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蘇る紅

グレン視点


 熱い……私はまだ生きているのか?

 意識はまだある……瞼は、感覚が無い……。

 本当に生きているのか?やはり死んだのだろうか?

 ……両腕も両足も、尾の感覚もない。私の体はもう燃え尽きたのだろう。沼地に住まうリザーディアの死に場所が業火の中とは、なんとも異端らしい末路だ……。


 思えば、碌な人生ではなかったな。

 私の人生の根本は、盗みだった。生まれた時から疎まれ、同族に何かを教わった事、仕込まれた事もなかった。全て盗み見て得、我流に歪めた技術だ。

 狩りの基礎、槍の扱い・作り方も、食べる物の判別、薬草の判別・製法、獲物の解体技術、全て見よう見真似。そうしなければ生き延びることができなかった。


 あの場所は生まれてそう間もない幼子の状態で生き延びるのは至難だと、容易く理解できる、そういう土地だ。

 だからどれだけ疎まれようとも、追い払われようとも、暴行を受けようとも、村に居続けた。森の中に比べればまだマシだったからだ。


 命懸けの単独の狩りを繰り返し、獲物を差し出し、私が群れにとって有益であることを示した。どうにか居着くことを許され、群れの末席に加えられた。今は互いに利用し合う関係だが、いずれは本当の仲間と認められると信じて────。


 ふと、ナナクサ殿の顔が浮かぶ。


 未熟な幼子の頃、空腹のあまり、同族に食料を求めたことは数多い。だが、誰も求めには応じなかった。どれだけ余裕があろうとも、肉の切れ端すら、ゴミすらも与えられなかった。

 木の葉や枝、皮で腹を誤魔化したことも数多い。だからユーディリア殿のかつての境遇を聞き、怒りを覚えた。過去の自分と重なったためであろうことは想像するに易い。


 あの時が初めてだった。他者から無償の何かを与えられた事が。優しさというものを受け取った事が。あの過酷な地で受け取ったそれは、何物にも代え難いものだった。あのときの赤い実は、本当に美味かった……。


 今日まで幾度となくナナクサ殿の料理を口にした。あの実を超える美味さのものは何度も口にした。だがそれでも、あの日あの晩、火を囲って口にした水々しい赤い実の味は忘れなかった。

 種族は違えども他者に優しくなることはできると、ナナクサ殿から身を持って学んだ。その恩に報いようと、あの方の槍になると決めた。


 …………本当に、このままでいいのか?


 確かに致命傷を与えることには成功した。だが、絶命には至っていない。それはまだ戦いが終わっていないという事だ。


 槍とは何だ?戦う為の武器であり、相棒であり、誇りではないのか?それが今何をしている?こんな所で燻っていて良いのか?


 ……良いわけがないだろう!!!何が「惜しむらくは……」だ!!役目を全うせずに惜しむなど言語道断ではないか!!呆けたか!!


 私はなんだ?ナナクサ殿の、我が主の槍だ。そう自ら決めたではないか!!このまま自らの死を受け入れるのか?答えは否だ!!




 認めぬ!!




 認めるものか!!




 この場は我が死に場所に在らず!!主の示す場以外を死に場所にはできぬ!!




「ああ、目が覚めた……。私は……自らの死を否定する!!!私の死を決めるのは、主たるナナクサ殿のみ!!!」


 我が名はグレン。我が身はリザーディアに在らず。ただひと振りの槍也!!

 かの血が我が身を焼くと言うならば、その血全てを飲み下そう!盛る炎がこの身を焼こうならば、その炎を糧としよう!!



 全ては……!




「全ては我が主の為に!!」




*




ナナクサ視点


 増え続けるドラグボーンウォリアー。それに伴って増えるカタカタという骨の音。

 ふと、夏の田んぼのカエル大合唱を思い出す。田舎の夏の風物詩だ。あのどれだけ数がいるのかもわからないようなゲコゲコゲコゲコという、鈴虫のそれとはベクトルがまるで違うクソやかましい大合唱。それのスケルトン版だ。


「ねぇ、ナナにぃ、あいつら、こっちみてる?」

「は?」


 いや、そんなはずは……あった。

 奴らをよーーく見ると、どいつもこいつも俺達の方を注視している。なんで俺とユーディを?お前ら魔都を落とすんだろ?なんで揃いも揃って全員で俺達を見るの?


