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エルフのチートな放浪者(仮)  作者: コタツにアイス
6/10

濫觴編10-6:参戦

「「「「 !! 」」」」


 二年前にも聞いた警報。

 その警鐘のような音が聞こえたのは、食事を終えて暫くした頃だった。


「あなた……」

「ああ……!」


 お父さんとお母さんは、険しい顔で装備を整える。

 ユーリも二年前を覚えてるのか、不安そうな表情で私の手を握ってくる。


「お父さんは外を見てくる。お前たちは絶対に家を出るんじゃないぞ」

「はい」

「……うん」


 依然不安そうにしているユーリに微笑んで見せ、お父さんはその頭を撫でた。


「ユーリ、お前は強い子だ。お姉ちゃんを守るんだぞ」

「……うんっ!」


 先程とは打って変わり、お父さんを見返すユーリの眼差しは強い。

 それを見て安心したのか、お父さんはもう一度その頭を撫でてから家の外に向かった。


 扉が閉まる音が消えると、痛いくらいの沈黙が居間に流れる。


「……取り敢えず座りましょう。外がどうなってるか、お父さんが聞いてきてくれるわ」


 お母さんの言葉に私たちは頷き、居間の椅子に座ってお父さんが帰ってくるのを待つことにした。


 スキルを使えばすぐに状況はわかる。

 でも、以前に見た拷問の光景が脳裏を過って、どうしても踏み出せずにいた。


 お父さんが見てきてくれる。


 そう言い訳して【千里眼】を使わずにいた私に、現実は唐突に突きつけられる。


「お前たち、今すぐここを出るぞ!」

「キリル! 何があったの!?」

「説明は後だ!」


 私の手を強引に引いて家を出るお父さんの後に、お母さんとユーリが続く。

 今の時間、空には星に似た小さな光が瞬くだけで、暗闇が広がっているはずだった。


 でも、その黒を侵食するように森から這い上がる赤が、空との境で揺らめいてる。

 時折弾けたように舞い上がるオレンジ色の光と、むせ返るような匂い。


 里の森は、火に包まれていた。


 私は反射的に【千里眼】を使い、周囲を見渡した。

 あらゆるものを見抜き、千里を見通すこの目に映ったのは、群がる魔物のように森を囲む人間の姿。

 そこに、耳の長い種族はいない。

 いたとしても、別の種族の人間と、殺し合っている者の姿だけだった。


「奴らは、森に火を放った……!」

「そんなっ! 結界は!?」


 結晶柱の祠に近づくにつれ、速度を落としたお父さんが説明を始めると、お母さんは悲鳴のような声を上げた。


「破られていたようだ……。消火と戦闘……奴らは数ばかり増やして、俺たちを片方に集中させないつもりだ……!」

「外道どもっ……!」


 お母さんの見せる憎悪と怒気に、すぐ横にいたユーリがびくりと身体を震わせたのが分かった。

 そのまま進み祠の入り口に着くと、他にも大勢の子供や怪我人がいた。

 中には学校のクラスメイトもいて、皆ユーリと同じように不安そうな表情を浮かべてる。

 目が合った人たちに笑顔を浮かべて見せると、少しだけ不安が和らいだように見えて、優等生って称号もたまには役立つんだなって思った。


「俺も戦列に加わる。イリア、ユーリ。お前たちは、他の子たちと一緒にこのまま祠にいなさい」

「お、お母さんは……?」


 ユーリの縋る様な声に、お母さんは優しく微笑む。


「大丈夫。ちゃんと戻ってくるわ」

「お姉ちゃんをしっかり守るんだぞ」


 お父さんの言葉にユーリは頷こうとして、


「危ないっ!」


 私に、無理やり手を引かれたせいで敵わなかった。

 ユーリが元居た場所を横切っていったのは、一筋の矢。

 通過したものを捉えて現状を理解したお父さんとお母さんは飛来した方に視線を遣り、矢を放った者の正体を認めた。


「外したか」

「勘のいいやつがいるらしい」


 言葉を発したのは二人。

 でも、その背後にはその何十倍と言う人影が潜んでいることを、私の目は知覚していた。


「……別働隊か。アンナ」

「ええ……!」


 お父さんが一歩先んじると、お母さんが杖を掲げて詠唱を開始する。

