみだ」


「そんな提案飲むと思っていて?」


 俺は口元を歪めて構わず話を続けた。


「信用できないか?いやいや、別にいいんだぜ?このまま攻撃を続けても。俺達は一切反撃しない。が、避けて流れ弾が住宅地にぶち込まれて、お前らがこの大陸で指名手配されて、捕まって死んだほうがましな辱めを受けてさらし首になっても、俺は一向にかまいやしねぇ。俺達は痛くも痒くもない。お前らだけがお尋ね者だ。

 仮に俺達にも責任があるといわれようとも、それなりのバックと、それなりの金、そしてそれなりの地位がある。まァ、少々痛手を被るが、消せない痛みではない。ここがどういう場所か知っているのならば、この大陸に生まれ持って空を飛べる種がいないとは思ってないだろう?」


「う……」


 顔を歪ませ、言葉を詰まらせる姉。ようやく、ここがどういう場所か分かったようだな。今、どちらに非があるかと言えば明らかに向こう。博打紛いの飛行で海を超えてこっちに来るくらいだ。元の大陸で何かやらかしていることくらい、想像するに容易い。


「こっちの処刑は石打ちと絞首が主だからな。ほとんど石打ちだから悲惨だぜ?ひと思いに死ねず、じわじわとなぶり殺しにされるのは。猿轡で舌を噛み切ることすら許されず、ただただ的になって血まみれになっていくわけだ。地で土を赤く染めながら、自分の体が冷たくなっていくのを存分に堪能しながら死んでいく。抗うことは許されない。泣こうが叫ぼうが喚こうが、な」

「ネ、ネエさまぁ……」


 む、ちと脅し過ぎたか、妹の方が涙目だわ。


「……貴方たちが勝った場合はどうなるんですの」


 わざとらしく口元をにやりと歪め、可能な限りの邪悪で満ちた暗黒微笑で言い放った。


「死んだほうがましな拷問をしてやろう。石打に及ばない程度の拷問を、姉妹揃ってその魂に刻み込んでやる」


 その言葉を最後に、ユーディは俺の背におぶさる。


「ゲェムスタートだ!!追いついてみせろ!!」


 ぎゅっとしがみついたのを確かめると、全身に圧縮空気の防御膜を[成形]し、さらに空高くに翔け上った。

お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