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次元の最果で綴る人生~邪魔者⇒葬る~   作者: URU
大海の覇竜と赤の姫
71/512

娘が俺に○○○○をプレゼントしてきたんだが

 それから二日後、何事もなく俺たちはレバンシュット領海岸の街ダルエダに到着した。

 ダルエダは街の半分が崖に面する形で出来ている。崖の上に領主の館の他、商会や宿等の商業施設が。そして崖を覆うように石造りの住居が縦横に並んでいる。

 その下には砂浜と、カヌーのような小舟が無数に上がっていた。海を見れば、小舟から釣り糸を垂らす者が多い。視線を砂浜に戻せば、網と銛を持って海に潜ろうとする者もチラホラと見る。彼らは一様に、ショートパンツのみか、あるいはそれに加えて胸にサラシを巻いていた。


 そんなダルエダの朝の風景を、崖上に建てられた宿屋の一室からユーディと並んで一望していた。


「のどかだ……。そんでもって、あっつい……」


 9月だというのに、真夏のごとく暑い。俺は知らなかった。沿岸部は季節の巡りが遅く、まだ真夏日が続いているということを。なもんだから、今の俺は水色半袖Yシャツにジーンズというラフな格好だ。この気温と湿気で長袖を着る気にはなれそうにない。


 到着した昨日にうちにこちらの領主の館には出向いたが、領主であるカスケイドさんは体調を崩して伏せているらしく、会うことは叶わなかった。馬頭なだけに、不純物(ハイ)を取り()除いた(ーシ)不純物(ョン)飲んでゲロってしまったのだろうか?そんな光景しか頭に浮かばない。大事無ければいいんだが……。


「ナナにぃ、食堂いこっ!」


 シャツの裾を引っ張るユーディも、水色の肩出しワンピースを着て、髪をポニーテールにまとめている。涼しげな色合いがいい感じだ。……色合い的に額の黒曜石と首輪が余計に目立つが。


「ああ、行こうか」




 そんなわけで、食堂に降りて朝食をとることにした。流石、主食が魚というだけあって、朝から焼き魚が出てきた。皿の上に、名も知らぬ魚が、ドンッと丸焼きで。


 実はこの朝食が、ここに来て初めての魚だ。昨晩の夕食では魚が出なかった。給仕の娘さん曰く、人数分の魚を確保できなかった為、確保できた分を朝食にまわして備蓄分の小麦と野菜を使ったそうだ。


「おおぅ」


 久方ぶりの焼き魚だ。勝手にヨダレが溢れてくる。隣に座るユーディは、興味深々に見て……。


「目が合った……」

「気のせいだ。そいつは既に、死んでいる」


 ……意図せず五七五になってしまった。

 おっかなびっくり。まあ、ギョロッと飛び出た白目にビビるのはしょうがない。それにしても……。


「処理が荒いな」

「処理が荒いですわね」

「「荒い?」」


 む、俺とユーディのセリフが誰かと誰かに被った。気になる奴はやはり気になるのだろう。


「ほらよく見ろ。ここと、ここと、ここと、ここと……結構鱗が残ってる」

「このまま食べれば、ちょっと口の中がひどいことになりますわ」


 そう言って俺は、自前の箸で鱗を引き剥がし、つまんでみせる。鱗は割と大きく、透明度が高く、固く、薄い。無警戒に飲み込めば大惨事間違いなしだろう。刺さるのではなく、喉の通過時に切り裂かれそうだ。あと多分、飲み込んだところで消化できない。

 ……ヨダレが引っ込んで代わりに冷や汗が出てきた。喉に骨が引っかかり、痛みのあまり夜間診療の担当病院を探し、骨が見つからなかった上に高い金を請求されたのは苦い、いや、痛い思い出だ。


「まあ、いただこうか」

「んっ」


 そんなこんなで、マイ箸でカワを剥ぎ、身を分ける。カワまで食べられる種類かどうかもわからないし、鱗がついている以上、排除が懸命だ。まあ、こうも荒いということはコイツのカワは食えないと思ったほうがよさそうだ。


 こういう細かい作業は箸の専売特許。小骨が少ない種なのが幸いだ。ユーディはまだ箸の扱いに慣れていないから、俺が剥いたものを食べさせることにした。


「ふむ……この魚、オスか」


 身を分けていると、腹に卵を抱えていなかった。

 魚のオスとメス、どちらの身が美味いかと問われれば、答えは間違いなくオスだ。魚類のメスの場合、卵に旨みが行っているせいで、オスに比べ身の味が劣ってしまう。

 しかし、豚や牛などの食肉の場合、美味いのはメスの肉なんだよなぁ。オスだと去勢しなければ臭みが残るし、肉質が固い。卵性と胎生でこうも違うのは、これも一つの生命の神秘なのだろう。多分。


「ほら、あーん」

「あーん……んっ……おいひ……!」


 咀嚼するユーディの表情が綻ぶ。俺も身を口に運び、咀嚼する。

 ……ああ、これは確かにうまい。脂の乗った身に、舌の上で広がる凝縮された魚と潮の味。長らく食べていなかった、海の肉、魚っ!!