 ……これは、気まぐれとか興味とかそういうものじゃあない。薄ら寒いものを感じる。どこかで似たような感覚を、少しばかり前に感じた気が……。……そうだ。これは、あの地下牢獄で感じた……憎悪だ。


 誰の?


 そんなもの、生み出したアラストルのモノに決まっている。


 誰に向かって?


 俺達だ。


 未だ増えつづけるドラグボーンウォリアー達が俺達へと向けて一斉に進行を始める。


 考えられるのはただ一つ。アラストルが抱いた俺達への憎悪が破壊衝動を上回った。長い間、自らの存在理由もろとも封じられ、ようやく暴れられると思えば泥沼のそこに沈められた憎悪。このまま死ぬくらいならば、最低限、俺たちだけでも葬らないと気がすまないのだろう。多分そういうことだ。


「よし、逃げるぞ」

「どこに?」

「ここで逃げ回るしかない」


 俺とユーディは東方向へと全力で走った。それに合わせて進行方向を変えるドラグボーンウォリアー軍団。

 奴らの最優先標的が俺達。それは即ち、俺達が生きている限り、壁を越えて市街地へと侵入される事は無いということだ。


 ドラグボーンウォリアーは今だ生み出されているが、ベース素材が奴の鱗+土中のカルシウムである以上、素材は有限。そして[メイクアンデッド]を使っているアラストルに残された酸素も有限。敵が無限に生まれ続けるわけではない。


 万が一、アラストルを沼落としで仕留めきれなかったことを考慮し、ジークとリラは補給が完了次第戻るように言っている。この軍勢相手には二人が戻ってこない限り勝ち目はない。


 ジークとリラが戻るまで一切反撃を加えずに逃げ続け、戻り次第全力で攻勢に転じる。どれだけ走ればいいのかわからない以上、下手に消耗する行動は避けなければ。

 足止めのするだけの手札は残っているが、最適な状況下で最上の成果を得られるように使わなければならない。多分、俺達の疲労具合からして1回が限度だからだ。


「南だけで逃げるまわるの?」

「東西の畑にまで逃げ回ればそっちの畑が踏み荒らされる。特に東側に行くのはまずい。麦畑をやられれば、後々間違いなく餓死者が出る」


 向こうで育てているのは嗜好品ではなく、主食の原料。既に甜菜畑は踏み荒らされて半壊している。ならば被害はここだけで収めるのがベストだ。


 それに、東西へ逃げればここへ戻ってきたジーク、リラが探しに動く二度手間になる。つまるところメリットがないのだ。


「ここからさらに南っ!!」


 東の端まで来たところで進路を南へ変え……。


「ナナにぃ!あいつら、こっちに来てる!」


 確定だな。最優先目標が俺たちで。……何が何でも、生き延びるしかない。




*




「ここからっ……西っ……!」


 畑の南東端っこまで来たところで、エルッケの森入口方向へと進路を変える。あわせてカタカタと音を立てながら進路を変えるドラグボーンウォリアーの軍勢。アラストルは既に息絶えたのか、新たなドラグボーンウォリアーは生み出されていない。が、もう数えるのが億劫なほどに増えている。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 流石にもうきつい。いくらランニングとプロレスを毎朝毎晩やっているとは言え、泥土の上を走るのは非常に体力を消耗する。一歩々々が泥土に足を取られ、脚を上げるたびに泥がまとわりつき、体力が無駄に消えていく。泥土を長距離走るのはかなりの体力を要するのだ。その上追いかけてくる相手が疲れ知らずのアンデッド。距離を詰められないようにするには全力で走らざるを得ない。