 子供の護衛に回っていた怪我をしている人たちも、何とか加勢しようと祠から出ようとする気配があった。


「させるかよ!」

「いけ! お前ら!」


 男の一人が詠唱を開始する前に矢を放ち、もう一人の号令で隠れ潜んでいた者たちが森から躍り出る。


「くっ! イリア、ユーリ!」


 矢を剣で切り落とし防いだものの、迫る物量に劣勢を気付かされたお父さんは、私たちに視線を向けないまま私たちに声を発する。


「ここは父さんたちが食い止める! お前たちは――」

「一人も逃がしゃしねぇよ!」

「キリルっ!」

「くっ……!」


 他の者たちより素早く接近した男の剣が、お父さんの剣を弾き、その身体が無防備に晒される。

 お母さんの援護も間に合わない。怪我をしている人たちも、思った以上に動きが鈍い。

 敵は多く、その刃が届くすぐそこまで迫っている。

 里のどこもが、今の私たちと同じような状況に陥っていて、助けは望めそうにない。



 ――もう、お母さんたちの希望通りの娘でいよう、なんて言ってられない!



「――へリックス・エア!」

「ぬおっ!?」


 突きだした右手から風が吹き出し、直撃した男が後方に吹き飛んだ。

 目前に迫っていた危機からは脱したものの、風の余波でよろけたお父さんが体勢を立て直すと同時に近寄り、短く告げる。


「私も戦います」

「イリア!?」


 戸惑いの声は、お父さんではなくお母さんだった。

 ごめんなさい。

 罪悪感から小さく頭を下げるに留め、敵意を向け続ける人物たちと正対する。


「これだけのことをしたからには、報いは受けてもらいます」

「ぬかせ! ――ぁ?」


 矢を引こうとした男に向け、放たれるよりも早く手を突きだす。

 ――エア・バレット。

 無詠唱で発動した魔術により、岩の弾丸が男の胴体を突き破る。


「ご、ふ……っ」


 滝のような血を口から垂れ流し、男は絶命した。

 魔物よりステータスが低いだけあって、詠唱しなくても威力は充分だった。


「こんの……ガキがぁぁあああ!」

「やっぱり逃げません、よね……」


 先程の素早い男が混乱から逸早く立ち直り、こちらに駆けてくる。

 それに引き摺られたように雄叫びを上げる侵入者たちが、雪崩のように殺到する。

 中には鎧を着こんでる人もいるから、詠唱はしておいたほうがいいかもしれない。


「――紡ぐ螺旋。風は導きに従い槍と成れ――ヘリックス――

『――弱き礫、勇を纏い拳と成れ――ストーン――

「させっかよ!」


 口頭で風魔術のヘリックス・エアを詠む傍ら、並列思考で土魔術ストーン・バレットを詠唱。

 詠唱しながら剣を振りかぶる男の懐に踏み込み、剣が振り下ろされるよりも早くその手を掴んで捻り、自らの持ち主を切り裂くように軌道を導く。


「なっ――  」

「――エア・バレット」


 間を置かず魔術を発動。

 風による加速で貫通力を増した無数の石が斉射され、侵入者たちの全身を容赦なく撃ち貫いていく。

 初級魔術でも、込める魔力の量と同時発動みたいな使い方によっては中級以上の殺傷の力を発揮することができる。

 練習しておいて本当に良かった。


 気を緩めずに周囲を探っても、この場に残る敵はもういない。


 私は振り返り、お父さんたちに小さくお辞儀するに留めて先を急いだ。

 もうお父さんたちだけじゃなくて里の人たちにも見られてしまったから隠す意味はないし、隠している場合じゃない。


 ひとまず広域に雨を降らせよう。

 とは言っても、あんまり勢いの強い水魔術だと森が駄目になっちゃうし、空気を止めようにも里の人たちもいるから無理。


「――パージシャワー!」


 魔力を解放して干渉範囲を広げ、数百程度の指定座標で身体を洗ったりする魔術を発動。これで緩やかに消えてくれることを願うしかない。


 同じようにあちこちで起こってる戦闘にも、魔術を発動して援護していく。

 その一方で、私はある場所に向かっていた。

 着くまでの援護と、数秒と経たないうちにその場に到着できたおかげでエルフに死人は出てないけど、全員が地に伏していたり、膝をついていたり……あと一歩で文字通り全滅しかけていた。


