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だめだこの姉早く何とかしないと

ちょっと短めです

 朝食後、俺とユーディはリレーラが泊まる安宿へと手をつないで向かう。その後は西の露店街へ買い出しだ。


 俺はいつもの黒シャツとリラお手製の黒ジーンズに、こっちで靴屋に仕立ててもらったオーダーメイドの革靴。ユーディは半袖の純白フリルブラウスに紺のフリルスカートと白フリル付きオーバーニー、黒のストラップシューズだ。

 些かフリルが多すぎね?とは思うが……リラの趣味とユーディの趣味が一致した結果だろう。そうでなければ俺のジーンズも裾にフリルが付いているなんていう事になっていただろう。


 今こうしてユーディと手をつないで歩いている状況を、観的に見れば、デートか、あるいは仲のいい兄妹に見られうかどちらかだろう。7割程度は後者に見られそうだが……。


 ああ、昨晩の件はやっぱりシルヴィさんにバレてた。バレてはいたが……


「その程度で目くじら立てはせんよ」


 とのお言葉を頂いた。器でけぇ。……まあ、許しを得たとは言え四六時中やるつもりは毛頭ない。


 さて、リレーラを尋ねる目的は二つ。リレーラに直接ユーディの出生を確かめる為。そして、あの時俺に起きた現象に関する手がかり。

 後者に関しては期待していないが、引き金がユーディの成人だとするなら……。小指の先ほどの情報でもいいから、ともかく欲しいのだ。


「ユーディ、大丈夫か?」


 昨日の今日で、すごく歩きづらそうにしている。歩き方がちぐはぐというか、なんというか……。


「ん、だいじょぶ」


 全然そうは見えないんだが……ううむ、このまま歩かせるのは流石に辛いはずだ。なんか申し訳ない気持ちになってきた。抱いて移動するか?……目立ちそう。


「……普通に歩ける方が、いい?」

「む、そりゃ……なぁ。その歩き方、昨日俺達ヤりましたって公言してるようなもんだぞ?」


 何の理由もなしにそういう歩き方にはならんし、ちょっとカンがいいやつが見れば察するだろうよ。


「ん、それじゃあ、何とかする」


 そう言って、ユーディは静かに目を閉じて集中し始める。


 ……もしかして、成人したことで術の資質を得たのだろうか?とすれば、リレーラと同じ陽術か?


 だがその予想は、あっさりと裏切られた。


「…………『修復』」

「は!?」


 ユーディの口から紡がれた言葉、俺がよく知る日本語の『修復』。俺の[自己再生]のトリガー。


「ん、これでだいじょぶ」


 言葉が出なかった。


 数秒の間を置いて、俺の脳はどうにか再起動。完全に予想外だった。昨晩のユーディの抱いて発言を超える衝撃だった。


 いやいや待て待て、タダのおまじない程度で言っただけかもしれない。俺と同じと決めるのは些か早計だ。だが……外からわかる傷ではない以上、この場で確かめる術があるとすれば……。

 アホか!こんな天下往来ど真ん中でスカートん中に手ぇ突っ込むなんてできるか!!どう見ても犯罪です事案ですあかんですとよ!!


 いけない、落ち着こう。落ち着くんだ、俺。混乱しすぎだ。


「んぅ?」


 ユーディと再び手をつないで歩き出す。その歩調はさっきまでとは全く別の、違和感のないスムーズな歩き方だ。……まさか本当に癒えたのか?


「ユーディ、今の、いつから使えるようになったんだ?」

「ん、さっきの?えっと、昔ナナにぃが、いなくなって……火傷した時に、ナナにぃの真似したら、出来た」


 真似って……軽々とホイホイ真似できるもんじゃないぞ?術とは根本的に違う、言ってしまえば神の贈り物だ。そんなもんをポンポン使えるようになってたまるか!!


 ……や、待てよ……?


「ナナにぃ?」


 ユーディはあの時……俺の血肉を摂取した。つまり俺の体に、[自己再生]を使う為の因子的なものが混ざっていて、それを取り込んでモノにしたっていうのか?それくらいしか考えられない。


「なぁ、なんでさっさと使わなかったんだ?」

「だって……初めての痛みは……なかったことに、したくなかった、から……」


 そう言われると、悪い気はしない。……ああ、そうか。現実だっていう証。ユーディは自分の痛みをその証明にしていたのか。


「……ユーディ、その力は無闇矢鱈と使うな。俺自身、どんな副作用があるのか、全くわかっていないんだ」

「副作用って……?」

「考えてもみてくれ。その再生の力は、失われた血液を、足を、質量的な対価なしで元通りに戻したんだぞ?体力は消耗するが、差し引いても明らかに不等価交換なんだ。……だから、知らぬ間に何かを失っている危険がある」


 一番危惧している対価は、寿命だ。


 なんの変化もないからこそ、いの一番にそれを疑うのは至極当然と言える。寿命だけは自分の死の時が来ない限り分からない。最も曖昧で、最も見通せない、自覚できないが故に、重みを正確に推し量れない対価だ。


「ま、まさか……せ、背とか、おっぱいとか……も……?」


 恐る恐る尋ねるユーディ。できれば否定してあげたいが……成長性を対価とする線も、子供には存在するのだ。


「……否定は、できない……っ……」


 悲しいかな、ユーディの背丈はあの当時と比べ全く育っていないことが、否定できない要因になっているのだ。


「わ、私……なんてことを……」


 あ、やべぇ。目に見えて凹んだ……。コンプレックスの原因が、本当にホイホイ使っていた[自己再生]にあるとすれば、そりゃあショックだろう。


「あ、でも別にいいかも」


 そう思ったのも束の間、ケロッと目に見えて立ち直っていた。


「軽っ。いやいやいや、なんでそんなに軽いの?昨日までめちゃくちゃ気にしてただろう?」

「……全部、ナナにぃに好かれたかったから、だよ?だから、もう、いいの」


 静かに微笑んだユーディは、俺の手を引いて上機嫌で進んでいく。……あかん、俺、顔赤くなってないか?


