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豚と伝説

 なんとかなったな……。まだ足全体が痛いが、折れちゃいないだろう、たぶん。靴も死ぬかと思ったが、辛うじて生きている。安物でも流石は国産、侮れないな……。


 俺が賊に向けては放ったのは圧縮空気砲だ。

 コイツの長所は目視不能という点にある。つまり、手の中であらかじめ空気を圧縮しておけば、不意打ちできるわけだ。

 悩んだのは弾丸の大きさだ。ハジキを使ったことはあるが、自分のノーコン具合も相まって、漫画やアニメのようにバカスカ当たらない。あれは牽制に使うもんだと、帰国中に身を持って知っていた。実際のところ、ハンドガンで打ち出すようなサイズの弾丸では至近距離でもない限り当たらないらしい。


 圧縮空気砲に発砲音もないし、弾も見えない。そんな状態で当たらない弾を撃つほど愚かなことはないだろう。当たらなければ撃たれたことにも気づかないのだから牽制にもならない。

 ならばと弾丸の大きさを思いっきり大きくしてみた。具体的には1.5ℓペットボトルサイズ程度。形状も先端をなるべく鋭利にイメージした、もっとも見えないからどれだけ鋭いかもわからんが。

 あとはまあ、放て、と、強く念じて砲撃したのだが……まさか抉り取るほどの威力になるとは思っていなかった。その威力に相応なほどに疲労感がある。これがもし、きっちり言葉で[射出]と言っていたなら2つの意味でどうなっていた事か……恐ろしい……。

 ただ、あれでは乱戦になった場合使えない。射線上に味方がいた場合巻き込んでしまう。小さくすれば当たらず、大きくすれば巻き込む。悪い手札ではないんだが、状況を選びすぎる。何度も言うが、俺はノーコンだ。ノーコン野郎に乱戦下で弾丸を討たせちゃあいけないのは常識だ。


「全員無傷か?」

「オウ」

「問題ありませぬ」


 今回も完全勝利だが、半ば不意打ちだ。正面から堂々とぶつかったわけではない。先のような反省点が出てくるとは言え、無傷の勝利が続くのは怖い。完勝が続くと調子に乗ってしまうものだ、反省点があろうとも自覚なしに。それに、足の痛みがあるにも関わらず、なんか妙に素早く動けた気がする。気のせいだと思えないんだよなぁ……。

 そう思っていると、馬車の扉が開いた。降りてきたのは先ほど構えていた執事風の獣人、ワグナーだった。


「主がお礼を述べたいと申しております」


 そうして降りてきたのは、美少女とか淑女とか……ああ、そうだったらいいのになと思っていたのは事実だ。俺だって男だ、窮地の美女を助けるっていうシチュエーションに憧れていた事もあったさ。しかし、現実は小説より奇なり……だったか?

 降りてきたのは豚だった。


「僕はピグリア・ミートボール2世です。窮地を救っていただき、感謝致します」


 俺は目を疑った。くどいようだがもう一度言う、出てきたのは豚だった。リアルな豚ではなく、二頭身にデフォルメされたミニサイズのピンク色の豚だ。某救いのヒーローをファンタジックにした感じだといえばいいだろうか?声だけなら美少年である。

 うん、オークとかいるような世界だからありかと思う。しかしね、二足歩行する背丈30cmの豚が綺麗に縫われた、生地もいいものであろうと一見して分かる貴族っぽい衣装を纏っているってどうなのさ?グレンもジークも絶句してるし。……いや、ジークだけはウマソウとか考えているな。涎が出かかっている。

 っていうかミートボール2世って!?お前ギャグで言ってるのか!?


「あ、あー……ご無事でなにより、です、はい、いえす」


 お、おk、落ち着こう。流石に予想の斜め上過ぎだ。頭の中で深呼吸を数度繰り返す。


「中から見ていましたが、貴方がたはバランドーラ死地から来たのですか?」


 バランドーラ死地?……ああ、あの何もない荒野のこと、か。多分そうだろう。死地というにふさわしい荒野だしなぁ、あそこ。


「横断してきました」

「お、横断!?」


 執事っぽい男……ワグナーとか言ったか。先程までのポーカーフェイスが見事に崩壊している。


「では、黄金郷から来られたのですか!?」

「ん、んん?失礼、言っている意味がわかりません」


 んな大層なもんなかったぞ?見渡す限りの荒野で、植物皆無だった。

 そんなこちらの混乱を正したのはミートボール君だった。


「伝承では、バランドーラ死地の向こうに、あらゆる建物が黄金でできた黄金郷があるといいます。言うまでもない事ですが、金はウィルゲート大陸において非常に高価で希少な金属です。一攫千金を目指し、向かうものが後を絶たないのです」