 ああ、これ、訓練の一環に使えそう……いや、そんな事はどうでもいい。


「はぁ……はぁ……」


 俺はまだ行けるが、ユーディの方が……いや、俺も限界に近い。どうも、自分の想像以上に体力を消耗しているらしい。頭がふらつく。


「まだ、走れるか……?」


 ユーディは力なく頷く。どう見てもやせ我慢だ。

 この先の位置から動くとすれば北……あるいは北東方向だ。この体力の残りで走ったとして、ボロ壁の前あたりで限界だろう。そこで切り札を切れば間違いなくぶっ倒れる。


 最悪、俺達が死んだ後、タイムラグなしに市街地へ侵入される。あいつが建造計画を起こした街をぶっ壊させるわけには行かない。


 ……やむ無しか。


「ここで迎撃するぞ」

「……ん」


 進軍するドラグボーンウォリアー軍に正面から対峙する。もはや骨の濁流だ。飲み込まれれば二度と浮き上がることができない死の波にしか見えない。


「泥土を凍らせて、奴らの足を止める」


 土に両手を軽く触れる程度にあて、俺の右手の上にユーディが両手を重ねる。互いに見つめ合い、頷き合う。


「「[凍結]──泥土』!!」」


 正面の泥土が放射状に氷結していく。泥土に沈んだドラグボーンウォリアーの足もろとも凍りつき、その機動力を封じた。奴らは前進しようともがくが、凍りついた泥土は割ることはなかった。


「これで少しは持つ……か?」


 相手は骨だ。いずれ自分の足が折ってでも前進してくるだろう。その間にそれなりに疲れが抜ければ、また引きつけつつ逃げるのも選択肢の一つだ。


 が、両足が凍りついたドラグボーンウォリアーの軍勢を踏み越えるように、後方のドラグボーンウォリアーが前進してくる。その両足はいずれも泥が付着したまま、凍りついていない。


「射程が足らなかったか……」


 カタカタと迫るドラグボーンウォリアー。しかし、足場は氷上。次々に滑り、倒れる。

 が、後続はそれを足場にして平然と踏み越える。そして転び、自らもまた後続の足場となる。


 こいつら、俺の屍を越えていけを地で……!


 氷上に骨の絨毯が敷かれていく。伸びる先は言うまでもなく、俺とユーディの所へ。時間の問題だ。


 体力も何もかもろくに回復していない。いや、[凍結]させた分だけマイナスだ。プラスになるほど時間を与えてくれそうにない。


 この[錬金術もどき]、魔力ではなく体力を消耗するあたりがなぁ……場合によっては嬉しいこともあるが……。うん、この場合もまあプラスのはずだ。俺もユーディも魔力ほぼ空っぽだし。


「ナナにぃ」

「うん?」

「私はもっと、ナナにぃと一緒にいたい。一緒にご飯食べたいし、なでなでして欲しいし……もっとナナにぃを知りたい。だから……絶対生きて帰る」

「……ああ。俺だって……同じだっ!!」


 疲労困憊であるにも関わらず、ユーディの目は闘志に溢れていた。


 俺だって、せっかく得られた二度目の人生、恋人、家族、娘……手放せるわけがない!!


「ユーディ、もし生きて帰れたら……いや、今はやめとく」

「んぅ?」


 あぶねぇ、つい戦場で死ぬ兵士のフラグ立てるとこだった……。うっかりうっかり……いや、ユーディのさっきのセリフは死亡フラグに当たるんじゃないのか?とか言ってる場合じゃねぇ。


 既に目と鼻の先までドラグボーンウォリアーは迫っていた。


 先頭のスケルトンが大顎を開けて飛びかかってくる!!


「こんなところで、終わってたま──




ズンッッ!!




 目の前のドラグボーンウォリアーが、右から飛来した焼けて黒ずんだ岩の直撃を受けてぶっ飛ばされた。


 な、何を言ってるのかわからないと思うが、俺だって理解不能だ。それは奴らも同じらしく、問答無用の進行を止めていた。

 ぶっ飛ばされたドラグボーンウォリアーを見ると、全身が粉々に砕け散っていた。投げられた岩もまた粉々だった。


 ありえない。ドワーフ族の鍛冶技術を持ってして作られた剣で歯が立たない相手が?ただの岩でここまでの威力が出るものなのか?


