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後継者

 馬車に乗り込み、俺とワグナーさんが隣り合うように、ミート君とリレーラさんが隣り合うように座る。


「まず、今起きていることを説明するよ」

「その前に若様、彼は……?」


 こちらを値踏みするように、疑心に満ちた視線を送ってくる。いるはずもない存在であり、黒髪というありえない色をしているらしい俺を警戒するのは当然だろう。


「僕らが盗賊に襲われていたところを助けてくれたんだ」


 ミート君の発言に慌てふためくリレーラさん。


「だだだ大丈夫なんですか!?どこかお怪我は──

「落ち着け、リレーラ、全員無傷だ、ナナクサ殿らのおかげでな」


 ワグナーさんの言葉で、しん、と静かになる馬車内。


「まあ、自己紹介しておきますかね。俺はナナクサ、表のゴブリンのジーク、リザーディアのグレンと共に、現在ミートボール氏の護衛をしている」

「それ、なんだけどね……ちょっとまずいことになっちゃったんだ」


 ミート君の表情を見るに、不味いことが起きていることは分かる。しかしその仔細までは流石に分からない。


「一体何が起きているんで?」

「まず、手紙の内容。掻い摘んで言うと、魔王陛下からなんだけどね。そろそろ死ぬかも知れない。僕を魔王に継承させる儀式やるから、領主全員集合してくれって」


 うわぁ、すごいわかりやすい。……ん?領主?

 内容がその通りならばこの手紙は領主宛のはずだ。それを態々急ぎで領主の息子のミートボール君まで届ける必要はないはずだ。そもそも直接関係はないのだから。

 いや、俺はまさかとんでもない勘違いをしていたのか?


「領主の息子……ですよね?」


 コホン、と、横から咳払いが聴こえてくる。


「このお方は……魔王陛下の御子息、第一王子にして、マンマール領を収めるマクシミル殿下なのだ」


 はい?まんまるマックス?

 異世界流の名付けだろうと納得させていたが、やはり偽名だったか。更に2世ってところと、このミニマムボディに見事引っかかってしまったわけか。先入観って怖い……。


「オーケー。把握。つまり、あの盗賊の襲撃は、偶発的なものじゃないと考えているのですね」


 招集と襲撃の因果関係がないとは思えない。何かが裏で動いていると考えるのはおかしなことじゃない。


「多分そうでしょうね」

「間違いなく計画されたものかと思われます」


 ワグナーさんはなにか根拠があるようだ。


「殿下を排したい者を挙げるのは、そう難しい事ではありません。先の襲撃犯、私はバルフィリアス魔爵の手の者と推測します」

「誰ですかそれ?」

「ウィルゲート大陸北部に位置するリューリンゲル領の領主にして、初代魔王陛下の時代より彼の地を治める最古の領主です。名を、シルベイクァン=バルフィリアス……。領主以前は初代魔王陛下の右腕として力を振るっていたと聞きます」

「よく知らないけど今400歳くらいじゃないかな?」


 規格外のじいさんだってことはわかった。むしろここまででお腹いっぱいです。


「もし殿下がお亡くなりになられた場合、順当に考えればバルフィリアス魔爵が魔王の椅子に座ることになるでしょう。執心しているのは事実かと。実際、過去幾度となくマンマール領にてバルフィリアス魔爵の密偵を捕縛、尋問もしております。捕まえても捕まえてもゴキブリのように湧いてくる始末で……」


 この世界にもゴキブリはいるらしい。忌み嫌われるのはどの世界でも共通なのか。俺も台所の敵である奴らは嫌いだが、これでは流石に哀れみを感じてしまう。


「つまり、外交の日程とルートが漏れた……と」


 仮にそのバル……長いからもうバルサンでいいわ……そのバルサンがまんまる殿下を排除し、その後自らが魔王になりたいがために襲撃を指示したのだとすれば……。いや、そもそも根本的なところがわからん。


「ちょいと聞きたいが……魔王になるメリットって何があるん?」

「「「メリット???」」」


 三者三様、うーんと悩み始めた。最初に口を開いたのは、ワグナーさんだった。


「魔都周辺の甜菜畑を始めとした農地の利権ですかね」


 甜菜あるんですか!? ……ああ、そうか、お菓子の原料の砂糖は自給自足なのね。


「魔王より上の地位はないから、自尊心は満たされると思うよ?」


 自尊心、か。誰かより偉くなりたい、上でありたいと思うのはおかしいことではない。

 しかしトップに立つのが目的なやつがトップになるほど、愚かなことはない。明確な先のビジョンがないからな、やる事成すこと碌でもない結果になる。どこぞの国の元首相のように。