 いやいやいや、建造物の跡はおろか生き物の骨すらありませんでしたよ?それなんてジパング。

 や、まてよ?荒野のむこうということは、森の中まで含まれるか?だとすれば、そこを棲み家にして狩りをしていた元住人に聞いたほうがてっとり早そうだ。


「ジーク、森の中に建物とか、石造りの何かはあったか?」


 既に滅んだ文明だと仮定するなら、遺跡が残っているかもしれない。


「ミタコト、ナイ」

「グレンは?」

「沼より南へ趣いた事は幾度か。しかし、そのようなものは見たことはありませぬ」


 これらの情報から導かれる答えは一つ。


「ない!ということだな」


 文明の痕跡は、長い月日を経て自然に飲み込まれる。痕跡そのものが消滅するわけではない。古い油絵を潰して下地にし、新しい絵を描くようなものだ。まあ、この情報だけならないと断じることができるだろう。


「……ゴブリンの彼が死地の向こうの森、リザーディアの彼がさらに奥の沼から来た、ということですね。では、貴方はどこから来たのですか?黄金郷からやってきたのではないのですか?」


 さて、どう答えたもんか。下手なことは言えないが、いや、何言ってももう大差ない気がする……。


「こことは違った世界から、そう答えれば信じますか?」

「別の世界ですか……」


 まあ、そういう反応だろうなぁ。そりゃそうだ。うんと即答できるほうがおかしい。


「俺の服装を見ていただければわかると思いますが、あなた方のものとは大きく異なります。あなた方と接触して、自分が別世界からやってきた存在だと確信しました」

「確信……?」

「それがですね、どうやって、何が理由でここに自分がいるのか、まるでわからないんですよ。覚えているのは自分の名前だけです」


 彼らが信用に値するかわからんのでとりあえずでっち上げ。嘘をつくコツってのは真実を調味料に使う程度でちょうどいいのだ。……もっとも、内容が内容だけに調味料の味わいが食材の味に打ち消されそうだが。


「……ありえない話ではありません」

「それって、どういうことですか肉団子さん!?」


 ありえなくないってことは、過去に別世界からきた存在がいるのか!?…………いてもおかしくないな。俺という例がいるのだから。


「ミートボールです。古い文献に、かつて何者かが世界を往来していたという記述がありました。つまり、そういった術がかつて存在していたと思われます」


 世界を往来した何者か……ねぇ。それもしかしてロンゲの同輩とかとちゃうの?

 思案していると、少し離れたところから声が聞こえてくる。


「オラ、大人しく吐け!!」


 続いて聴こえてくるにぶい打撃音。

 うん、頭目は縛る縄がなかったので、穴掘って埋めて顔だけ出させました。今のはマイルズとかいう獣人が頭目の頭を蹴った音だろう。


「くそっ、おーいワグナー!ダメだ、何も吐きやしねぇ!!」

「私が行きます!」


 そう言って、ワグナーはマイルズのもとへ向かった。


「僕らはこれから領地へ戻ります。お礼がしたいのですが……」


 残ったミートボール君が俺たちに提案してきた。


「いくます!」


 ……噛んだ。ま、まあ、これでなんとか目標達成だ。人里へ堂々と行ける。


「しかし、1頭だけで引っ張れるのですか?」


 馬力が半分になるわけだから負荷が2倍になり、俺らが乗ることで4倍くらいになるんだが、大丈夫だろうか?


「それくらいなら大丈夫ですよ。速度はあまり出せませんけどね」


 ほんまかいな?この黄ばんだ馬、さっきの言葉であからさまに嫌な顔したぞ?

