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次元の最果で綴る人生~邪魔者⇒葬る~   作者: URU
変革のグランバレヌ
510/512

ミリルクラリア その1

 目的地の仮住まい目指し走る俺とフィエルザ。

 行きは山賊を轢き殺したが、帰りは特に障害物に当たる事も無く、平和な道中だった。


「あー、もしかしてあれ?見事に豆腐ハウスね」


 遠くに見える仮住まいに目をやるフィエルザ。さすがにあの手の仮設ハウスは初見じゃあないから分かるか。


「仮設に無駄な機能は必要ないからな」


 衝撃を受け流す半円だったり、水没や地を這う生物対策の高床式とか、そう言うのは居住機能のおまけだ、おまけ。状況に応じて必要ならそう造るが、不要不急な機構を組むのは無駄でしかない。


「そりゃそうだけど……そういう所、割と徹底してるよね、おとーさんって」

「徹底、なぁ」


 さて、それはどうだろう。俺は別に、仮設住宅の設備は最小限に、なんて信条で生きているわけじゃあない。基本、俺は凝り性だ。いや、俺に限らず何かを作る人は往々にしてそうだろう。

 凝り性のモノづくりというものは、終わりがない。何せ作り手の技術は経験の累積によって大なり小なり向上していき、過去に作った物を見た時に総じて欠点が目に付くようになる。ぶっちゃけ今の俺自身も、ホワイトシュガーのメニュー全てを改良したいくらいには、な。作れば作るほど修正すべきものが増えていく、ある種の呪いと言えよう。


 ならどうすればいいか?


「俺は単純に、加減を理解しているだけだ」


 最初から割り切る、割り切れるように作る、新しい事に挑戦しない、それだけだ。何も常に全力を出す必要も新しい事を試す必要もない。それは戦闘においても、労働においても、いや万事に対してそう。緩めるところはだらんと緩めて、きゅっと締めるところは締め、試す機会は別に設ける。

 後は……駄作を世に送る勇気を持つ、だなぁ。最後のはとある漫画に登場する熱い漫画家の受け売りだけどさ。要は、現時点の力量不足を認め、次までの精進しろって事だ。


 近づくと、家の陰からぬるりと馬──イバが姿を現す。……もっちゃもっちゃ何かを口に含んで咀嚼しながら、こちらをじっと見て


「ヒヒンッ……!」


 ひと鳴き。見張り兼お食事タイムだったようだ。食っているのは……草のようだが……いや、今やたらデカい蜘蛛の足っぽいものが見えたような……。

 鳴き声に反応してか、入り口で影が揺らぐ。


「──イバ、ナナクサば戻ってきよったか?」


 ウバンが抜き身の曲刀片手に姿を現した。察するに、常に武器を手に警戒していたのだろう。

 ウバンがイバの視線の先に目を向けると、手にしていた曲刀を地面に刺し、安堵の息を漏らした。


「随分と気を張らせていたみたいだが……」

「気ぃ張るんも仕方な……っ!?」


 気を抜いたウバンが、後ろに隠れるようについてきていたフィエルザを見て、硬直した。


「……どうした?おい?……おい、ウバン!」


 心ここに在らず。何だろう、なんかこう……あり得ないモノを見たような、そんな反応だ。

 いや、あれか?竜帝という生物的な格の違いを感じているのか?


「ん~?あたしの顔に何かついてる?」

「……っ!!い、いや。違か。……そん女ば、ナナクサば言うとった……?」

「ああ。俺の娘だ。フィエルザ、こいつが話していたウバンだ」

「ふーん、……成程ナルホド~、何処にでもいるうぞーむぞーじゃあないみたい──!!」


 フィエルザは何かに気づいたのか、ウバンの背後を覗き込む。


「もしかして、あれが!」


 するりと横を抜けて屋内に入っていく。その先に居たのは、籠をベッド代わりにすやすやと熟睡するルバニだった。

 フィエルザはしゃがみこんでその様子をじっと見、不意に──


「い~やぁ~ん!か~わいぃ~~~!」


 ──未だかつて聞いたことないデレ声が漏れ出した。


「見るからにぷにぷにもちもち~!ぁ~なにこれ~!リムリスとちがうもちぷにの可愛さがたまんない~!つんつん~」

「ふぇ、ふぇあああああ!!!びぇあああああああ!!!あああああああああああああああああ!!!」

「ひぇ!?」


 なんかやべぇくらい泣き出したんだが!?空腹時の比じゃないぞこれ!?めちゃくちゃうるせぇ!!