 ……いや、俺は知っている。リラ以外にそのトンデモ馬鹿力が出せるであろう人物を。

 放たれた方角──エルッケの森を見る。アラストルによって踏み折られ出来た道ををなぞる様に、紅い炎が近づいてくる。否、炎のような紅の鱗だ。それに、頭部に左右3対6本の角を生やしている。


 その獲物を逃さない鋭い眼光を忘れられようか。

 その実戦で鍛え上げられた筋肉を忘れられようか。

 共に死地を超え、生き延びた仲間を、家族を忘れられようか。

 否、忘れられるはずがない!!


「グレン……!!!」


 俺の声と同時に、グレンは一気にこちらへと駆ける。


 俺達とドラグボーンウォリアーの間に割って入るように、軍勢の前に立ちはだかった。……全裸だった。


「遅れて申し訳ありませぬ、ナナクサ殿、ユーディリア殿」

「ん……グレン……だよね?」


 ユーディは困惑している。いや、無理もない。今朝方見送た時の姿とはそれなりに変わっていたからだ。それに後ろ姿だけ見えるとは言え全裸だ。……後ろ姿だけなら普段とあまり変わらない気もするが。


「状況はどのように?」

「アラストル……お前が足止めしたデカ物は泥沼の底に沈んだ。こいつらドラグボーンウォリアーは奴の最後の悪あがき、標的は俺とユーディだ。もうじき、補給に戻ったジークとリラが戻ってくる」

「では、奴らを殲滅できれば我らの勝利で、間違いないと?」

「ああ、おかわりは既に売り切れ。奴らを始末できれば完売だ」


 そう言うと、グレンの口元がニヤリと歪む。


「ここは私にお任せを。我が主の槍として、この驚異、打ち払おうぞ!」


 グレンの踏み込みとともに、地面が爆ぜる。飛び散る土は水分をまるで含んでおらず、カラカラに乾いていた。


 凍った泥土に足がつくと、じゅわりと一瞬で溶け、水分が蒸発。一気に距離を詰め、先頭のドラグボーンウォリアーを正拳突きで、横から襲いかかる敵を回し蹴りで、それに続く太い尻尾で周りを一気になぎ払う。


 攻撃を受けたドラグボーンウォリアーは、例外なく粉砕される。一撃一撃が、確実に背骨をへし折っているのだ。


「その程度で私を滅せると思うな!!」


 大顎を開けて襲いかかるドラグボーンウォリアーを蹴り上げ、頭部を木っ端微塵に粉砕。


「何あの無双……凄まじいな……」


 一連の動きにブレが全くない、その上素手で粉砕?単純な筋力だけでは説明がつかない。あれだけの威力だ、体に返ってくる反動はどれほどのものなのか。


「グレン、上位進化したの……?」

「間違いなくな。リザーディアは氷を溶かすだけの体温を持つ種族じゃあない。あの豪腕、そしてあの角……最早あれは竜だ」


 リザーディア以外の別の何かになったのは間違いない。しかし、一体何になったのかまでは俺にはわからなかった。そもそも、リザーディアは進化しようのないはずだ。ジークが上位進化した折にシルヴィさんへ念のため確認を取ったが、進化した前例はないという。だとすれば、未知の種になったと見るべきだろう。


 ……ん?


