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サバイバルは続く

 ある程度日が昇ったところで、俺達3人は起床し、行動を開始した。


「久方ぶりの水は心地良い……。ナナクサ殿、感謝致す」


 地面から抽出した水をグレンの背にかけていく。本来沼地に住まうリザーディアであるグレンの体表は、ひどく乾燥していた。よくわからんがほっとくのはやばい気がしたので、こうして水をかけている。土に水が染み込む→抽出→染み込むの繰り返しである。

 しかし……尻尾長いな。この尻尾自体振り回せば立派な凶器だ。よく見れば細かい傷が一段と多い。やはり実際凶器として使ってきたのだろう。


「ジーク、どうだ!何か見えるか!」


 木の天辺によじ登って周囲を見渡すジークに問いかける。俺が登ると折れそうだからやめておいた。昨日の肩車で高い所の耐性がついたらしく、喜々として登っていったのは成長目まぐるしいと喜ぶべきことなんだろう。


「ダメダ、ナニモミエナイ」


 返答は無情だった。


「さて、どうするか……」


 このまま進路をあの雪が積もった山に向けて進んだとして、食料は得られるだろうか?りんごは後6個。切り詰めて2日、か。幸い痛む気配が全くないし。うん、おかしいと思うが、深く考えないことにする。


「兎、いや、この際ねずみでもなんでもいい。食えそうなやついると思うか?」


 ジークは周囲を見渡す。じっくり、丹念に……。


「イナイ」


 抑揚のない、冷静な言葉だった。

 ……こりゃ水だけでもたせる日がくるかもしれないな。


「一応、薪作っておくかね……」


 目に見える範囲で木が生えていないとなれば、火種が必要な場面で重宝することになるだろう。




 かくして、飯を訪ねて三千里な旅が始まった。リュックに詰められるだけ薪を詰め、ジーク用に新たに木製バットを作成した。名づけて、[ゴブリンバット]!ちなみに切出した木は、丸坊主の柱のような有様になってしまった。しょうがないな!うん!



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ゴブリンバット

分類:鈍器

威力:F-

強度:F

木製の棍棒。威力も強度もとても頼りない。それでもジークの立派な相棒だ。

--------------------



 そのジークは周囲を忙しなく見て、懸命に獲物を探している。飢えを知っているからか、表情から必死さがにじみ出ている。


「ジーク、どうだ?」

「ダメダ、ウサギ、スアナ、ナイ。アシアト、ナイ」


 確かに、土が固く、水分がろくに含まれていない。植物も先の草原に比べると、露出した土と草の比率が逆転している。ぶっちゃけ何も生えてねぇ。虫もなにもいねぇ。というか、生命がいねぇ。こんな場所に巣穴を作るウサギなど、自殺願望の異端者としか言えないだろう。


「ひどい土地だ……」


 ぽつりとグレンがつぶやいた。そうか、彼にとってこういう、水分がろくにない土地は初めてか。いや、グレンだけじゃない。俺もジークも、初めての場所なんだ。……土地勘なし地図なしって、詰んでね?

 今からでも戻って、1日かけてウサギを狩り尽くすくらいとって、煙で燻して燻製にして準備万端にしたほうがいいのか?だが仮に戻ったとして、獲物が取れる保障もない。そもそも、道中仕留められたのがあれ1羽だけだったのだ。進むも引くも、どちらも博打だ。こんな時にグラ賽かシゴロ賽に相当する何かがあれば……。




*




 俺達は3日間歩き続けた。手元のりんごは既に底を尽き、体の水分も十分とは言えない状態だ。

 今なお現在進行形でペットボトル片手に水分の[抽出]を行いながら進んでいるが、一向に貯まらない。この周囲、根本的に水分が存在していないのだ。おそらく後一歩水分が無くなれば、この周囲は砂漠となって───いや、実際にもう砂漠と言ってもいいだろう。

 そんな、肉体的、精神的にも限界が近づいていたときのことだ。


「む?」

「ナナクサ、ナナクサ」

「2人ともどうした?」


 日中は無駄に喋るだけで体力を消耗し、口内も乾燥することから、主に言葉を交わすのは日没後と決めていた。なんの理由もなく呼ぶとは思えない。


「トリダ」

「相当に大きな個体のようです」


 トリィ!!