 ウバンが慌てて駆け出し、ルバニを抱き上げてあやす。


「よ~しよしよし。ええ子ええ子。父ちゃんばここおるからなー」

「ふぇっ……うぇぇぇぇ………!!」


 次第に泣き声は小さくなっていく。


 泣き始めて数分後、どうにか落ち着いて再び眠りについた。


「「「ふー……」」」


 安堵の息を漏らした直後、フィエルザの頭に強めのチョップをぶち当てた。


「フィー、人の赤ん坊に無断で触るのはアウトだ」

「だ、だってあんなに泣くなんて思わなくて」

「泣く泣かないの問題じゃあない。親がいるにも拘らず、勝手に、断りなく、触んなって話だ。別の問題だ。すり替えるな」


 緊急時でもないのに会ったばかりの赤の他人が触っちゃあいけない。赤ん坊は玩具でもお人形でもないのだ。ましておさわり自由でもない。


「……ウバン、ごめんなさい」

「い、いや。……まあ、次からば気ぃ付けぇくれな」


 ……しかし、妙だな。本来のウバンなら、フィエルザの行く手を阻むくらいはできるはずだ。フィエルザも本気で抜きにかかったわけじゃあなかったし……。


「フィー、どうせ親睦を深めるなら、奥の部屋にいるモコモコ2匹とやってくれ。くれぐれも、対等に、驕らず、敬意を忘れるな」

「は、はぁ~い」


 沈みながら奥で昼寝するメェヌ2匹の元へ、静かにゆっくり向かうフィエルザ。

 視線を戻し──


「なぁウバン、何かあったのか?」

「いや、何も無か。……うらば勝手ん勘違いしよっただけだ。もう、問題無か」


 勘違い……なぁ。反応がどうにも、困惑していたような、そんな感じだった。DTが不慣れな女相手に対話とか、そういう感じでもない。いや、そもそもウバンはDTではないだろうに。

 あり得るとすれば……フィエルザが死んだ女房の生き写しだった、という所か。一見で困惑して、ルバニに泣かれ、別人だと認識した。こんなところだろうか?……些か深読みが過ぎたか?


「……まあ、問題無いならそれでいい。ただ、吐き出したくなったらいつでも言え。消化できずに抱えたままは、心の毒だ」

「あぁ……」


 ちらりと視線をフィエルザの方にやると……あれ、居ない……?

 いや、佇むメェヌ2匹の前に脱ぎたての服がある。


「……ん~?これは一体……あ」


 よくよく雄メェヌの体を見ると、小人状態のものと思われる両脚が犬○家めいて飛び出していた。


「ぁ~……ふわふわもこもこ~……ふわもこ天国~……」


 ……とんでもない事してるな。全く、後でもう一発お見舞いしておこうかね。

 フィエルザはもぞもぞと毛の海に潜り込み、頭だけポンと顔を出した。


「ね~、この子たちの名前は?」


 名前……。

 言われてウバンを見るも、フルフルと首を振られる。揃い揃って完全に失念していたらしい。


「ないならさ~、不破(フワ)くんと猛虎(モコ)ちゃんでどうー?」

「「フワモコ?」」

「そ、不破猛虎」


 フワモココンビか、しっくりくるな。

 しっくりくるんだが……だが……何だろう、よく解らんけど何かがすれ違っている気がしてならない。


「ンメェ~」

「メェー」


 フワとモコからひと鳴き上がる。おだやかだ。抗議の声ではなさそうだ。肯定している、そう捉えて良さそうだ。


 ……顔合わせも済んだし、ぼちぼち本題に移ろう。


「で、ウバン。どうだった?」

「や、襲撃も何も無か。じゃっど……山ん様子ばおかしか」

「おかしい?具体的にはどうおかしい?」

「わからん。うらば山ん事ばよう知らん。が、ナナクサバ出てった後から変わった。いやな感じしよる」


 嫌な感じ、なぁ。随分と、具体性の無い漠然とした感想だ。

 だがまあ確かにそうだ。草原育ちに山の事を聞いてもしょうがない。漠然とした答えしか返って来ないのは当然──いや、それだけでも御の字か。


 となると……急ぐ必要有りだな。もうじき日没だ。もし今日何か起きるとしたら、日が落ちてからだろう。周りに人工的な明かりなんてないし、未だ空に雲は多い。この辺が降られるのも時間の問題だ。雲は月光を遮り、雨音や足音をかき消し、降り注ぐ雫は匂いを消す。環境のあらゆる要素が、襲撃者に味方してしまう。何かが潜んで様子を見ているとしたら、今夜は絶好のチャンスになるだろう。相手が盗賊か魔物かは知らんが、大差はない。


 最悪の場合、夜を待たずに何かしらの襲撃がある事も考えられる。現状、間違いなく過剰戦力だが、ルバニとフワモコが絶対安全とは断言できない。今、(おしめ)(ミルク)を満たしたルバニが最も必要としているのは、生命の脅威が存在しない安全な住だ。