「あ、歩いていたら皆跪く?」


 リレーラさんよ、それはどうかと……いや、そうでもないな。玉座ってのは、高い場所に置かれるもんだ。いや、玉座に限らず、城だって高く高くつくる。戦国日本でも、大名行列で頭を低くしなければ、問答無用で無礼打ちだ。……俺が認識している以上に、高いところにいるっていう立場が大きいのかもしれない。…………それも自尊心のうちか。

 妙だな、流石に少ない。まあ、贅沢できるのは当然だとしても、何かが抜けているような気がする。いや、あえてそれを意図的に除外しているのか?


「なるほど、分かりました。ただ、俺には主犯がバルサンと決め付けるには早いと思います」

「「「バ、バルサン?」」」

「長くて言いにくいんで。……魔王の椅子が欲しい他の誰かに、バルサンが情報を売った、あるいは、密偵がバルサンの手の者に扮した他領の者だった、そういった線も考えられませんか?前者ならば共犯ですが、後者ならば被害者です。それに、バルサンが本当に魔王の椅子が欲しいなら、とっくの昔に座れていたのでは?初代魔王の右腕とも言われるほどの人物なら、それも可能だったのではないでしょうか?」

「あ、なるほどー」


 リレーラさんが感心したように頷く。


「確かに、そういう線もありますか……。しかしそうなると、誰が敵で誰が味方なのか……」


 ワグナーさんの表情は厳しいが、反してマクシミル殿下の表情はあっけらかんとしていた。


「関係ないよ、この手紙で各領主はバタバタしているし、はっきり味方だって分かっても、支援を頼めないし、出せない。全員、時間がないからね……」


 絞込みを諦めたからか……。確かに領主集合ってことは、護衛付きでの大移動が起きる。移動には日数、食糧が多くかかるが、そのうちの日数が問題だ。


「グズグズしていれば手遅れになりかねない……か」


 うだうだしているうちにポックリ死んじまったりすれば……あれ?


「魔王継承の儀式とは一体何をなさるんで?」


 すっかり頭から抜けていた。そもそも、これがあるから間に合わせなければいけないのだ。この重要性を俺は知らない。


「歴代魔王の知識を継承するんだ。魔王という存在がある限り、同じ過ちを繰り返さないよう、初代魔王様が生み出した術らしい」


 まるで伝○法だな。つまりそこには下手に書面に書き起こせない知識も含まれるわけだ。禁術とか過去の尻拭いとか握っている弱みとか。

 つまり、魔王そのものが、ウィルゲート大陸の歴史そのものなのか。その歴史が失われれば、魔王の存在意義の大半がなくなるわけね。魔王の立場にメリットが少なくとも、消失させることのデメリットが大きいわけか。


「当面の問題は、この状況でどうやって魔都ウルラントに向かうかなんだ」


 マクシミル殿下が地図を広げる。大雑把な地図だが、都市、山、河川、森林、街道と、最低限必要な情報は記されていた。


「普通に考えれば、ここからマンマール領に戻って身の回りを整えてから向かうものなんだけれど、ここからマンマールまでの間に、あるいはマンマール領内にも伏せている手がいると思う。そうなると、必然魔都に向かう時間も遅くなる。最悪、間に合わないっということも……」


 こっちの勝利条件が厳しい件について。崩御までに間に合わせれば勝利。間に合わない、誘拐される、死亡で敗北。しかも敵の正体が不明。トラ○ア7○6をユニットロストなしでクリア並に難しいわ、勘弁してくれ、俺はあれを二度とやりたくない。楽しんだけどさ。


「若様だけでも魔都へ向かうべきです!」


 いや、リレーラさんよ、そう甘くはないでしょうよ。


「論外だ。どう考えてもここから魔都までのルートも網を張られているだろう。向こうに顔が割れている以上、捕捉されてしまう」


 ワグナーさんの反論はもっともだ。バレないようにここから魔都まで殿下を運ぶ。言うだけなら簡単だが、殿下の特徴的すぎる外見がそれを大きく阻害している。糸口が見えても依然として難易度がベリーハードだ。


「それに若様の背丈では馬は乗れない!私かリレーラ、あるいはマイルズの同乗が必要になる!」

「言わないでよ、気にしてるんだからさ……」

「失礼致しました……」


 そこは盲点だったな。言われれば確かにそうだ、その背丈ではどう足掻いても鐙に足が届かない。さらに難易度が上がった気がする。

 ふーむ、バレないように……箱に入れる?いや、それはどうかと……入れる……ん?