「へぇ……。これはまた小さなガキが来たな」

「……これ以上はさせません」

「ふ、ふふ……あははっはははは! いいねぇ! 健気だねぇ!!」


 男は嗤う。

 たぶんその態度が示す通り、遊んでいた結果がこの惨状なんだ。

 私の目に映るその男のステータスの一項目には、こう書かれていた。


 悪魔に憑かれた者。


「……悪魔」

「ほう?」

「そいつと、……言葉を交わすな、イリア……!」


 力を振り絞るように声を発したのは、ラザーリ先生だった。

 その彼に向けて、男は槍を振りかぶる。


「小汚い未開種族が」

「っ!」


 ナイフを生成すると同時に投擲。

 手にしていた剣が弾き飛ばされたのを見て、男は驚愕に顔を染める。

 でも、それも一瞬のことで、すぐに違和感のある不気味な笑みに戻った。


「ふぅん。後でじっくりと思ってたけど、大人たちの前で無残に殺すってのも」

「……結界を解いたのは貴方の仕業ですか?」

「……だとしたらなんだ? ガキには関係ねぇだろ」


 言葉を遮られたのがよっぽど不快だったのか、男は忌々しげに顔を歪める。


「ここで死ぬんだからよ」


 そう言って、左手を突きだした。

 この距離で詠唱する気?

 そう考えた私の予想は、


「イリアッ、逃げっ……!」

「――ステューパーセット」


 直後に放たれた魔術に間違いだったことを知らされる。

 詠唱しなかったことに驚いてる暇もなく、意識が掻き混ぜられるような不快感と全身に纏わりつく痺れに襲われて、気付けば膝をついていた。

 そういえば、状態異常の耐性、つけてなかった……!


「はっ、まずは定石通り、喉を潰してやるよ」


 その言葉通り、魔術による攻撃や身体能力の強化を得意とするエルフを相手にする場合、詠唱できないよう喉を潰してしまうのが最も有効な手段となる。

 この惨状を作り出した経験からくる余裕か、男はゆっくりとした足取りで近寄ってくる。


 目前まで迫った男は、私に手を伸ばし、


「――は?」


 その腕が零れ落ちたことを理解できなかったのか、素っ頓狂な声を上げた。

 次いで降りかかる見えない刃を察知したのか、弾かれるような速度で後退し、その身が切り刻まれることを回避した。


「詠唱せずに……っ!」

「貴方だってやったじゃないですか」


 私は立ちあがり、膝に着いた土を払う。


「身体の自由は奪ったはずだろうが!」

「そうですね」


 できるだけ耐性がつくようぎりぎりまで回復せずにいたけど、もう体に違和感はありません。

 詠唱を省ける相手と分かったからには、先手あるのみ。


「くっ……!」


 そう思ったんだけど、男は逃げ出してしまった。

 あいつは結界を解く手段があるみたいだから、ここで逃がすわけにはいかない。

 そう判断して無詠唱で魔術を放って行くけど、男は止まらない。


「なんで……!?」


 魔物以上の速度には驚いたけど、それにしたって足が千切れたり胴体を抉られたのに止まらないなんて絶対おかしいでしょ!