「フィー、悦に浸っているところ悪いが、浮遊島に行くぞ」

「え、いまから~?」

「ああ。さっさと上の安全を確かめてしまいたい。……現状、ここでぐっすり眠れるとは思えん」


 浮遊島の安全が確認できさえすれば、これ以上ない安全な拠点になり得る。

 その為にはアレを浮かせている動力源の、仮称[リティート00]の状態を確かめなければならない。アレの脅威を、俺達は身を以って知っているのだから。


「ま、確かにね……。……うん、面倒くさい事はさっさとちゃっちゃと終わらせちゃいましょうか」


 モゾもどぞ毛の海からはい出すフィエルザ。俺はそっと、ウバンの目を覆った。


 元の人型に戻り、いそいそと着替えるフィエルザ。

 そうすると問題は……ふぅむ……コトが済むまでの防衛手段だな。万一長引けば、そしてウバンの感が正しく何かが潜んでいるならば、とてもじゃあないが手が足らない。


「ウバン、そのまま後ろ向いてくれ。隠している手をどけなくちゃあならない」

「お、おお」


 後ろを向いたことを確かめると、豆腐ハウスから出、[グラットストマック]から適当に鉄インゴットを取り出し、ポイポイ積み上げていく。

 造るのは、金属ゴーレムだ。設計ベースはケテル・バチカルで。それでいて、潜む者を恐怖させるいで立ち。圧倒的巨躯と鬼面が必要だ。


「[成形]──」


 ゴーレムが人型である必要は必ずしもない。が、人型である利点は確かに存在する。

 例えば視界が暗闇寄りならば、鎧を纏った大男に見えるだろう。ソレが斬っても突いてもまるで効果がないとなれば、それは巨大な魔物と同レベルかそれ以上の威圧感を相手に与える。威圧──つまるところ、視覚的な恐怖だ。うまくいけば、戦う必要すらなくなる。


 当然デメリットもある。直立二足は両足の関節部に大きな負荷が大きい。4本以上の多足やキャタピラと違って脚1本あたりの重量負荷が大きく、故に消耗で壊れやすい。

 特に今回の素材は鉄だ。大打撃を受ければ歪んでしまうし、雨や湿気に曝され続ければサビて関節周りの摩擦係数が上がり、そして鉄そのものの強度も落ちて余計に破損しやすくなる。

 が、錆びるには時間が掛かるし、強い衝撃を受けて歪むにしても、致命的な機能不全に陥ることは無い。こいつに場を任せられるのは長くて数時間。短時間の運用なら耐えられる筈だ。


 程なくして、人型決戦兵器めいた3メートル超えの鉄ゴーレムが完成した。


「大きか……」

「出来た。こいつを……[ゴーレム化]」


 左腕の[エンブリオリング]をかざすと、鉄ゴーレムが淡い光に包まれ……からっぽの両目に、その光が集約。微かに、鉄の四肢が動いた。


「よし、お前の名は……メタルマンだ」

「安直じゃない?」

「いいんだよ、安直で。最近気づいたんだ、凝り過ぎると痛々しいってな。中二病やキラキラネームと同じだ」

「あー、うん、まぁそれは確かに……否定できないかなぁ……」

「だろう?」


 着替え終えたフィエルザにそう返す。

 俺はキラキラネームを付ける親は、碌なもんじゃあないと思っている。例えば山田の性を持っていてピカ○ュウと名付けられた子供がいたら?その子は山田ピ○チュウですと、小学校中学校高校や習い物、親類相手や交際相手の家族への自己紹介時、就職活動の面接においてもクソ真面目な顔してそう言わなくちゃあいけない。笑われても感情的になって否定も出来ない。そうした時点で、面白がられてからかいの材料にされるからだ。

 そしてその子がおっさんおばさん爺さん婆さんになってもそう名乗らなくちゃあいけない。息子娘が婚約者を連れてきた時、結婚式の参列者読み上げでも、こんなふざけた名前を読み上げられなくちゃあいけない。少し考えればわかる筈だ。年老いた自分や親に置き換えてそう名乗った場合、相手はどんな反応をするか。己の耳を疑う、偽名を疑う、正気を疑う、憐れむ……プラス要素は一つとしてない。

 こんなふざけた名前を付けられた子が、親に対し何を思うか。そんなもの、憎悪以外にないだろうよ。


「さて、命令だ、メタルマン。俺が戻るまでの間、この男、ウバンの命令に従え」

『───』


 メタルマンは重い頭を立てにゆっくりと振った。


「ほんに、理解しとるがか……」

「ああ。……これで命令系統は一時的にウバンに渡った。お前の弓の腕なら、メタルマンに入り口を固めさせて、隙間から矢を射る事も出来るだろう」

「お、おお」

「……まあ、あれだ。細かい命令をどうすればいいかとか、どの程度まで言う事聞くか分からんとか思ったら、命令はシンプルに『入り口を護って敵を通すな』でいい」

「わーった」


 シンプルな命令内容でも、プログラミングで同じ命令を組んでロボットにやらせるとなれば相当に面倒だ。

 命令のプログラミングという観点で見るなら、[ゴーレム化]は核の有無に関係なく、それだけでぶっ壊れ性能なんだよなぁ。


「……行くか、フィー。仮称[リティート00]のツラを拝みに」

「いやぁ、顔なんて無いでしょ多分」


 ぽいっと、預けていた2つの指輪が放られた。

 首にかけていたオリハルコンチェーンに通していた結婚指輪を外して左手薬指に通し、受け取った2つの指輪をチェーンに通し、首に下げる。準備は万端。さぁ、行こう……!!



お読みいただき感謝。随分間が開いてしまった

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