ユーディのお昼
ついぞさっき風呂に入っていたらピンと来たので。
短めです。
ユーディ視点
ナナにぃの部屋の窓から外を見る。太陽が真上、うん、お昼を過ぎた。
ナナにぃから渡された茶色い紙袋を開ける。中身はお弁当。みんな一緒に食べられないだろうからって、みんなに渡したって。
今日のお昼は、ナナにぃが作ってくれたサンドイッチ。真っ白な柔らかい四角いパンに、薄切りの焼いたハムと採れたてのコケトリス卵の目玉焼きが挟まったもの。結構大きい。お昼に帰ってこれないから、お屋敷のみんなの分を朝のうちに作ったって言ってた。
でもナナにぃとかジークとかグレンとかは持っていかないって。ナナにぃは──
「昼時に確実に食えるかわからんしな。それに、柔らかい分嵩張る」
──って言ってた。よくわからないけど、持っていけばいいのにって思う。
こんな柔らかいパン、ここで暮らすようになるまで食べたことない。ナナにぃの焼きたてを食べたことがあるけど、甘くて、柔らかくて、美味しくて、すごいご馳走だって思った。
薄切りの焼いたハムだって、ちょっとしょっぱくて、たくさん食べたくなる。
コケトリスの卵だって安くない。そんな卵を、ナナにぃは絶妙な加減で半熟で目玉焼きにする。お醤油をかけてご飯と一緒に食べるとすごく美味しい。
そんな三つが一緒になったこのサンドイッチ。パンもハムも目玉焼きも、時間が経って冷めちゃってる。それでも、私にはとても魅力的なご馳走。……昔のあの頃と比べれば、ううん、比べること自体が間違っているくらい。
「いただきます……」
大きく口を開けてかじりつく。サンドイッチはナイフもフォークもいらない、手でつかんで、そのままかじりつくものだって。
「んっ……」
口の中にパンの甘みが広がる。そこにハムのしょっぱい味とお肉の味、そして目玉焼きの白身の味が混ざり合う。自然と唾液が出てきて、混ざり合って、ごくんと飲み込む。
「おいし……」
もう一口、もう一口とかじっていく。
今の私は、すごく幸せだと思う。5年前のあの頃は、一日一回食べられればいいくらいだった。お腹いっぱいになんて食べられなかった。毎日毎日お腹を空かしていた。
……けど、あの日、ナナにぃが来てくれた。あのお肉の味は、どっちも一生忘れない。
「んっ……はふっ……」
黄身が加わって、口の中で違った味に変わる。黄身の分だけ味が濃くて、とろとろで、甘い。
……あの日、ナナにぃは私に生きかたを教えてくれた。食べられる草の見分け方、食べ方。買い物の時のネコ?のかぶり方。
あの時の私は、ずっとドキドキしっぱなしだった。いっしょにいたのは短い間だけ。そのドキドキが恋だって気づいたのは、ナナにぃがいなくなるちょっと前。
あれから家が土砂崩れで埋まっちゃって、住む所を失った私は姉が持ち出したお金を取り立てることにした。なにをするにもお金が必要だっていうのはナナにぃから教わった。取立ては徹底するっていうことも、ナナにぃに教わったこと。
……悪い人に捕まっちゃったけど。
でも、そのおかげでまたナナにぃに会えた。助けに来てくれた。約束、守ってくれた。暗くて最初、ナナにぃだってわからなかった。そこで初めて、ナナにぃの名前を知った。
そうして、私はナナにぃ達と一緒に住むことになった。姉も見つかった。成人したての頃と同じで、やっぱり馬鹿だった。
シルヴィおじさんが私を引き取るって言ってくれたけど、私はナナにぃがいいって言った。……いつか、ナナにぃはこのお屋敷から出て行くのは、知っていたから。そうなったら、またしばらく……ううん、もう会えなくなるかもしれないって思ったから。
それに……ナナにぃは、私を妹としか見ていない。ナナにぃが私を見る目は、姉が私を見る目に似ていた。……今の姉は、ちょっと怯えているけど。
私の体はナナにぃの好みじゃないと思う。小さいし、胸もないし、子供っぽい。まだ成人していないから子供だけど……それまでにおっきくなると思えない……。ぜつぼーてき……。
この先、ナナにぃは私以外の誰かを好きになって、誰かと結婚して、誰かと子供を作るんだと思う。そこに私はいない。
……ちがう。
そこに私はいたい……!ナナにぃのそばにいたい!!
諦めたくない……私が誰よりナナにぃのことが好きだから……!!取られたく……ないっ……!!誰よりも近くにいたい……!!
「……なんだか、サンドイッチしょっぱい」
……あと数ヶ月で、あの日が来る。あの日が来れば、あとはもう……。
「ごちそうさま」
サンドイッチを食べ終わって、ナナにぃのベッドに横になって、毛布に包まる。
ナナにぃの匂いがする……。
「恋って……甘いだけじゃないんだ……」
ナナにぃ……早く帰ってきてほしいな……。頭なでなでしてほしいな……尻尾も……ブラシかけて欲しいな……。
お読み頂き有難うございました。
恋する乙女はいいものだ、そう思いません?
ちゃんと伏線は回収します、投げっぱなしになんぞしません。




