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次元の最果で綴る人生~邪魔者⇒葬る~   作者: URU
変革のグランバレヌ
503/512

全ては無限の可能性の為に その2

少し短め

 ウバンは赤ちゃんが眠るザルを抱いたまま、器用に馬へ飛び乗った。


「どこん逃げる!?」

「カビジの──西だ!西の山と山の間に馬でも走れる街道がある筈だ!予定通りヤヌイスパに行くのはまずい!」

「……仕方無ぁな。イバ!」


 ウバンが西へ馬を走らせる。俺も[ハイマッシヴ]、[プロテクト]、[クイックウィンド]、[リアクティ]をかけて体を強化し、駆けて並走。このまま留まればバヌブグナスが真上に現れ即潰されてしまう。距離を取りつつ、ヤヌイスパから離れなければ……!

 

 もし予定通りヤヌイスパに行けば住民諸共踏み潰されて大惨事だ。最悪、状況を把握した草原の民によって弓を射られ矢衾にされることも十分に考えられる。追われる俺達が禁を犯した部族の生き残りであることは想像するに容易い。少なくとも西──俺が辿った道を遡るなら、他の部族集落に当たることは無い筈だ。


 俺がアンリからもらい受けた地図には、街道の草原にほど近い場所に小さな村の存在が記されていた。実在するなら(・・・・・・)正しく希望の光と言える。


 ──背後にプレッシャーを感じた。

 振り返ると、視界の隅──集落があった場所が山のような黒霧に覆われている。


「来っか!」


 黒霧は4本の柱に──否、4本の脚となり、巨大過ぎる真っ黒な巨牛へと変貌。やはりでかすぎる。デカすぎて距離感がバグる。まるで牛を見上げる蟻になった気分だ。おまけに太陽光がほぼほぼ黒雲で遮られているせいで、全体像がはっきりと見えない。



『ブモオオオオオオオオオオ!!!』



 バヌブグナスは足音も地響きも無く逃げる俺達を追い始める。巨体の動きはのろいが、常識外れの巨体故にか、1歩幅が長すぎる。たった1歩でグンと距離を詰められた。しかもまだ本気を出していないようにも感じる。自由に走らせてしまえば容易く追いつかれ潰される──!


 ……仕方がない。


「俺がバヌブグナスの相手をする!その間に全速力で逃げろ!」

「っ!?わーはバヌブグナスとやり合うつもりか!?」

「さっさと行け!!!その子の為にも死ぬんじゃあない!!!」

「……恩に着る!」


 ウバンが馬を突風の如く駆けさせる。

 なんて速さだ……。シルヴィさんとこのハヤブサも大概早かったが、負けず劣らず……いや、下手したら抜くかもしれん。

 とはいえ、それだけの速さでもバヌブグナスから逃げきれる保証が無い。そも、スタミナも何も無限ではないのだ。何の根拠もないが、アレは逃げられないと思わせるだけのプレッシャーを放っていた。


「やるか……!」


 足を止めて振り返り、対峙。

 圧倒的にデカい相手を倒すときの基本は、まず脚を潰して動きを止め、しかる後に頭を潰す事だが……ひと踏みで家1件丸々潰してお釣りがくるようなクソ太い脚を潰せるか?

 そのままでは否だ。単発では無理、連続攻撃を以て一点集中で毛皮を破り、肉を割き、骨まで至らねばならないだろう。あの巨体を支える骨だ、強度はオリハルコンに迫るだろうが、それだけに1本でも潰せれば見返りは大きい。

 まず接近しても踏み潰されないように、動きを多少なり鈍らせる必要がある。その為の属性は……雷一択だ。


「特大のッ……[スパークリングノヴァ]!!」


 バヌブグナスの真正面へ向けて、過去最大の[スパークリングノヴァ]を放つ!!

 これだけ弾も相手もデカければ最早俺の欠点である[ノーコン]は意味を成さない。狙うまでも無く適当に放ればどこかに当たる。そしてこれは殆どの魔物が感電死するレベルの代物だ!ゴ○ラも真っ青な巨体でも、直撃すれば最低でも数秒、しびれて動きが止ま──


「は!?」


 我が目を疑った。


「消えた……?消えた!?」


 目の錯覚か……!?[スパークリングノヴァ]はバヌブグナスの首の下に直撃したかと思った直後、消えてしまった。当たって散ったんじゃあなく、スッ……と、不自然極まる消失。


 バヌブグナスの足が少しずつ加速する。理解が完全に追いつかないが、今確実に言える事は、雷魔法は全く(・・)効果が無いという事だ。


 全く効果が無い?んなあほな話あるか!

 細胞を有する生物は脳から四肢へ神経細胞を介し微弱な電気信号を送って操作している。ガワからより強い電気を与えることで信号をかく乱しすれば、四肢は言う事が聞かなくなる、いや、限度を超えて肉を焼き焦がす筈だ!生物という括りである限り全く効かないなんてことは……


「……生物じゃあないのか!?」


 いや、確かにそういう魔物はいる。パンゲアストンのような鉱石の魔物や、レイスやスケルトンといった霊体や死体の魔物だっている。見た目超巨大牛のバヌブグナスが、その実非生物だとしても何ら不思議じゃない!逆に納得できるまである!