「オレはっ……わたしは、止まるわけにはいかないんだ……!」


 そんな声が、呼吸の荒い男の口から洩れる。

 どうしてそんなにエルフを……。

 そう思ってしまい、攻撃の手を緩ませてしまった瞬間。


 男の体が、膨張した。


 粘菌のようにドロドロの爛れた四本の異常に長い手足を蜘蛛のように動かし、木々をかき分けて男だったモノは速度を上げる。

 その先にあるもの……祠を【千里眼】が捉えて、私は焦った。

 このままだと、戦えない人たちまで巻き込んでしまう。


「早く……倒れてよ!」

「死ねるカ……! コのまマ、仇も果たセず……!!」


 いくら裂いても潰しても燃やしても、傷ついた場所から泥のようなモノが湧き出るばかりで、止まる様子が無い。


「泥……!? ならっ!」


 主に火種として使われる火の魔術キンドル・スパークと、ヘリックス・エアを弱めて範囲を広げた風の魔術ウェール・シリンダーを同時発動。

 疑似的な高温の上昇気流を作り上げるウェール・スパークで泥全体を閉じ込める。

 狙い通り泥が固まり始めたせいで動きが鈍くなり、そこにストーン・バレットを叩き込んでいく。

 高温と石の弾丸のダメージは確実に蓄積してるのか、泥の再生力は目に見えて減少していた。

 にも拘らず、無理に動こうとする“男だったモノ”は手足を失い、それでも胴体だけで引き摺る様に進もうとする。

 やがて風が止む頃には溢れ出てくる泥も打ち止めみたいで、完全に手足を失った。

 ……それでも、彼は止まろうとしない。


「どうして、そこまで……」


 追い越して進路を阻むように着地すると、頭蓋から露出し、ぎょろぎょろと動く眼球が私に焦点を合わせる。


「……ナぜ……だト……!?」


 怒りを表しているのか、巨大な身体がぶるぶると震え、ぼろぼろと崩れていく。


「キザまらが奪ッタのダ……!! ヴァタジノ、ムズゴヲ!!」

 ――貴様らが奪ったのだ!! 私の息子を!!


 スキルを経た言葉が、私の脳内で変換される。

 息子。

 その言葉が思い浮かんだ時、私の脳裏を真っ先に過ったのは、拷問を受けていたあの男の子だった。


「タダゴウデュウボボヂダイドデガッダデズドヴォ……オバベバヴァ……!」

 ――ただ交流を持ちたいと願った息子を……お前たちは……!


 もう高温で喉も焼けてしまっているのか、それ以上の言葉は聞こえてこなかった。

 交流を持ちたい。奪った。

 それらの言葉が示す事実が、頭の中に浮かんだ。

 ……でも、


「でも、それは勝手に侵入したからで……!」

「それはどうかな」


 その声は、男の人のものじゃなかった。

 確かにその身体から聞こえていた筈なのに、別の声が聞こえてきた理由はすぐにわかった。


 男の人の身体から幽体離脱するように、別の生物が姿を現したからだ。


 その生き物は、全体的に見ればコウモリのようだった。

 でも、細部と大きさが全く違って、その巨大さは鷲みたいな猛禽類程もあって、狼のような頭部や生まれたての山羊みたいな細い肢が、不気味さを一層際立たせてる。


 悪魔。【神の眼】には、簡潔にそう表示されていた。


「彼の息子は、エルフと交流を持つという集団に惹かれ旅立っていったそうです。ですが、彼の息子はいつまでたっても帰って来ませんでした。それは何故でしょう?」


 まるで役者みたいに語る悪魔に、私は答えることができなかった。

 その理由すら察したように、悪魔は言う。


「そう! てめぇらエルフが殺したんだよ! 侵略者なんて決めつけて! 拷問をこれでもかってくらいに繰り返し! 真実を語る少年の懇願を無視して殺した! ……希望と夢に満ち溢れていた少年の絶望と恐怖は、どれほどのものだったのでしょう……? ヒャハハハハッ!」


 悲しげな声色は一転して、まさにそれらしく嗤った悪魔は、眼下の男に目を遣った。


「そう教えてやったんだよ。こいつには」

「……そうして、憑りついたの?」

「そうだ! うまくやったろう!?」


 声高らかに、まさに誇るように悪魔は肯定した。

 でも、その声はすぐに落胆の色へと変わる。


「ま、全然持たなかったけどな。俺の支配を逃れる程とは驚いたけどよ、その代わり暴走したんじゃ意味ねぇよ」

「……どうして、そんなに話すの?」


 逃げられると思ってるの?

 いや、そもそも、悪魔の言葉が真実だっていう保証はないか。


 改めて戦闘態勢に入った私を見て、悪魔は嗤った。

 だらりと翼を下げているそのようすは、どこか脱力している様にも見えて……考えが読めなくて、不気味だった。


「ま、目的は達したからな。及第点ってやつだ」

「……?」


 確かに結界は破られたし、里の被害は大きい。

 でも、里そのものが無くなったりするほどじゃないし、結界だって結晶柱が無事ならすぐに直せるって聞いたことがある。


 ……まさか、他の悪魔!?


