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ある日、ダンジョンの中……

暗黒のGWが終焉を迎え、テンションが駆け上がるっ!

「はぁ……どうしたもんかねぇ……」


 胡座を組んでグレムリンの死体の、首の付け根部分をほじくる。不気味なほどに黒一色な2つの目は、死してなおその輝きを失っていない。『グレムリンは 生き返った』のテロップが流れても驚きはしないだろう。それくらい気味が悪い。


 そんなグレムリンのキモい死体が、山のように積まれている。ハリキリ暴れん坊将軍してしまった結果なのだが……疲れた。なんか途中からアドレナリンダダ漏れになってしまったし……。自分でやっておいてなんだが、この戦い方は合理的だが外道の所業だ。


 終わった頃には血と体液で全身緑色のでろんでろん。呼吸も乱れに乱れ、酸素が足らなく、さらに流血により血が足らないせいか頭フラフラ。両腕、背中、両足と至る所に引っかき傷に歯型を付けられて傷だらけ、服まで上下ボロボロ。満身創痍だ。


 明らかに危険な水準に達してた為、また手持ちの薬品類では明らかに足らなかった為、やむを得ず[自己再生]を使用し、一命を取り留めた次第だ。


 服に関してはグレムリンの血、体液を[抽出]し、さらに水を[抽出]して服をそこへぶち込み、洗濯後、[乾燥]させた。ボロボロでもないよりはましだ。俺は露出狂ではない。


 ウェストバックの内部にもグレムリンの血が浸透していたが、非常用の糧食である干し肉は油紙を用いた紙袋に包んであった為、辛うじて無事だった。最悪を想定して油紙を使った甲斐があったというものだ。

 いくら特定物質の[抽出]が使えるからといって、この気色悪い血をかぶった干し肉を食おうとは思えない。思えないが、兵糧のアテがない現状では、食物を捨てるという判断はできない。今後、例え汚染されても食わざるを得ない状況に陥る事が容易に予測できる。


 包帯と書きかけのマップは汚血で汚されてしまった。マップは[抽出]で血液を取り除けば使えなくはない。ボールペンのインクが油性だったのが幸いした。だが、包帯はダメだろう。迷わず捨てることにした。血中の雑菌やウィルスまで除外できないからな……。医薬品で悪化したら元も子もない。


「っと、これで21コ目」


 グレムリンの胸部から、[ボーンスティレット]を使ってビー玉サイズの紺色の丸い石をほじくり出す。

 ゴーレムにあった位置とは若干ずれがある。ゴーレムが首元だったのに対し、グレムリンはおよそ心臓の真上に近い。種族によって位置に差異があるようだ。

 ブツ自体は風呂場の給水源になっている、ゴーレムからほじくり出した代物と同じものだ。……ただ、大きさがふた回りほど小さい。これもやはり種族差なのだろう。


「見た目、まるでアクアマリンだな」


 石を取り出したグレムリンの死体を放り、次の死体に手を付け、石をほじくり出す。全員が俺と同じような目に遭っているとすれば、ジークとグレンは死にはしないだろう。……マイルズとリレーラだなぁ、問題は。あいつら、無事だといいんだが……。


 っと、取れた取れた、次っと。


 俺がいる場所は、おそらくは同じダンジョンの下層階なのだろう。構造が最初の階層、あれを1階層とすると、今現在の場所が同じ階層とは到底思えない。

 ……あれは踏んで発動するタイプのトラップじゃなかった。そうだったら、だらだら休憩できずに即座に発動していた筈だ。タイミングと視線、送り込まれた場所、全部考慮するなら……


「このダンジョンを、全部把握している奴が意図的にやったとしか思えない……」


 俺たちを各個撃破する為に分断した。そんな所だろう。よし、取れた。次だな。


「なんだかなぁ……ラムネ瓶からビー玉とってるような気分だわ……。ラムネ瓶にしちゃグロキモいけどな……」


 ビーダ○ンが何故か懐かしく感じた。言うまでもないことだが、両手も、加えて[ボーンスティレット]も緑の血塗れである。事が済み次第、もう一度きっちり洗おう。




3時間後──




「よし、行くか」


 腰のバッグとポケットは紺色ビー玉で一杯になっていて重い、じゃりじゃりする。まあ、仕方がない……。


 さて、3時間以上かけて悠長に採取に勤しみ、その上で十分に休憩をとった理由だが、下手に動いて入れ違いになるのは回避したかった。───その辺、昨日きっちり全員に教えたが、パニックで順守できるとは思えないからな。