「っ……ユーディ、そう言ってもらえるのは非常に嬉しいが、なんにせよ[自己再生]は非常時以外は控えるようにな。約束してくれ」

「ん、だいじょーぶ。手をつなげる時間、長いほうがいいもの、ね」


 そう、だな……。しかし、[自己再生]が、か……。

 一度、自分のチート能力を振り返ってみよう。[危機察知]、[言語習得]、[病毒無効]、それに[錬金術もどき]……そして後付けで[自己再生]、この5つだ。

 このうち、伝わったと解っているのは[自己再生]だけだ、今のところはな。

 他の4つがユーディに備わっている、それ自体ありえないことではない。明確なデメリットはないが、いや、精々酒で酔えなくなるくらいか。早々に確かめなければならないだろう。




 そんなこんなしているうちにリレーラが滞在する安宿に到着。リレーラの部屋のドアの前に立ち、ノックを──


「まって、ナナにぃ」


 しようとしてユーディに止められる。すぅ……はぁ……と、深呼吸をゆっくり5回繰り返した後、俺の横に並び、




コンコン




 自分でノックをした。やはり心の準備は出来ても、いざその時が来ると乱れてしまうものか……。


「うー、誰よう?」


 ドアの向こうからは、何やら寝起きで不機嫌そうな声が、まるで地を這うゾンビからのもののように発せられた。


「私と」

「俺だ、話がある」

「ユ、ユーディ?ナナクサ?いいよ、入って」


 この扉の先にいかなる真実が隠されているのか。ゴクリと唾を飲み、ユーディと手と手を重ねてドアを開けて……絶句した。


 言葉がなかった。俺たちの心の準備は、過去の真実を知る準備に他ならない。こんな惨状を目の当たりにする準備など出来ていなかった。出来ていようはずがなかった。前回訪れた時は正常そのものだったのだから。


「「…………これはひどい」」


 ようやく絞り出した感想がこれである。


「ぅえ?」


 そこは散らかり放題の部屋だった。床は足の踏み場のないほどで、シワなど知ったことかと言わんばかりに衣類が散乱している。

 さっと見る限り、洗濯が必要なものと不要なものが入り混じっている。そればかりか、明らかに脱いだまま放置したと思われる下着も散乱し、隙間からは彼女の得物であるナイフの刃がきらりと鋭く光る。あまりの酷さに、美女使用済みの下着を見ても全く興奮できな──できてたまるか馬鹿野郎。


 一言で言えば汚部屋だ。っていうか、ナイフ踏んだらどうするつもりだ……自分で治すつもりか。それが元で血が付いた服とかどうでもいいのかよ……。


「……どうしてこうなった?」


 前回来たときは全く散らかっていない、きれいさっぱりとした部屋だったはずだ。この短期間に、一体何があったのだ?


「この前の報酬のあまりで、いろいろ買ったんだけど。下着とか服とか服とか。でも買ったのはいいんだけど、しまうの面倒になっちゃって……アレ?」


 ご覧の有様というわけか。

 ……ちょっと待てよ、あの一件の報酬は、基本分以外にも相当出たはずだ。主に石の売却分、均等割りでおよそ金貨5枚。


 …………まさか!まさかまさかまさか。このバカは……!!


「姉、いくら残っている?」

「え、ちょっとユーディ、その見た目もしかして、成人しちゃったの?」

「いいから、答えて」


 ユーディの目は、かつてと同じゴミを見るような目をしていた。ドMならご褒美ですとか言いそうだが、このバカは全く意に介さず。いや、単に寝起きで頭が回っていないだけなのか?


「あー……もしかして、お金借りたいの?」

「お前から借りようとするバカはこの世にいねぇよ。いい加減目ェ覚ませボンクラ」


 寝言は寝てから言え。いや、寝ても言うな。ここは借家じゃねぇんだぞ?


「ひどっ……いやまあ、いない方がありがたいかな。すっからかんだし」


 微妙な笑顔で俺に言って放つ。うん、相変わらずの金管理、自制の甘さ、それに加えて汚部屋。だめだこいつ、早く何とかしないと……。


「とりあえず、一発殴らせろ」

「な、なんで!?」

「私が許す、ナナにぃ、全力でやっちゃって」


 ユーディからもGOサインが出たので、遠慮なくぶち込むことにした。女に手を挙げる男は最悪だとか言う輩は多いが、こいつに限っては『女』ではなく『リレーラという名の生命体』だ。拳骨を頭頂部に叩き込みながら思う。俺たちの心の準備を返せ、マジで返せ。


お読みいただきありがとうございました。予定より長くなったけれどもあと3回くらいで今度こそ一区切りつくかな……?

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