 ふと、あるものの存在を思い出す。足元に置いておいた、それの存在を。年2回だけ、されど激戦を共にした相棒を。この世界でもまた、相棒として活躍した存在を。


「なんとかなるかもしれないな……」

「「「え?」」」


*


 マイルズさんが馬車に繋がれていた黄ばんだ発情駄馬を外し、鐙を付け、食料入りの箱を括り付けた。


「マイルズさん、こいつの名前はなんて言うんです?」

「こいつか?いや、名無しだ」


 あら、他の2頭も名無しのごんべか?


「じゃあ名づけちゃっていいですかね?しばらくの俺の相棒になるわけだし……」

「……まあ、いいんじゃねぇか?禁止されているわけでもねぇし、大丈夫だろ」


 よーし、この発情エロ馬をどうしてくれようか。…………その前に、ちゃんと走るかどうか不安になってきた。

 マイルズさんは購入した子とリレーラが乗ってきた子を馬車につないでいる。このおバカはまだメス2頭に釘付けである。……仕方がない。


「おい、俺の言ってることが理解できるなら一回鳴け」


 馬っぽい鳴き声に感情を乗せて言ってみる。さて、どうくるか。


「ヒヒィイン!」


 おおう、通じた、よしよし。

 駄馬の耳元で囁くよう語りかけた。


「いいか、よく聞け。残念ながら、お前はあの子らに全く相手にされていない」

ヒッ(えっ)!?」

「なんでかわかるか?お前が、平凡な、いや、メスに発情して鼻の下を伸ばしている下劣な馬にしか見えないからだ。おっと、勘違いするなよ、俺はお前の味方だ。だから最後まで聞け。お前の未来を薔薇色にしてやるよ」

ブルゥ(マジで)?」


 自分で言っててなんだが、これ詐欺師の手口だよな?まあ、ほかにやる気にさせる手がないのだから仕方がない……。


「要するに、だ。お前が速く、美しく、豪快に走る様を見せてやればいいんだ。その辺の駄馬と違うところを、だ。確かにお前の体毛は黄ばんでいる。だがな、それが汚い黄ばみになるか、日の光を浴びた黄金の船(ゴールドシップ)の輝きになるか、それはお前次第だ。俺達とあの子達の目的地は違うが、一瞬でも気を引けるような走りを見せてやればいい。そうするとどうだ、お前に興味を持つようになるよな。ここまではいいな?」

「|ヒヒィン(あ、ああ)」

「オーケー。あとは簡単だ。俺があの子達の前で、いかに速く走ったか、すごい馬か語ろう。それを聞いたら、もうわかるな。お前にメロンメロンになっちまうスンポーだ。まあ、俺が語らずとも勝手にメロメロメロンになっちまうかも知れないぜ、お前の頑張り次第で。そのあとは……ズッコンバッコンハメ放題だ」

ブッヒィィーーン(うっひょーー)!!」


 ……お前、馬だよな?豚じゃないよな?っつーか、本当にゴ〇シじゃないんだよな?


「いいか、俺の口だけじゃあ俺が嘘言っているようにしか聞こえない。だが、お前の走りを見せれば、俺の言うことが真実味を帯びて、説得力を得る。お前ならやれる、ハーレムを作れる!!バラ色の未来が待ってるぞ!!!」

「|ブヒィィィイイイイインン(いよっしゃぁぁぁぁ)!!!」


 なんとも単純なやつだ。まあ、嫌いではないがね。裏表がないやつは好感が持てる。持てるが……少しは賢くなるべきだと思った。


「よーし、お前に名前をつけてやろう。他の馬は付けられないから、特別だぞ。……そうだな、ゴールドシ──いや、ハヤブサ。今日からお前はハヤブサだ」


 アホみたいな速さを出せるバイクの名だが、すんません、俺それしかバイクの名前知りません。


ビヒィイイイイ(きにいったぜ)!!!」


 うん、気に入ったようだ。一応速いということで島風も候補に挙げたが、このエロ馬につけた場合、次元の壁を越えてお叱りを受ける気がしたのでやめた。

 俺はワグナーさんが用意した黒マントを付け、黒リュックを背負い、やる気を出したハヤブサに跨った。丁度リュックがマントで隠れるようになった。……けど、背中がモッコリしているように見えるよな、これ。