 結局誰も来なかったが、この死体の山を見れば、そして死体に刻んだ7の字を見れば、俺がここにいた証明になるだろう。


 だが何より、休息が必要だった。実際3時間の大半が休息だ。採取に要したのは1時間。1匹あたりおよそ1~2分程度になる。

 この後30分で洗濯をし、1時間半程度、隅っこの血で濡れていない場所で横になり仮眠。疲労は取りきれていないが、そこはほぼ問題ないだろう。目下の問題は……。


「現在地なんだよなぁ……」


 この空間の天井までの高さはおよそ6m。1階層と大きな差はない。

 魔王城の土台となっている岩山部分が迷宮を構成しているとして、1階層分の高さが6m程度、そして階層間の厚さが3m以上と仮定すると、全体で5階層以上ある計算。

 だが、空術と同じ原理で空間を歪めて構成されている場合、どの程度拡張されているかわからない。下手をすれば10階20階じゃあ済まないだろう。


「……合流できるのか?俺ら」


 いかん、不安になってきた。……気持ちを切り替えよう。不安になっても得ることなどない。まずは、動かなければ……。




 グレムリンの巣を抜け、通路に出る。とりあえず索敵は必須だ。あとは気配を可能な限り消して、敵の索敵にも備えよう。

 周囲と同化するように、息を殺す。気配を消すのは得意なんだ、昔からな。

 さらに意識を耳に集中させて音を探る。


 ……ん?

 微かに足音が聞こえる。しかし、なんだ?音が軽い……それにリズミカルだ。いや、それだけじゃない!これは鼻歌!?


 そう思っていると、前方のT字通路右側から、鼻歌を歌う何かが現れた。


「んっふ~~~ふんふふん~~~♪」

「……なんの冗談だよ、一体」


 これ、俺の率直な感想。俺の目はバグっているらしい。それともあれか、世界がバグったのか?はは、世界がゴミ捨て場なんだからバグるよな。バグのひとつくらいあって当たり前か、HAHAHA。

 黒のセーラー服着た茶髪ポニテロール巻きの幼女が、鼻歌スキップして出てきたんだがらな!!!

 っていうか、あのセーラー服どっかで見たことあるようなデザインな気がする。足音の主はあれで間違いない。


「あ」

「お」


 セーラー服の未確認生命体と目が合った。俺と目があったと認識した瞬間、砂埃を上げながら幼女がこっちに突進してくる!!


「ぬぅ!?」


 やはり敵か!?やばい、早い!!防御姿勢を、いや、[ウィンドカッター]迎撃を──


「パパだーーーーーー!!!」


 え?何その超笑顔、っていうか……。


「やっと会えたーーーー!!!」

「ブボォッ!!!」


 俺は突進という名の抱きつきを一身に受け、そのまま後方に……多分10mくらい吹っ飛ばされ、そのまま押し倒された。


 お、おおお……なんという衝撃……。内臓無事だよな……?なんか異様に痛い……。口に鉄の味が……ああ、これ血の味……これあかんやつや。


「い、いちおう……『修復』……」


 あぁ、腹が楽になった……やっぱり今ので俺の内蔵がパンパカパーンしてたらしい……。おお、あぶねぇ……。こういう時には出し惜しみはするべきではないな、ペナルティ怖いけど。


「とりあえず……お前誰だ?」


 俺の腹に抱きついている少女に話しかける。見た目に反して力があるな……。腹が締まる……。顔を上げてちょっと茶色の瞳が俺の目を覗き込む。……なんだろう、この違和感は。


「え~、忘れちゃったの~?森の中で運命的な出会いをしたのに~?」


 ……はい?森?ちょっと意味がわからない。


「えーっと、こういう時はどうすればいいんだっけ……あ、アイサツだね~!今こそベンキョーのせーかをはっきするとき!」


 するりと俺から離れて向き直る。それに合わせて俺も立ち上がり、向き合う。と、少女は手のひらを合わせた。


「ドーモ、パパサン、スラリンです」


 ズッコケそうになった。


 アイエエエエエ!?ナンデ!?ニンジャナンデ!?


