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ぅゎょぅι゛ょっょぃ

 さて、まず現在の場所を確かめなければ。


「リラ、ここは何階かわかるか?」

「ん~とね、ふかい~!」


 …………オーケー。兎も角、脱出しなけりゃ話にならん。


 昨晩全員に話した方針は、『合流しやすいように歩いた道には痕跡を残せ』だ。それで合流できればよし、できなければ生き延びることに専念し、捜索部隊を結成して残された仲間を救出する。……尤も、こうまで深い階層に放り込まれた場合、ちと難しいだろう。


 それに、リラのこともある。スライムだからなぁ……戦力にはならんだろうし、守りながらとなると、おとなしく目印を刻みながら上層へ戻るべきか。いや、だがあのタックルは……。


「あ」


 突然、リラの足が止まる。手をつないでいたため、俺も足を止めざるを得ない。


「どうした?」

「美味しそうなのがいる~」


 は?一体何を言って……なんだ?リラの瞳が赤く……?


 そう思ったとき、およそ50メートル先の突き当たりの曲がり角から、白い巨大な何かが現れた。


「あれは……」


 目を細めてじっと見る。……白い猪?

 体長はわからんが、通路の天井までの高さからしておよそ体高1mくらいか。口から上に伸びる2本の太い牙が見える。もの○け姫に出てきた白い大猪のミニチュア版だというとわかりやすいか。

 だがどうにも異様だ。バチバチと、周囲で光がハジケているように見える。……まさか、帯電している?


 白猪がこちらを向く。俺たちに気づいたのか、砂埃を上げて一直線に突進してきた!


 まずい、どう動く?


 俺一人なら空気弾をギリギリまでチャージし、突進を回避して側面取って横っ腹にぶち込むが……今はリラがいる。リラが避けきれないだろう。


 ちょっとマジにどう動くべきだ?ギリギリまで引きつけて正面からぶち抜く?いや、勢いが殺しきれない。それではブチ抜いたあとの残骸の勢いに飲まれてしまう。


「いただきまーーーす!!」

「え?」


 いただきます?ナンデ?


 思案する俺をよそに、リラが突進する白猪に駆けていく。


「死ぬ気かーーー!?」


 なんとか引き戻そうと駆けるが、リラの方が圧倒的に速い!まるで追いつける気がしない!っていうかハヤブサより速くない!?抱きつかれた時もそうだけどなんでそんなに早いの!?


 くっ、ダメか……。


 諦め、頭の中で十字を切った次の瞬間、ドンッと轟音が通路に響いた。数秒の間を置いて、またドンと轟音が響く。


 一瞬、俺の思考が止まった。


 見間違いか?見間違いじゃなけりゃなんだ?夢か?マボロシか?


 ……リラが正面から白猪をぶん殴って後方へぶっ飛ばし、曲がり角の壁に激突した。

 ずるりと巨体がずり落ち、微動だにしない、ありゃあ……即死だ。激突した壁には赤い血がべっちゃりと派手にぶちまけられている。


「そんな、ばかな」


 よく見れば猪の頭部が少しばかり胴にめり込んでいる。

 俺の足は止まっていた。理解が追いつかない。混乱している。


 リラってスライムだよな?なんなのあれ?一撃?怪力?ヤバイ級ロリ?こんな理不尽あっていいのか?ア○レちゃんなの?それともダンジョン最下層にいる某魔王の娘なの?


 トタトタと白い猪の死体に駆けるリラ。


「いただきまーす」


 くちゃくちゃという音に混じり、ガリボリと歪な音が聞こえる。まるで煎餅をかじるような音だ。まさか骨ごと噛み砕いているのか?お前スライムだよな?溶かすんじゃないのか?


 急ぎ近づくと、リラが口を血で赤くしながら猪を食っていた。既に頭がなかった。赤く染まった瞳の色はいつの間にか元に戻っていた。


「……うまいん?」

「びみょ~!」


 そうか、微妙か……。頭だけでも相当な質量だよな?軽くお前の体積以上はあるよな?その体のどこに収納されているんだ?っていうか脳も食ったのか?なんでも食うのかよ……。


 あ、紺色の石。この猪にも……って!?


 むき出しになった肉と骨に混じった血まみれのソレに気づいたときには、リラがそれを手にして丸かじりしていた。丈夫な歯っていうレベルじゃない。


 ……俺はリラに関して考えるのをやめた。もう処理しきれない。正直頭痛い。


「うん、リラ、一旦ストップな」

「え~」


 とりあえず生食を止めさせることにした。


「肉は焼いたほうがうまい」

「そ~なの~?」

「そうなのだ」


 正直、このまま食事を進めさせるのはグロくてしょうがない。俺自身もグロが大好物ってわけじゃない。手と口を真っ赤な血で染めて生肉を丸かじりする幼女を有りか無しかで問われれば、無しで即答する。野生児云々よりホラー色の方が強い。

 それに料理に携わるものとして、衛生的に見ても野生動物?の生食は認められない。


「レディだというならもっと上品に食べるものだぞ?」

「あっ!……そ、そう……だよ……ね……」


 予想外に精神に大ダメージを受けているようだ。


「あんまり火は使いたくないんだが、しゃーなしだな……」


 一頭丸々焼くのは非常に時間がかかる。その上持ちきれない。悠長にしていれば匂いで他の魔物が寄ってくるだろう。対応できる相手ならいいが、どうにもならない奴が現れるリスクも勘定に入れなければならない。


 しかし、今の手持ちの干し肉だけで脱出まで持つとは到底思えない。ならば食えるだけの量を調理して腹に収め、干し肉の消耗を抑えるのは当然の判断だと思いたい。美味かろうが不味かろうが、この猪肉、有効に活用しなければ!