「なら次は……[アイスコフィン]!!」


 冷気の帯がバヌブグナスの巨躯を包み込む。

 電撃が効かないなら、物理的手段で拘束するまでだ。[アイスコフィン]で全身を氷の中に閉じ込めて、その間に脚を破壊してやる!

 幸い太陽光は大半が遮られているし、森林や海とまではいかないが、水分は豊富。閉じ込めて時間稼ぎくらい十分できる!


「凍れ!!」


 声と同時に、バヌブグナスの全身が氷の塊に閉じ込められた。

 途方もない、氷山の如き氷の棺桶。風と共に冷気が体を冷やしていく。これで脚1本ぶっ壊す時間は稼げる筈。


 ──!?


 再び我が目を疑った。バヌブグナスは余計な空間が存在しない氷の棺桶の中を、まるで障害物が何もないかのように歩き進んでいる!!程なくしてバヌブグナスの頭が、前足が、氷の棺桶をすり抜けた!!


「なんでやねん!?」


 おーけー、落ち着こう。焦るべき状況だが、無理やりにでも落ち着かなければ。


 冷気を含む空気を大きく吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 それを都合三度繰り返し、吐息に冷気が混じったところで、ふと気づく。


「足音が、無い(・・)?そう言えばさっきから無音だ……!」


 いや、移動の足音だけじゃない。馬鹿みたいにデカい筈の足跡も、巨躯を動かして生じるはずの空気の流れも無い。


 思えば、この周りだってそうだ。あれほどデカい足音を立てて潰していたというのに、地面のへこみが浅すぎる。加えて、はっきりとした『足跡』がまるで残っていない……。あり得るのか?

 そもそも、グルトーの瓦礫が完全につぶれず原形を辛うじて留めて残っているのに、人の死体だけがトマトケチャップ状態なのは圧力の矛盾が過ぎる。

 そうだ、『足跡』だ!残っている筈のクソデカい蹄の跡が1つも無い!固いコンクリの上じゃあなく、柔らかい草原の土ではありえない事だ!そうか、違和感の正体はこれか!じゃあ一体どうやって潰し──!?


 フッ……と、さらに自分の周りが暗くなる。上を見上げると、黒雲から薄暗い巨大な円──いや、球体が落ちてきていた。

 攻撃!?回避しなければ、いや、デカすぎてもう間に合わな──



ズンッ──!



「ぐぉああああああ!!」


 体が見えない何かによって地面へと押し付けられた!


「な、何だ……こりゃああああ!?」


 重力……いや、違う。全身が満遍なく重いんじゃあない!あくまで部分的に、まるで無数のクソでかい手で頭と肩を上から押し込まれるような圧力……!堪らず膝をつく。直立を続けていれば、膝の皿が割れてしまうだろう。いくら何でも洒落にならん。

 そうすると今度は傾けた背中から真下に圧力が加わる!自分の周りを見ると、圧力を感じる直前と比べ、微かに暗い。この圧力が……集落の奴らをトマトケチャップにしたというのか!


「た、確かにこれは、潰れる……!!」


 ハンマーで打ち付けるような瞬間的圧力じゃあない、石を積んで漬物を付けるような、じわじわとした圧力。[プロテクト]をかけてなおきつい……!

 それでいて、足場が沈まない。という事はこれは、概念上の足場に上から押しつぶす、いわばプレスマシンか!強化してこの圧力となれば、生身で受ければ耐える事はおろか、思考する余裕なく……!


 だったら──!


「[アクセルバースト]3倍!」


 身体強化を施し、爆弾めいた瞬発力と加速を以って圧力圏から飛び退いて離脱。その勢いのまま、ウバンを追う。


 このままではだめだ、一旦体勢を立て直そう。


 頭上の黒雲は無数の巨大圧力球を進路上にばら撒いていく。そこに狙撃めいた狙いなんてない。弾幕だ。着弾音がまるで踏みつける足音のように響く。


 もう直撃するものか。落ちるのが遅いんだよ。それに、視た限り全てが下に落ちるだけ。隙間を縫って走り抜ける事くらい十分できる!侮るな!


 地面に着弾しドーム状になったソレを、回り込み、飛び超え、さらに足裏からの[エアロブラスト]で軌道を無理やり矯正し、空中接触を回避。

 弾幕ゲーめいた回避運動を何度も繰り返し、容易く脱出!某弾幕ゲーと比べればイージーだ。ルナティックには程遠い。


『ブルルルル……!!』


 怒ったのか不満なのか、アレが何を考えているのか不明だ。例え後ろを振り返って上を見ても、頭部は顎くらいしか見えない。というか、振り返って確かめる余裕がない。


 兎も角、合流ッ、まずは合流だッ!このまま留まってあれやこれや試行錯誤するより、一度合流して情報を聞き出した方がいい!

 ウバンはバヌブグナスの存在を知っていた。なら、俺が屋台のおっちゃんから聞いた以外の、何かしらの情報を持っている可能性がある!それが一番の近道だ!


 ああ、それにしても、考えに没頭するあまり警戒を疎かにするとは……。[危機察知]に依存しきった弊害か。有って当たり前が無くなると、こうまで脆くなるのか……我ながら情けない。


「いや、切り替えよう。今は兎に角、合流だ」


 速度は、バヌブグナスより出ているが、ウバンの後ろ姿はまだ見えない。もっと加速しなければ……!


お読みいただき感謝。

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