「くぅぅ……旨いっ!!」


 単に焼いただけ。だがそれは魚の調理において、最も原始的で、それでいて完成された、魚本来のもつ味を十分に堪能できる調理方法だと俺は思う。


「美味ですわ……処理の甘さを差し引いても、これはすばらしいとしか言いようがありませんわね」


 ああ、誰だか知らないが完全に同意だ。久方ぶりの魚ということを差し引いても、十分にお釣りがくる旨さだ。しかし……これはなんという魚なんだろうか?俺の知識にないあたり、こっちの世界の固有種なんだろうが……。


「もっと食べさせてー」

「ああ。……けど、ちょっとは自分でやってみような?ユーディのマイ箸持ってきているし」

「んぅ……難しそう」


 その感想はもっともだ。食べ方が、いや、やり方が悪いと、本当に皿の上が汚くなる。だが、個人的には最も箸使いの上達する料理だと思っている。


「コツを教えるから、な。そうしたら、今度は俺に食べさせてくれ」

「んっ、頑張ってみる。だから、あーんっ❤」

「やれやれ……噛む時は慎重にな」


 しかし、先程からの声は……と、あーんさせつつ声がした方向を見ると、隣の席にひときわ目立つ姉妹(・・)がいた。どちらも亜麻色の瞳に、藤色の髪だ。


 姉の方は長い髪に、白を基調とした露出度が高い金の星と青いリボンの装飾がされた魔法使いのような服。()の方は姉より短めの髪に、黒を基調とした露出のない銀の星の装飾がされた同じく魔法使いを思わせる服。ナイフとフォークで苦戦しつつ焼き魚を食べている。種族は……何だ?


「ナナにぃ?」

「ん、ああ、すまない。ほい、あーん」

「あーんっ❤」


 向き直り、ユーディの口に身を運ぶ。妙だな。ケモ耳もケモ尻尾もなかった。いや、それどころか何れの種の角や羽等の身体部位の特徴がまるでなかった。いや、そもそも、服飾の凝り具合がウィルゲートの一般水準を超えている。あれはまさか……。


「人間ですの?」

「人間か?」


 お?


 思いがけず、互いに顔をわせる形になった。


「っと、失礼。貴方達も人間なのでしょうか?」

「……貴方も?」


 も、ということは彼女らは人間だということだ。この世界で初めて遭遇した同種族ということになる。……が、あからさまに警戒されている。いやそりゃそうだな。当たり前だ。


「今度は私の番。あーんして」

「お、おお。あーん」


 いかんな、新婚旅行で他の女に目を向けるのはいかん。その気がなくともユーディにとっては気分がいいものではないはずだ。


 ……ああ、それにしても魚うめぇ。


 魚を咀嚼していると、なにやらとなりからぶつぶつと声が聞こえてきた。


「まさか……から追っ手?それともアオ……?」


 あまりに小さい声だったため、その全てを拾うことはできなかった。まあ、俺には関係のない話だろう。たぶん……。




 それから時間をかけて魚をすべて平らげ、自室へと戻り、例の紙袋を開けることにした。

 中身が予想通りならば、泳ぎに行くつもりだ。正直、この暑さは泳がないとやってられない。部屋の空調を氷術で下げることもできるが、極端な温度差は体に大きな負担がかかってしまう。俺はともかく、ユーディが自律神経失調になりかねない。


「中身、もう予想付いてるんだよね?」

「ああ、おそらくは水着だ」

「水着?」

「リラがこっちの気温のことをシルヴィさんあたりから聞いていれば、な」


 紙袋の重量と柔らかさからしてまず間違いないだろう。


「水着って、何?」

「……そこからか」


 俺はユーディに水着のこと、そして普段の着衣のまま水に入るとどうなるかという危険性を説いた。まあ、ここの住民は極力布面積を抑えるようにしているようだが……水着がない以上はそうするのが自然だろう。


「まずは出してみようかね」

「ん」


 そんなわけで、紙袋からブツを出すことにした。まず出てきたのが、紺色の……………おいィ。


「旧スク水とかマニアックなモンを入れるなよ……」


 旧スク水だった。所謂旧型のスクール水着。尻尾を出すための穴もきっちり空いている。2世代前の、水抜きのあるスカートのないタイプだ。

 ここで忘れかけていたことを思い出す。リラの知識の大本は薄い本からだということを。もう何度忘れ、何度思い出したかもわからん。


 スク水をユーディが手に取り、伸ばしたりして感触を確かめている。


「結構、伸びる?」

「特殊な生地を使っているからな」


 って……ちょっと待て。俺の記憶が確かなら、スク水にはポリエステルが9割以上使用されているはずだ。残りはスパン……なんだったか。スパンキング?じゃないな。思い出せん。この際名称はどうでもいい。あいつはどうやってそんな素材を用意したんだ!?