 はっと上を見上げると確かに、大鷲のような鳥がぐるぐる旋回していた。太陽光でよく見えないが、確かにいる。太陽をバックにって、お前はどこの飛空挺乗りだよ!!


「ははっ!獲物が来たぜ!!よしきた撃ち落すぞ!!」

「ドーヤッテ?」


 その一言で俺は正気に戻った。手がないのだ。高すぎる。しかし……大きいんだか小さいんだかわからん。こう、遠近法がどれだけ信用できるのか。っていうか、なんでさっきから俺達の頭上をぐるぐるしてるんだ?


「どうやら、我々が衰弱するのを待っているものと思われます」


 ハイエナかよ、狡猾なやつめ。いや、トリ公にとって俺たちは、獲物がない死の大地に降って現れたご馳走だ。是が非でも、プライドをかなぐり捨ててでも得たいのだろう。

 だがそれはこちらも同じ。どちらかが食われ、どちらかが生き残る、これは野生の戦い、自然界における弱肉強食の掟だ!……なにか腑に落ちない部分があるが、些細なことだ。些細些細。




「はーい、というわけで第1回、トリ公を食うための緊急会議を始めようと思います」


 休憩も兼ねて、その場で岩の椅子を3つ[成形]し、腰を下ろした。


「何か意見はないか?」


 沈黙。そりゃあそうだよなぁ。そう簡単に手は……。

 さっと、ジークが右手を上げた。


「グレンノヤリ、ナゲル、アテル」


 垂直に近い投槍って……えええ……。


「……できそうか?」


 俺の問いに、グレンは静かに考え、そうして口を開いた。


「まず不可能でしょう。申し訳ありませぬ」


 表情こそ変わらないが、しっぽがいつもより力なく垂れている気がする。


「一応、何を持って不可能か、解説頼む」

「……私には真上に槍を投げる技術を持ち合わせておりませぬ。仮に投げられたとしても、容易く回避されるのは火を見るより明らか。鳥の視点から見れば、こちらの攻撃は点でしかありませぬ。鳥の高度に到達する前に槍を目視発見できれば、飛行方向を僅かに変えて点を回避するだけで事足りるのです」

「ふむ……。となると、避けられない様にできれば……いや、避ける必要がないと思わせることができれば?」

「リンゴナゲル、ウゴキトマル」

「そりゃ驚くだろうよ。咥えてトンズラがオチだな。それと、もうリンゴはない。どっちにしろその作戦は不可能だ」


 肉のかけらでもあればできるだろうが、俺達に裸足で掛けてく陽気なサザウェさんなれとでも言うのか?冗談じゃない。こんな場所でサザウェさんごっこでもした日にゃ、でかい干し肉が3枚出来上がりましたってオチになるのが目に見えている。


「どうしたもんか……」


 上を見上げると、ぐーるぐーる、時たま翼を大きく動かして、高度を一定に保っている。あのヤロー……。銃とかあればワンチャンあるんだがなぁ……。ノーコンだけど、奇跡的に当たるかもしれんやろ?

 鉄はおそらく土から[抽出]すればそれなりの量が取れるだろう。なんか土が赤いし。おそらくは土中の鉄分が酸化しているのだ。

 だが、弾薬の問題も出てくる。特に雷管。いや、いっそ原始的にマスケットで?……無理だな。ノーコン野郎が使ったことがない銃で、ぶっつけ本番であの高度の相手を一撃で撃ち落とすなんて、漫画やラノベじゃあるまいし……。


 鳥公のあの狡猾な姿勢を見る限り、脳みそ小さいくせにカラス並みに頭が切れると想定できる。仮に重火器を作り試し撃ちをすれば、それだけで奴は尻尾を巻いて逃げるだろう。

 現実的に考えて、勝機があるとすれば、こちらの土俵に引きずり込んだ時か?……引きずり込む?


「まてよ?あの手ならば……」


 俺の頭もまた、幾分原始的ではあるが狡猾な方法を思いついた。

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