 肉付きのいい後ろ足の太ももだけを切り離し、毛皮を剥ぎ、血を[抽出]。可能な限り手早く処理し、手早く骨付き肉2本を焼き上げた。徹底して速度重視で仕上げたため、焼け過ぎたり一部炭になっていたり……。塩も何もないため、純粋に肉の味しかしないだろう。


「ほれ」


 リラに1本手渡す。まあ、骨付き肉まるじかじりが上品かと問われればNOだが、血の滴る生肉丸かじりよりかは……な。


「「いただきますっ」」


 うーん……致命的に不味いわけじゃないな。むしろ猪肉では上等な部類だ。口内に広がるこのな特の臭み……鯨肉ほどじゃないが……調味料が、いやさ、ワインが欲しいな。フランベって臭みを抜きたい。猪肉で試したことないけど、うまくいくのかね?


「はふぅ……ほんとにおいし~……」


 ……ええ?


「臭みとか……きつくない?」

「あるけど、お肉ってそういうものでしょ~?」


 そんなことありません。臭みが強いのは肉食獣の肉にある特徴です。実際、うちがハンター組合経由で購入している肉類に、肉食獣のものはない。


 なんだかなぁ……不憫に思えてきた。あかん、ちょっと涙腺が……。


「出られたら死ぬほどうまいもん食わせてやるよ」

「パパに殺されちゃうの~?」

「ものの例えだ!物騒なこと言うな!!」







「ごちそうさまでした」

「お腹いっぱい~~」


 ん?


「もういらんの?」


 頭と後ろ足がない猪を見る。さっきの食べっぷりからして足りないんじゃないかと思うんだが……。そう思うのは、あいつらの食いっぷりに毒されたからだろうか?


「満足なの、満たされた~!」


 ふぅむ……まあ、いいや。考えるだけ疲れるだけだ。


「先を急ごう。鼻が利くやつはもう寄ってきているはずだ」

「は~~い」


 白猪の死体を残し、左沿いに歩く。曲がり角も、上り坂も下り坂もトラップも魔物もない、全く変わりのない一直線通路。先の壁は見えず、霞んでいる。


 進んでいないのではないかという疑念すら抱き始めた頃。


「まーた……なんの冗談だ?」


 目の前およそ50m先の右曲がり(・・・・)の角の先。


「おろ~?戻ってきちゃった~?」


 頭部と、後ろ足2本がない白い猪の死体、そして正面壁には派手にぶちまけられた赤い血。ほんの1時間前に遭遇し、後ろ足を焼いて食った猪がそこにあった。ご丁寧に捨てた足の骨もそのまま残っている。


「戻ってきたって、曲線なしのストレート一本道だぞ?」


 猪のある角を起点に90度曲がっているんだ。そこからまっすぐ進んで戻るなど物理的にありえない。そもそも、俺が出てきたグレムリン共の巣はどこに?


「ふしぎふしぎ~!」


 ふむ……知らぬ間にトラップでも踏んだか?なら戻ればどうだろうか?


「もどるぞ」

「お~!」




 さらに1時間後──。




「だからなんの冗談だって……」


 また曲がり角のないストレート一本道を進む。およそ1時間後、目の前50メートル先の右曲がり(・・・・)の、そう、右曲がり(・・・・)の角に、例の白猪の死体があった。奥の壁に、ぶつかった時の猪の血がやはり派手にべっちゃりと付いている。


 引き返して戻ったのならば、角は右曲がりではなく左曲がりであり、猪の血痕が残る壁は右の壁になければ、そして猪の死体を側面からみる形でなければ不自然な筈なのだ。


「およ~?なぁにこれ~?」


 リラは呑気だな……。ま、流石にどういうことかわかった。


「こりゃ無限ループに入ったかな」


 何者かが俺たちを閉じ込めたと考えるべきだろう。おそらくは、俺たちを離散させた存在か。

 これが例えば、塔内部の螺旋階段ループだというなら、壁をぶち壊して外側からよじ登ればいいだけの話。

 だが、この場は地下であり、オマケに壁も硬いときた。物理的に破壊攻略するのは無理だろう。なので……。


「レベルを上げて物理で殴ってもどうにもならないなら、それはそれでやりようはある」


 俺は両手を地に付ける。使う術はただ一つ。


「[キャンセライ]」


 俺たちと猪の死体のある角のちょうど真ん中に、左に曲がる幅1mにも満たない細い通路が現れた。

 ……なるほど、空術で空間を歪めてループするように通路を繋げ、さらに陽術で幻を投影して横道を隠していたわけか。わざわざ隠した通路っていうのが肝だ。曲がり先の空間を歪めて他へ繋げればいいものを……。それができない事情があったのか?


「いくぞー」

「お~!」


 俺たちは隠されていた通路を進んだ。慎重に、警戒しながら進むが、特に何も起きなかった。


「あ、パパ、階段~!!」


 ……下り階段か。あくまでカンでしかないが、終点が近いような気がする。ならば……降りて行くべきだ。

 ここより深い層に飛ばされた誰かがいるかもしれない。最悪の場合、身動きがとれない状況に陥っていることも考えられる。ここで引き返して準備、救出の手順を踏んでいるうちに手遅れになるのはまずい。戦力があるならば、その状況でしか切れない札を切るべきだ。

 ただ、食料を考慮し、引き際を間違えないようにしなければならないだろう。


「行くぞ」


 背丈が低いリラの歩調に合わせて、一段ずつゆっくりと石の階段を降りていく。……気のせいか、妙に段数が多い気がした。

お読み頂き有難うございました。来週更新できるかなぁ……。がんばろう……。

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