 そう考えて辺りを【千里眼】で見回すけど、他に悪魔の文字は無い。

 それどころか殆どの場所で戦闘は止んでいて、無事に消火も終わっていた。


「そこの少女、何をしている! 逃げろ!」


 守備隊の人たちも駆けつけて、どう考えても八方ふさがりにしか見えない。

 私の視線から訝られていることを察したのか、悪魔は「ハッ」と嗤った。


「別に逃げるつもりはねぇさ。化け物相手に逃げられるとも思ってねぇしな」

「化け物……?」

「おいおいしらばっくれんなよ。俺の相棒をこんなにしといて、ただのエルフだなんて言うつもりじゃねぇだろうな?」

「「「 !? 」」」


 悪魔の言葉に反応したのは、駆けつけてきた守備隊の人たちだった。


「まぁいいさ。どうせ他に入った奴らだって殺されるんだからな」

「それは、そっちが襲いかかって来たから……!」

「こいつの息子みてぇに襲おうとしなくても殺すんだろ? ケケッ」


 嘲るように嗤った悪魔。

 その胴体を貫いたのは、やってきた守備隊の一人……確か守備隊長のベネディクトさん。彼が放った矢だった。

 彼は平然とした視線で悪魔を睥睨しながら、言う。


「当然だ。エルフの里は何人たりとも足を踏み入れることは許されぬ聖域。交流を図ろうとする者だろうと、浅ましい他種族であれば受け入れるなどあり得ない」


 私は耳を疑った。

 いま、この人は交流を図ろうとする者、と即答した。

 それは、今の会話でわざわざ選ぶような言葉だろうか。


 ――それとも、わざわざその言葉を選ぶくらい、悪魔の言った息子に心当たりがあったの?


 ――本当に、悪魔の言った通りだったの?


 私の【直感】スキルが、知りたくもない違和感を突きつけてくる。

 そう聞くこともできず、考えるばかりの私を置いて、悪魔に魔術が殺到する。

 次は、胴体だけとなった男の人の番。

 でも既にその目に生気は無くて、完全に事切れていることが、私の眼には示されていた。


「……なぜ子供がこんなところにいる」

「あ……」


 目の前に立った守備隊長さんを見上げると、依然向けられたものとは違う、冷たい視線に晒された。

 思わず手を握りしめていた私に、彼は言う。


「……今は置いておく。先程の異形……悪魔で間違いないか?」

「……はい。そう自分で言っていました」


 厳密には違うけど、間違ってないからいいよね……。

 私を見下ろしていた守備隊長さんは、一度悪魔の死体を見遣ってから私に視線を戻した。


「迷うな」

「っ……」


 唐突に突きつけられた言葉。


「こうして不老長寿を保っていられることこそ、我らに大義がある証。迷うことこそ、堕落の一歩と考えよ」


 諭すように告げられた言葉。

 ……その意味を察して、私は振り絞るように訊ねた。


「……否定、しないんですか」

「何をだ」

「悪魔の……言っていたことです」


 具体的なことは言わなかった。

 それでも、


「ああ」


 と、守備隊長さんは肯定した。


「……そう、ですか」


 それ以上、何も言えなかった。


 大義があれば人を殺していいの?


 そう考えて私自身、家族を……里の皆を守るって言うことを大義名分にして、大勢の人たちを殺したことに気付いた。

 人間じゃなくたって、大勢の魔物も殺した。


 ――私に、彼を否定する権利があるの?


 その疑問に答えを出すことができなくて、気持ちを上手く整理することができなくて……、私は、帰る足を速めていた。


 安心したかったんだと思う。

 大事な人たちを守ることができたんだって、実感が欲しかったんだと思う。


 でも……。


「!」


 祠の入り口に集まっていた人たちの中に家族を見つけ、駆け寄ろうとした私は、いつの間にかその足を止めていた。

 皆無事だった。

 家族も、

 私を慕ってくれたクラスのみんなも、

 みんな、無事だった。


 でも、違った。


「お、おとうさん……?」


 私は、無意識にその言葉を口にしていた。

 その人物が本当に、お父さんか分からなかったから。

 私の呟きに、はっきりとした応えはない。

 でも、私の目が、目に映っている人たちが、家族なんだと突きつける。

 それでも、信じたくなかった。


 ……信じられなかった。


「……おかあさん……」


 私は、あなたたちの言う通りに生きてきたよ?

 みんなのために、がんばったよ?


 なのに……、

 なのに、どうしてそんな……、




 そんな、敵を見るみたいな目でわたしを見るの……?



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