 ……いや、もう今更か。考えてみりゃ、たまーに素材との整合性が取れない衣類がいくつかある。何らかの特殊な力で存在しないものを作っているのかもしれないな。リラならそんなことが出来ても不思議じゃない。それで納得できてしまうあたりが……なぁ。


「ん、後これはいってた」


 と、ユーディが俺の手の中の紙袋から、俺の分の水着を引っ張り出し…………おいィ。本日二度目のおいィだよ。


「長くて白い……タオル?」


 違う……違うぞユーディ。タオルにしちゃ長すぎるだろ?隅っこの紐がおかしいだろ?


「それはな…………フンドシだ。正確には水着じゃねぇ」


 まじかー……。うちの娘は俺に褌を強要するのか。まじかー……。




 きつく締めて、海岸まで行きました。

 おお……なんたることか。この食い込む感覚、照り付ける日差し、肌をじりじりと焼き焦がす刺激が……。


「やっぱないわー……」


 どう見たって裸一歩手前じゃないか。そりゃあこれで肌がこんがり焼けていりゃあ、『THE・海の男』だろう。焼けていりゃあな。


「周りと大差ない、よ?」

「…………言われてみれば確かにそうだな」


 尻の肉と太腿がフルオープンになっているかどうかの違いだ。まあ、若干注目が集まっているのは……うん、仕方がないだろう。俺らよそ者だし、な。どう見てもこれから漁に出るという風でもない。


「…………」


 ふと、ユーディを見ると、じっと波打ち際を凝視していた。


「なんか……怖い……」


 は?


「もしかして、波が怖いのか?」

「こっちに来て、戻って、またこっちに来て、たまにおっきくて……生き物なの?」


 そう問いかけるユーディはちょっと涙目だった。


 あー……まあ確かに、視界一杯にひろがる大量の水だけでも初見のインパクトはでかいのに、にもかかわらず寄せて引く意味不明の波。確かに怖いと感じるのもやむなしか……。


 なので、波の原理を説明。……あまり理解してくれていないようだったが、起こる原因があることは解ったらしく、恐怖感は薄らいだようだ。


 入る前に、キッチリ準備体操をして体をほぐしたが、やはりこれも無駄に注目された。そりゃあそうだ。何も知らない側からしたら、『意味不明の謎の踊りをする全裸まがいの謎の男』だ。下手をすれば謎の儀式に見えることだろう。文面だけ見るなら通報モノだ。事案だ。文化の違いって怖いわ……。



 閑話休題。



 まずは手を繋いで波に慣れるところから始め、徐々に深いところまで行った。といっても、今日のところはユーディの腰より少し上あたりまでだ。まずは慣れるところから。ボロいプールでの初めての水泳授業を思い出すなぁ……。


「つめたくてきもちぃ」

「だなー……」


 透明度が高く、水面を見れば足の指先がゆらゆらと映っている。CMや旅行代理店で見る南国の海のようだ。

 指先程の小さな魚がじゃれつくように俺たちの周りを泳いでいる。生まれたばかりの稚魚なのだろう。


「あ、そうだった。泳ぎ見せて?」


 ……あー。そういやぁこの間風呂場でそんなこと言ってたな。っていうか、それが発端だったっけ。


「構わないが……手、離しても大丈夫か?」

「これくらいのとこだったら、だいじょーぶ」


 慣れるの早いな、と、思いつつ、ゆっくりと手を放す。ここで周囲を確認。


 まず周辺に食用になるほどの魚はいない。次に、釣り人はすこし沖の船の上と、砂浜向こうのそれほど高くない岸壁……ん?岸壁に面して作られた街並みに視線を向けると、何やら物陰に隠れてこちらをじっと見る4つの亜麻色の瞳。朝食時のあの姉妹か。

 はっ!まさかこれがいわゆるストーキングとかいう奴か!?……んなわけあるか、阿呆め。俺なんざストーキングしても利はあるまいに。


 とりあえず、派手に泳いでも問題はなさそうだが…………バタフライだけは控えよう。無知な側からすればあれは奇抜すぎる。俺の褌スタイルも合わせれば魔物扱いされかねないしな……。

お読みいただきありがとうございました。白フンドシは男の正装。

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