 だが、ここで乗らなきゃあなんか知らんが負けた気がする。挨拶は重要だ、古事記にも書いてある。


「ドーモ、スラリンサン、ナナクサです」


 俺も両手を合わせてアイサツをする。


 ……ってぇ、ちょいまてや。スラリンってなんやねん。どこのRPGのお供だよ……。

 ん?スラ……リン……とな?


 俺の中でキーワードがつながる。森、出会い、スラリン……この3つから導き出される答えとはつまり……!!


「まさか……お前あの時のスライムか!?」

「そ~だよ!!」


 やっぱりか……!

 俺がこの世界で、ジークと出会う以前に遭遇したスライム。そう、あの時俺は去り際に、某怪盗3世のごとく、「あーばよ、スラリン!」と言った。

 ……いや、まて、どのへんがスライムなんだ?どう見てもお子様なんですがそれは。




 ひとまず、この場で座り話を聞いてみることにした。この子に敵意はないようなので警戒は緩めている。現在位置の安全確認はしたが、そっちの警戒は緩めてはいない。


 とりあえず干し肉を与えてみた。


「ん~、おいし~」


 満面の笑みだ。うーむ、そこまで美味しいとは思わんのだが……。


「まー、なんだ、いろいろ突っ込みたい部分が多すぎるんだが……」

「えっちぃ」

「なんでや!!まず、その格好は何?」


 どっかで見たようなセーラー服、いや、俺の記憶に濃く残っているものとデザインが合致している。


「えっと、それっぽくしてみたの~!」


 どろりと、裾が溶ける。


 なるほど、体を変形させていたのか。こうして見ると確かにスライムのようだな。


「ちょいと失礼」


 溶けていないそのままの裾を触り、感触を確かめる。

 ……布だな、明らかに布だ。液体のような感覚はしない。スライムすげぇな、こんな器用なことまでできるのか。


「もっと触ってもいいのよ~?」

「やめとくわ」


 早々に手を離した。誘惑するには年が足らんよ。


「次……その偏った知識はどこから仕入れた?」


 さっきのアイサツにしろ、その半端な知識にしろ、服装にしろ、どうみても俺の元の世界、地球の、日本からのものだ。ベースになる情報がなければ得ることができない筈の……。


「落ちてた本を食べたの~!」

「落ちてた……?まさか……あの場所に?」

「うん」


 干し肉をかじりながら思い出す。あの場所、あの森……たしか、リュックとボールペンとブランケット、それと飲みかけのボトルが落ちていたな……。


 ……まさか。


 たらりと、嫌な汗が背を流れる。


「なあ、その本ってのはどんな本だった?」


 嫌な予感がしつつも聞かざるをえない。俺の予感が当たってるとしたら……。それは……。


「ん~と、きれいで、薄くて、おもしろいことへんなことかっこいいことすごく難しいことえっちぃこと描かれてた~!!」


 最後の部分で、嫌な予感が加速する。


「……その服装はもしかして、そのえっちぃ本を参考にシタノデショウカ?」

「うん!他にも変えられるよ~!」

「うわぁぁあああーーー!!!」


 俺は頭を抱えた。


 はっきりわかった。俺が回収した以外にも、俺の部屋から飛ばされてきたものがあったのだ。

 そう……俺の秘蔵のウス=異本、否、薄い本……!!本棚の半分を占めるエロと健全五分のあれらのうち、どれだけ飛ばされてどれだけ食ったのかわからんが……。


「そこそこおいしかったから本棚の全部食べたよ~!!」

「ぬわーーーーー!!!」


 希望を抱いた俺がバカだった……そうだよな……あの苛酷な環境でタダで食べられるものがあったら食うよな、そりゃあ。残っているわけがなかった。せめて1冊でもと思っていたが、希望なんてなかった。

 いや、冷静に考えりゃあ、あんなとこに放られていりゃあ水分吸ってしわしわのゴワゴワの草汁シミまみれだよな……。いくら質が良くても紙だもんな……。


「だめだった~?」


 そんな不安そうな顔でこっち見るな。


「イや別にええよ……ハナからあきらめとったもんやったしの……。ただ、あれや……。PCのデータと秘蔵の本棚はなぁ……たとえ実の親でも義理の娘でも、暴いたらあかんのや……!スター○ンだって言ってただろうが……!!」