「ワグナーさん、マイルズさん、あいつらのこと頼みますよ」

「おう、まかせとけ!そのかわり、そっちも頼むぜ!!」

「ご武運を」

「任せてください」


 俺はハヤブサの背を撫でた。


「オーケーオーケー、いい子だ。いいか、ただ早いだけじゃあダメだ。それじゃあ馬鹿と変わらん。ちゃんと言うとおりに動くんだ。そのほうがかっこいいだろ?」

ヒヒィィィイイン(たしかにぃぃ)!!」

「よし、いくぞっ!!」


 10年ぶりくらいの乗馬だが……うーん、尻大丈夫だろうk───


ギュン─────!!!


「うぉあああああ!!?」


 ハヤブサが出だしから猛加速した。すんでのところで手綱を握り、なんとか体勢を整えることに成功。

 あっぶねぇ、落ちるかと思った。っていうか振動がはんぱねぇ!それ以前に速度がありえねー!!

 速い!!速い!!!はっやーーーーい!!!サラマンダーよりはやーーーーい!!!

 なんてのんきなこと言えねぇよ!風圧で顔がっ、めくれるっ!いてぇ!!前が見えんっ!!!一体時速何キロ出ているんだ!?


「ちょ、おま、ま、いったんとま───」


 だめだ、俺の口から出た言葉は、次の瞬間にははるか後方に置き去り……ハヤブサの耳には微塵も届いていないようだ。




*




 遡る事数時間前の馬車の中。俺は彼らに自身の策を説明した。


「二手に分かれましょう。片方は馬車でマンマール領へ。もう片方は騎乗して魔都へ向かいます。まあ、殿下は魔都に向かう側になんですが、そのままだとモロバレルなので、コイツの中に入って頂きます」


 どんと膝の上にリュックを載せる。


「コイツの積載量は殿下の体重くらい余裕です。その程度で底が破れて抜けたりはしません。こいつを俺が背負い、スレイプニルに騎乗して魔都へ向かいます。つまり一見すれば、殿下が放った魔都への雇われ伝達者(メッセンジャー)にしか見えないってわけです」

「馬車を囮にする、ってことだね」

「ええ。敵勢力もまさかこんな物の中に殿下がおられるとは思わないでしょう」


 馬車に敵勢力を引きつけることができれば、それだけ安全に魔都へ向かうことができるわけだ。単純だが、今打てる最良の手だと思う。


「もっとも、この作戦はそちらが全面的に俺達を信用しなければ始まりません。顔が割れているあなた方の誰かが同乗すれば、馬車側が囮だと気づかれる危険性が跳ね上がります。……まだ、俺達の事を疑っているんでしょう?」


 ジロリとマクシミルの目に視線を合わせると、ピクリと瞼が動いた。ま、助けたタイミングが絶妙だったしねぇ。俺たちが敵とつながりがあると思われるのは仕方がない話だ。


「わかった、それで行こうか」


 殿下は賛成のようだ。この賛成は、もう疑っていないという意思表示でもある。


「私は反対です、こんなものの中に若様が入るなんて……それじゃあまるで誘拐されたみたいじゃないですか!!」

「リレーラ、なら他に妙案があるというのか?」


 ジロリと、ワグナーさんがリレーラさんを睨みつける。ちょい怖いです。


「反対反対と叫ぶだけなら馬鹿でもできる。そこまで言うなら……あるんだろうな?我々全員を納得させるだけの対案が」

「あぅ」


 ちょっと涙目だ。この子は行き当たりばったりの思考の持ち主なのだろうか?どこぞの政党を思い出すなぁ……。


「まあ、反対する気持ちもわからんでもないですよ。これ、一国の王子様を割とぞんざいに扱う作戦ですし」


 一応フォローはしておく。実際、王族を袋に入れるようなシチュなんぞ、確かに誘拐くらいしか思いつかん。縁起でもないという意見が出てもおかしくはない。


「うー……それならせめて、マントを付けるべきだと思います。黒のマントをそのリュックの上に被せれば、服の色とマントの色に混ざってごまかせますよぉ。それと、ナナクサさんの額に包帯かなにかを巻いたほうがいいです。ヤムリィ族ってごまかせますし」