 バサバサと、羽ばたく音が響く。この羽音は……


「パパ~~!!」


 月夜の空を見上げると、黒い竜翼を広げたリラがこちらへ飛んできている。


「ナナクサ!!遅れてすまン!!」


 南門からはジークを先頭に、ノルキン・ソプトンと続く精鋭兵団・術兵団がこちらへ駆けている。


「来たか!!よし、お前らグレンに加勢しろ!!クソったれのドラグボーンウォリアーを蹂躙する!!」

「グレン……!?」


 ジークが目を見開き、ドラグボーンウォリアーの軍勢を見る。目の錯覚なのか、ジークの目に光る何かが見えた。


「生きて…………っシ!!全軍、側面から当たるゾ!!」

「「「「「うおおおおおおおお!!!!!」」」」」


 ドラグボーンウォリアー軍の横っ腹を突くように突撃を開始する。正面のグレン近くへリラが急降下し、殲滅に加わった。


「どうやら、死なずに済むらしいな……」

「ん……でも、まだ終わってない、よね?」

「ああ、だからひっくり返しようがない決定打を与えて終わらせる。最後の一滴まで搾り出すぞ!!」


 ユーディを右腕で抱き寄せ、[アンチグラビティ]をかけて空高くに飛び上がる。


 上空から見れば一目瞭然。正面はグレンとリラが無双し、側面から精鋭兵・術兵が押さえ込み、ジークが猛っている。数で劣るも、一騎当千の戦力が一方的に蹂躙している状況だ。


「湿気は十分。でかいやつを奴らにブチ込むぞ!」

「うん!!」


 ユーディが右腕を、俺が左腕を天へ向ける。


「「[抽出]──水分!!」」


 最初は小さな水の玉だった。その玉へと、水分がいくつもの帯状に、地中から水を吸い上げる植物の根のように集まっていく。アラストルと同等か、それ以上の大きさまで一気に膨れ上がった。十分すぎる大きさだ。


「まだできるか?」

「ん、最後まで、やるよ?」

「なら、仕上げだ」


 俺の言葉にこくりとユーディが頷く。


「「[凍結]──水球!!」」


 湿気に満ちた夏の夜の空気が、カラリと乾いた冬のような冷たい空気へと変わった。巨大水球はそのまま氷塊へと変貌。煮ても焼いても食えないようなああいった手合いは、物理で殴る、否、物理で押し潰すのが効果的だ。例えこれで壊せなくとも、押しつぶされて這い出すまで攻撃は出来ん!!


「これが……」

「私とナナにぃの……」

「「ラストシュートだ!!!」」


 巨大氷塊がドラグボーンウォリアーの軍勢へと落ちていく。氷塊で月が隠れ、多くのドラグボーンウォリアーが落下する氷塊に気づくが、軍勢ど真ん中のドラグボーンウォリアー達は逃げようがなかった。前後左右、頭上と足元以外、仲間によって隙間なく塞がれているからだ。






ズゥゥゥン────……!!!!!!






 氷塊の落下衝撃で大きく地面が揺れる。残るスケルトンのおよそ4割強が、氷塊に押しつぶされていた。


 地上では精鋭兵らが歓声を上げていたが、ぶっちゃけもう返事できる余力も手を振る余力もない。体力すっからかんなのだ。意識を維持するだけでも辛い。


「んぅ……もう、だめぇ」

「俺もだ、もーあかん……」


 降下し、地面い足が着いた瞬間、その場に倒れた。

 意識はまだ健在だ。だから分かる。この月夜に漂う、冷えた空気の中に確かにある熱い風……熱狂が……最高潮にまで上がった士気が。これで俺達の勝ちは揺るぎないものとなった。そう確信した。


 かつてジークと出会って間もない頃、数の暴力は恐ろしいと教えた。「戦いは数だ。敵より圧倒的に多くの兵を集めた側が勝つ」、と

 ただそれは、彼我の装備と練度に大きな差がなければの話だ。数で劣るならば質で、練度で。それらを以って圧倒的不利を覆した事例は少なくも実在した。今日この夜の戦いもまた、彼らにはそう記憶されるだろう。


 ただ……一度そうして勝つことができてしまうと、慢心、傲りとなり、そしてまた、集団同士の戦いそのものを楽観視してしまいかねない。懸念すべきことは多いが……そろそろ意識を保つのも限界だ。

 腕の中のユーディは既に気絶している。俺も眠ろう。今生きているこの時に、この腕の中のぬくもりに感謝して……。


お読み頂きありがとうございました。なんとか年内に一区切りつきそう……。次回糖分多めで……。

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