 穴があったら入りたい……。俺だってね、こんなハズい結果になるんやったら置き場所とかもっと考えるわ……。一人暮らしで誰も入れるようなもんじゃなかったから、完全に油断した……くそぅ。押入れに隠し本棚作るとか、手間を惜しまずやるべきだったよ。


 あ、でも無駄か。よく考えれば押し入れにしまったボールペン束まで飛ばされてるし。……なんか、意図的に選定されて送り込まれたような気がしてきた。


 選定?誰が?ロンゲが?いや、これは事故だろ、なら選定は不可能だ。

 仮に選定したとするならば……それができるのはロンゲ神を手玉に取れるような、圧倒的にロンゲ神を超える存在にほかならない。まあ、もしそうなら無駄な努力になるわけか……ああ、もういいや、そうだと思っておこう。じゃなきゃやってられん。


「つまりあれか、その格好と髪型と、それをベースに真似たのか……」

「そうだよ~。髪は何回も違うのいろいろ試してやり直して~、一番しっくりするのにしたの~」


 腰まで伸びるポニーテールの巻き毛の先をくるくると楽しそうに指で巻いている。確かに、気に入っているようだ。


「服は、一番描かれてるのが多かったのにしたの。露出少な目、スラリンは淑女だもん」


 ない胸を張りふんすふんすと息を荒くするスラリン。なんか背伸びする子供を見ているようで微笑ましい。


「さいですか」


 あれ、ちょいと待っておくれよ。


 頭のテッペンからローファーを履いた爪先まで見る。羽はない、しっぽはない、モフモフな耳もとんがった耳もない、肌の色は色白。外見、人間、だよなぁ?


「失礼」


 手を取って手の甲を観察する。


「ひゃうっ!」


 ちいさくてぷにぷにするが……うん、血管が見える。ひっくり返して手のひらを見ると、手相までクッキリわかる。そして血管も、網のように手のひらに有り、指先へと伸びている。

 再現度が高すぎる……こんなん薄い本から得られる情報の範疇を超えているぞ?一体どこからこれほどまでの情報を……。


「どうしたの~?」

「いや、どうやってその体を作ったのかってさ」


 聞いて回答が得られる……かな?難しいか?


「んっとね!難しい分厚い本に、細かく書かれてたの!」


 分厚い?難しい?そんなもん本棚に突っ込んでいたっけか……?娯楽と煩悩の塊のような本棚だぞ?そんなもん……。


「あったわ……」


 思い出した、だいぶ昔に弟が置いていった医学書が、本棚の下段片隅に入れたままだった。医者を諦めて建築家になるってんで、邪魔だけど勿体ないから置かせてくれと置いていった代物だ。

 売ればイイ値になるんじゃないかと言ったが、「なんかもったいない」と……。……何をどうすれば医者から建築家に方向転換するんだろうな。そしてなぜ俺の家の本棚に置いていこうという発想に至ったのか。出処はあれかー……納得だ。


 …………待て待て待てぇい!

 どうやって日本語を読んだんだ!?こっちの世界で翻訳は不可能の筈──いや、その無理を通すモノが、あったよな……あそこらへんに……。


「もしかして、赤い木の実、食べたか?」


 原因があるならばアレしかないだろう、あの赤い木の実、リンゴ──[知恵の実]だ。


「前に食べた~!すごくおいしかった~!!」


 やっぱりか。その[知恵の実]を食った事で会話可能な知性を得、書かれていた日本語がわかるようになり、薄い本の内容を良くも悪くも理解できるようになったのか。


 さて……ぼちぼち肝心な部分を聞こうじゃないの。


「パパってなにさ」

「名前付けたのがパパだからパパなの~!」


 いやぁ、アレを名前つけたっていっていいのか?恐怖を薄めるためにノリで放ったようなもんだぞ?


「せめてパパ上って言ってくれ。パパだと犯罪的に聞こえてしょうがない」


 中身30歳のオッサンなのだから、そこだけで考えればスラリン位の娘がいても計算上合わないわけではない。しかし……なんかこう、ね。

 俺未婚だしさ、まだパパと呼ばれるには早いと思うんだ。パパ上ならまだギャグっぽく聞こえるだろう?