 ヤムリィ族……三眼の種族か。術の高い適性だけでなく、希に額の目に危険な能力を持つ者がいるんだったか。ふむ、なるほど、確かに一理ある。


「俺はありだと思いますが」

「それ採用、ワグナー、お願いしていいかな?それと、リュック?の中身を代わりに入れる袋も頼むよ」

「は、お任せを」


 そう言って、ワグナーさんは馬車から出ていった。


「とりあえず、僕は今のうちにそれに入っておくよ」

「「え」」


 いや、流石に早すぎじゃあないですか?


「ここから魔都まではまる2日かかるからね。むしろ今のうちに慣れて寝ることができれば……ってね。向こうで寝る暇があるかもわからないし」


 そこら辺の備え、か。確かに何があるかわから───


「それに実は結構ワクワクしてたりするんだよね」

「「え」」


 ……あれか?紙袋に入りたがる猫みたなもんなのか?豚だけど。ああ、いいや、考えるのはやめよう。


「ところで報酬は上乗せしてくれるんですよね?」

「うまくいったら倍額払うよ」

「そりゃありがたい」




 一旦馬車から出て、ジークとグレンだけで少し離れる。ここまでの状況説明をしなければならないからだ。


「……と、いうわけだ。はっきり言って、危険な仕事だ」

「ふむ……」

「ナナクサモ、キケンダ」

「そうだ、全員が危険だ」


 俺の場合は遠距離から弓の扱いに長ける者に狙われればやばい。的がデカいし、駄馬に当てられればそれだけで失敗する。……いや、一応空気圧縮で壁作るよ?それに[危機察知]もある。が、それで万全ではない。何かしらの拍子にできる隙を狙われれば誰だって危うい。特に囮側になるジークとグレンが。


「もし、この仕事が嫌だって言うなら抜けてくれて───

「否。私どもが敵を引き付ければそれだけナナクサ殿が安全となる。ならば抜ける道理などありませぬ」

「シンパイスンナ。ナナクサヨリ、ガンジョウダ」


 こんのやろぉ……嬉しいことを言ってくれる。


「……すまん。もう少しまともな策を練られれば、まだ少しは安全を確保できたかもしれない」

「アヤマルナ」


バシンッ!


 ちょ、ジーク、背中に届かないからってケツ叩くな、イテェ。


「結果的に、皆のためになるのでしょう?ならば、我らは与えられた役割を全うするのみです」


 ったく……まあ、悪い気はしない。弟ら以外で、ここまで信頼してくれた奴は俺にはいなかったからな。


「……お前ら、死ぬんじゃねぇぞ」

「アア」

「無論」

「約束だぞ」




*




 魔都まで丸2日はかかる為、途中どこかで小休止しなければハヤブサが持たないだろう。道中の村は抑えられているだろうから、また木の上にでも登るか?


「そう思っていた時が、俺にもありました……」


 丘の上から眼下に広がるのは一面の広大な畑。これらが例の甜菜畑だろうか?その向こうに、巨大なボロい石の壁に囲われた巨大な街。街の奥にそびえ立つ切り立った岩山の上に建てられた石造りの城は、山と城が一体化しているように錯覚してしまう。


「あれが……魔都……だよな?」


 リュックからミート君が顔を出して、じっと見る。


「間違いなく、魔都ウルラントだね……」

「いつの間に魔王領に入ったんだ……?」


 騎乗に必死だったとは言え、検問なんてなかったはずだ。……まさかハヤブサは検問がない場所を走破したのか?