 まるで、人語を理解しているような……なんだろう、ゴールド〇ップを思い出す。


「ナナクサ殿、その前に、後始末はするべきかと」


 後始末……ああ、確かに。そうだな、放置して危険な生き物が寄ってくるのは、後に続く誰かにとって死活問題だ。


「ジーク、グレン、死体を集めてくれ」

「オウ」

「承知」

「ミートボールさん、馬の死体、よろしければついでに処理しますが。このまま放置するには危険かと」

「そうですね、お願いします」




 というわけで、後始末タイム。

 ボロい武器は回収、これでも売れば幾許かの金になるらしい。

 まず、大きめの穴を掘ります。次に、中に死体をぶち込みます。土をかぶせてできる限り平らにする。これで終わり。


 ……あかんな、草地に穴掘ったもんだから土むき出しの埋め跡が目立つ。どう見ても、ここになにか埋まってますよと言っているようなもんだ。まあ、こんな道端に埋められているものなど、碌でもないものが相場だ。

 埋まったまま殴り殺された頭目も、土を多めにかぶせて山にしておく。…………中途半端な感がするが、まあいいか。




*




 俺たちは馬車に乗ってミートボール君の屋敷に向かうことになった。結局頭目から情報は得られず、持ち物からも有力な手がかりは得られなかった。まあ、それはいい。問題は……。


「セマイ」


 馬車の中が……すごく……むさいです。

元々がそれほど大きくない馬車に、ミートボール君とワグナーの2人乗りだった。そこに俺とグレンが並び、ミートボール、ジーク、ワグナーの3人が横並びになる。俺の膝の上にはリュックが乗り、石槍と[ゴブリンバット2]が立てかけられている。狭くないわけがない。……一般論ではね。


「ジーク、これは狭いうちに入らん。ここに後4人入って、狭いと言える」

「セマクナイノカ!?」


 コミケ3日目のりん○い線始発を思えば、この程度狭いうちに入らん。匂い的にも相当違う。


 ……コミケか。気になるサークルの新刊も、もう読めないんだよなぁ。それもあるが、最後まで見れんかったアニメも心残りだ。

 ああ、今の俺は気が抜けている。こっちに来てから今日まで、考えなかったことばかりだ。…………いい区切りだと思おう。どこかで区切らなければいけないとは思っていた。25になったら辞める、28になったら、来年に、30でいい加減……。そうしてずるずると、あの日まで生きてきた。

 ……いっそ自前で同人誌刷るか?いや、印刷技術の水準が怪しい。そもそも、技術があるか自体も……。


「それにしても、ナナクサさんはスゴイ術師なのですね」


 沈黙に耐え切れなかったのか、ミートボール君が俺に話をふってきた。


「私も同意です。知識は人並みにあると自負していますが、あれは何をしたのか全くわからなかった」


 ……術、か。

 この際いろいろ聞いておいたほうが良さそうだ。時間はたっぷりあるし。なにせ、馬車の速度が自転車よりも出てないからな!!

 頑張れ、黄ばんだ馬(ゴルシ)君。




*



「比率では2:8……いや、1:9ですね。我々獣人はほとんどが扱う才を持ちません。高い才を持つ三眼のヤムリィ族や龍を祖に持つドラグノ族は別ですが……。どちらにしても、習得する環境が整っていないために、その才を生かしきれていないのが現状です」


 ミートボール君とワグナーの術講座を、黙々と聞く。こんな会話にジークは耐え切れずに馬車の屋根に上り……おそらく寝ているだろう。グレンはじっと、座ったまま動かない。寝ているのかどうかすらもわからん。

 いや、起きてる。微妙に、微妙に目が開いてる。某大人のお姉さん好きのタ○シ程度には開いている。どうやら、いろんな意味で警戒しているようだ。確かに、襲撃が一度だけとは限らない。そもそも、眼前の彼らが襲ってこないという保証もない。

 付き合いは長くないし、同じ釜の飯を食った仲でもない。グレンのその判断は正しい。

 まさか、屋根に登ったジークも?

 ……いや、あれは狭さに耐えられなくなっただけだな。ふむ、判別は早いほうがよさそうだ。適当に話題を振ってみるか。ちょうど術講座も終わったし。……まあ、講座と呼べるほどに詳しくはなかったが。


「黄金郷とはそもそも、誰が言い出したことなのですか?」


 何もない荒野を越えた先には森と沼しかない。黄金も文明後もない。何時、誰が言いだしたのか。


「正直なところ、わからないのですよ。黄金郷伝説はウィルゲート大陸に、少なくとも500年前から存在することは確かです。すべての建物が金で出来ているとか、黄金から成る植物で溢れていた、とか。口伝で広がっていくうちに歪められ、一般に、各町村に伝わるモノは信憑性は非常に薄いのです。ただ、それらの中にひとつだけ変わらない一点があったんです」


 総じてそういったものは強調されて語られるものだ。あるいは、歪める余地がないか……。


「黄金郷には赤く熟した木の実があり、中は黄金色で甘く、食べた者はあらゆる言語の壁を越えるといわれる知恵の実がある、と。そしてその実は、もいだ瞬間から朽ちることはない」


 んん???赤く熟した?黄金?甘い?朽ちない?