「やだ~」


 ですよね……わかりきってたわ、その反応。言ってみただけだよ。


 最後に核心部分を確かめよう。疑問はまだまだ尽きないが、こんな場所ではゆっくり検証できやしない。だいぶゆっくりしている気もするが。


「どうやってここに着たんだ?あの森からここまで、とてもじゃないがとんでもない距離があるぞ?」


 記憶に在るスラリンの動きはとてもスロウリィだった。いくらなんでも、あの移動速度でここまでくるには年単位の時間がかかる。いや、その前にバランドーラ死地で干からびて死ぬ。


「ん~っとね、気がついたらいた!」


 答えになってねぇ……。

 んや、ちっとまてよ。もしかすると……スラリンは俺たちの逆ではないのか?

 このダンジョンの何者かが、俺たちを分断してやばい場所へ転送させた。スラリンの場合、その何者かがダンジョンへと無理やり召喚したとしたら?だが何の為に?減少傾向にあるダンジョンの魔物の穴埋め?

 ……だめだな、判断材料が足りない。


 さて、どーするか。……今日何回目だろうな、どーするかって思ったのは。

 今の状況を言うならば、こうだろう。ロリなスライムが起き上がり、仲間になりたそうにこちらを見ている。いや、正確には、付いていくのが決定事項だと言わんばかりの顔でこちらを見ている、だな。


 ……うーん。


「はっきりと、自我はあるんだよな?」

「自画自賛なの~!」

「意味が違うわおかしいわ」


 性格的にはユーディの正反対だ。足して二で割ればよくいる小学生だろう。些か元気すぎるのと、知識に偏りがあるのが少々……その辺の原因が俺にもあるから何とも言えん。


 もし、このまま置いていったとする。


 無理やり付いてくる⇒引き離す⇒付いてくる⇒引き離す⇒エンドレス


 もし置いていけたとしても…………ダメだわ、置いていかれたのを想像すると……。



・・


・・・



「え~~~ん!パパぁぁあ!!!おいていかないでぇぇ!!!やだ~~!一人にしないで~~~!!!」



・・・


・・



 あかん、良心が痛い。それは選択肢にない、ありえない。再会した時の喜び様から察するに、想像通りになるのはほぼ間違いないだろう。

 さらにあのタックルの威力。そう何度も喰らうような事になれば、いくら[自己再生]できるとは言え、未だ知れないペナルティがどれだけ累積するのか、考えるだけで恐ろしい。

 いや、もし少しでも強力になったならば、[自己再生]する間もなく、心臓が衝撃で破裂するだろう。


「……ほれ、行くぞ」

「え?」


 俺はスラリンに手を差し伸べる。


 えって、お前、何不思議そうな顔しとるんよ?


「なんだ、来ないのか?」

「肩車がいい~!!」


 まさかの斜め上回答、そうきたか。


「……わかった。外に出たらやってやるから、我慢な」

「は~~い!」


 スラリンが俺の手を掴む。


 下の弟が小さい特によく肩車をしたものんだが、まあ、あれだ。部屋の仕切るふすまの梁に頭をぶつけそうになるというスリリング肩車になった。ありゃ屋内でやるもんじゃない。遠い日の思い出である。


「もうちょっと女の子らしい……いや、ちょいまて、女の子だよな?」


 疑問、スライムに性別ってあるの?


「しょーしんしょーめいゆいいつむにむにの女の子だよっ!」


 唯一無二の使い方、間違ってるぞ。


「もっちょい女の子らしい名前つけんとなぁ……」


 手をつないで歩き出す。もちろん周囲の警戒は緩めていない。


「スラリンでいいよ~?」

「いや、ちゃんと考えてつけなあかん」


 名付けはよく考える、俺のモットーみたいなもんだ。センスの云々は兎も角として、弟たちのように適当につけたような名前ってのは、正直なんとも……な。


「……リラ。今日から名前はリラだ」

「リラ?」

「花の名前だ。いい香りの、綺麗な花だ」


 香水にも使われるくらいらしいからな。俺の好きな花でもある。


「わぁ……うん!ありがとうパパ~!!」


 笑顔が眩しいっ。俺の残虐な部分が浄化されるっ……!


「だからパパはやめろ、せめてパパ上と」

「ヤダ~」


 笑顔でやだとか言うなよ……。


「もーええわ、どうとでも呼んでくれ」


 大人しく諦めることにした。何か見落としている気はしたが、それに気づくことはなかった。

お読み頂き有難うございました。

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