「まさか半日足らずで付くとは思わなかったよ……」


 夕日が無駄に眩しい…。


ブヒィン(ドヤァ)!」


 ハヤブサがドヤ顔でこっちを横目で見てくる。少しムカつく面だが、それが許されるだけの仕事は果たしたのだから許容せざるを得ない。


「おうおう、ドヤってろドヤってろ。どんなツラしようが、お前がサイコーな馬だって事は変わらねーよ。ただ、今度は俺が良しというまで絶対に全力出すんじゃあないぞ?俺の顔面が壊れちまう」


 目を覆うタイプのメガネが欲しいわ、切実に。ないだろうなぁ……。

 念のため補足しておくが、ここまでハヤブサが 勝 手 に 走ってたどり着いたのだ。俺は手綱を握って風圧と尻に伝わる衝撃に耐えていただけだ。なんなのコイツほんとに……。

 ここまでくればもう大丈夫だろうから、殿下のポジションをリュックから前に変える。ちなみにマントは割と早い段階で風圧で吹っ飛ばされて行方不明だ。リレーラさんの案は無意味に終わってしまった。


 南の門を通り、日が落ち薄暗い魔都の大通りをゆっくりと通過。外壁を注視すると、建てられてから相当の年月が経過しているためなのか、あちこち崩れてしまっている。それでも十分な高さがあり、崩れている箇所には兵が配置されているため、さして問題にはならないのだろう。


 うん?ゆっくり……?


 なんか、覇気というかエネルギーというか……ハヤブサからそういうのが極端に感じない。さっきまでとはまるで違う、まるで営業サボリのリーマンみたいな感じだ。


 グゥゥゥゥ……


 どこかで腹の虫が鳴った。

 ああ、そうか、飯か。そういえば朝メシ以降からなんも食ってないな……。いや、食料はハヤブサに積んであるが、当然手付かずである。空腹を自覚すると、俺の腹の虫がぐるぐると飯よこせコールしてくる。少し黙れ。

 ……あいつらはちゃんと食っているだろうか?




 魔王城への緩やかな坂道を登っていく。岩山の外側を螺旋状に登ることで、正門まで着くらしい。何を思ってこんなところに城を建てたのやら……。

 いや、篭城戦をやるなら最適の物件だな。岩山の北側にも同様に街が広がっていると思ったが、北方向は畜舎が相当数建てらていた。こちらは畜産目的のようだ。

 行き先の魔王城を見上げると、その大きさに圧倒されてしまう。どれだけの労力と歳月と犠牲の上に作られたのか、建築に関する知識・想像力が共に乏しい自分にはまるで予想がつかない。

 しかし、これだけはわかる。アホでもわかる。この城はヤバイ。攻めたくない。


「ナナクサさん、顔、引きつってるよ?」

「うぉ」


 顔に出てたのか……。


「まあ、いろんな意味で危険な場所だからね。女性が1人もいないし」


 は?女性がいない?つまり男だけ?え、魔王って女?女だよな、そうだよな!?いわゆる逆ハーレムってやつだよな?


「魔王陛下……父上はホモなんだ」


 …………ウッソだといってよバーニィ。


「付け加えると、城の料理長以下近衛兵まで全員ホモだよ」


 なにその地獄。え、俺今からそんな魔窟に行くの?聞いてないっすよ!!!後ろの貞操が危険で危ない!!!超帰りてェェェェ!!!


「だから門の前まででいいよ。使用人は皆分別を弁えているけど、何かの間違いがあったら……まあ、君がそういう性癖だというなら───


「自分、至ってノーマルであります。大人しく引き返します」


 [危機察知]さんは貞操の危機に反応しないらしい。因みにノーマルなんて言うのは噓だ。俺は女性を拘束して興奮するドS───所謂変態だ。……秘密だぞ?


「それじゃあはい、これ」


 王子が何かを俺に握らせた。円形金色のコインには年老いた豚の横顔が……え、これ金貨?


「報酬とは別で、滞在費として渡しておくよ。たぶん、全部込みで10日近くかかると思うんだ。もしそれ以上かかったとしても、それだけあれば十分間に合うはずだし、何かあれば僕の名前を出していいから」


 要約:滞在費以外はおこづかいでOK。


「了解です。とりあえず、途中にあった南口近くの宿に部屋をとっておきますので、御用の際は」


 俺は殿下を城門まで送り届け、ハヤブサとともに街へと戻った。道中、報酬の使い道とこれからを考える。

 長期滞在用に借家と、ジークらの服と……俺のもだな。今の服はちと目立つ。あとは働き口だ。安定した収入は平穏な生活には必須だ。ひとまず明日はその辺を中心に情報収集をするとしよう。情報は大事だ。それはそれとして……この世界にハロワってあるんだろうか?


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