「同じ記述が記された石版が、魔王城の地下倉庫から発見されたことが広まったために、長い時が経った今でも黄金郷を探す命知らずが後を絶たないのです。例え黄金がなくても、その木の実さえあれば間違いなく一攫千金です」


 まさか、とは思うが……あの実がそうなのか!?

 確かに赤い、中は黄金……とはいかないだろうが、そう形容されるのも不自然ではない。黄金郷の黄金は、そもそもその単語から妄想と拡大解釈により生まれたのではないだろうか?


 彼が事実を言っているかどうか、おそらく事実だ。ミートボール君らは俺たちがそれを所有していたことを知らない。もっしゃもっしゃ遠慮なく食ったことも知らない。アレなしで俺達は生存していなかったという事実も知らない。つまり嘘を言う理由はない。

 いや、ちがう。大間違いだ。ジークとグレンがいるのだ。彼らが会話できることが、少なくとも実が存在する何よりの証拠だ。

 あ……そういうことか。


「その一攫千金狙いのせいで、若い労働力が減少している、ということですか」

「その通りです。農地拡大も、産業拡大も何もありません。停滞してしまっているんですよ」


 つまり彼はこう言っているのだ。持っている場合速やかに処分しろ、と。

 農地拡大というくらいに土地がある状況。潜在的なキャパはまだまだ空いていることが伺える。だがそれを活かせるだけの労働力がない。

 この状況で知恵の実を持ち込めば、尾びれ背びれがついて黄金郷が実在するなんて噂になる。そんな事態になれば、どこぞの海賊漫画よろしく、大航海時代ならぬ大冒険時代が到来するだろう。

 厄介なのは、行き先が死地であることだ。誰も帰ってこないのだから、急激に人口、生産力が低下する。税収も徴収先が減るのだから相応に減る。全く生産性のない最悪の事態だろう。それだけは回避したい、そういう思惑か。


「存在しないものを求めるというのも滑稽な話。しかし、停滞しているからこそ、夢を求めるものだと俺は解釈しますよ」


 私的見解だが、黄金郷は確かに存在したと思っている。根拠を挙げるとすれば、グレンと出会う前にジークからちょいと聞いた『狩りに出る前に教わる危険な奴』だ。

 ジークは最初にヒトと言った。そこからオウガ、オーク……と、続いていった。

 つまり、過去、俺と同様の外見のヒトがそこにいたことは間違いない。ただ、何かが原因で滅んだ。その結果があの荒野だと推測できる。いくらなんでも植物が全く存在しないということが異常だ。

 ……まあ、いいや、よそう。もう二度と行きたくないし。ジークもグレンもそう思っているだろう。


 いや…………待て。ちょっと待て。

 りんごにばっかり意識が行ったが、聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。


「さっき、魔王城とか言いませんでした?」


 多分、俺の顔は今ひきつっている。


「ええ、ウィルゲート大陸は、魔王陛下が収める大陸国家ですからね。といっても、直轄領以外は自治権が認められていますから、よっぽどのことをしない限りは介入されません」


 HAHAHA、奥様、お聞きになりましたか?魔王ですって。

 やだ、怖いわねぇ……。

 ホント怖いよ!!お父さんお父さん!!聞こえないの!?魔王が来るよコワイヨ!!!

 俺知ってる!魔王って大体がろくでもないやつだって!!基本的に暴君で気に入らない奴はブッコロさんする奴だろ!?俺みたいに!!


「まあ、普段は甘いお菓子を朝昼晩夜中に4度食べるだけの、普通の方ですよ」


 え。…………朝昼晩夜中って、いつ寝てるのさ。寝ながらお菓子を食う魔王って、別の意味で恐ろしいわ……。HAHA……なんだよ、怯えた俺が馬鹿みたいじゃないか……。


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