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革命的第6話


「村への攻撃は明朝の4時だ。うわさによると村人たちは反撃の準備をしているらしい」

「本当ですか隊長!? 謀反を起こす連中は頭がおかしいですね」

「そうでなければこのバアル領で一揆を起こすはずもあるまい」

 接収した宿のエールをあおりながら俺たちは今回の遠征の愚痴を言い合っていた。

 バアル騎士団がズルワルドに到着した時にはすでに漆黒の帳が天を覆っていた。目標の村は山間にあるのでいくら精強なバアル騎士団でも夜の山を越えるのは危険だと判断したからだ。

「しかし、何か準備してるってことは罠を張ってるんでしょ? 落とし穴とか」

「わはははは! それは傑作だ! 百戦錬磨のバアル騎士団を相手に落とし穴か? なら穴を飛び越えればいい」

「バアル様は1日で鎮圧せよって言ってましたが、半日もあれば十分ですよね」

「馬鹿言え! 半日だったら村の女全員とやれないだろ?」

「お前持つのかよ? 3人くらいでたたなくなっちまうだろ?」

「うるせー!!」

 赤子の手をひねるような遠征だ。村人を皆殺しにするより女を犯す時間のほうが長くなりそうだ。

「そういや、妙なうわさを聞きましたよ」

「うわさ?」

「そうです。なんでも、見慣れない服を着た男が工房を回って筒をつくらせた、とかしゅくせーだのかくめーだの言っていたってうわさですよ」

「ただのイカレだろ。最近は多いって聞くぞ」

「いや、それがここで話が終わらないんです。その男は赤い旗を振って工房の人間を先導してどこかへ連れて行ったって。翌朝には空の工房しか残らないって」

「妙なうわさだ――」

「魔物だ!! 魔物が出たぞ!! ズルワルド鉱山が襲われた!!」

 宿の外から大きな声が聞こえた。ズルワルド鉱山はこの工房都市ズルワルドを支える生命線だ。あそこに駐屯する騎士団もいるが、最近は鉱山が狙われることが無いということもあり、兵数を減らしていた。

「クソ! 俺と何人かついて来い!!」

 急いで馬小屋に向かう。仲間たちはエールのせいかまだふらついている。バアル騎士団が酒に酔うとは情けない。

 馬小屋につけば馬を世話をしていたものが馬具を取り外し終わったところだった。

「早く馬具を着けろ!! 出撃だ!」

 こんな大事な時に……。

「隊長!! ヴァスドン関所が落ちたらしいです! また、ズルワルドの中にも魔物が進入し、暗がりから襲ってくるとか他にも――」

「待て! 落ち着け!!」

 何かおかしい。そもそもヴァスドン関所は前線からかなり遠い。一番近い前線から馬を飛ばしても3日はかかる。

 それに難攻不落をうたうヴァスドン関所を陥落させるほどの大軍が来ていたのならすぐに知らせがくる。

 ズルワルドに関してもそうだ。遠征先の村では魔物がたびたびでるそうだが、ここまで魔物が接近したという知らせは聞いたことが無い。

「副官、それは誰から聞いた?」

「え? 旅人をしてるって言うやつが、隊長が出た後に酒場に駆け込んできて……」

「そいつはどうした?」

「他の連中にも知らせるって出て行きました」

 馬鹿め。それは流言飛語だ。誰がこんなことをするのかわからんが、馬鹿なやつだ。

「出撃は取りやめだ。鉱山と関所には1騎ずつ斥候を送れ、他のものは交代しながら酒場で待機。また欺瞞情報を流したものはその場で殺せ!!」

 小ざかしいやつだ。もう今すぐにでも討伐してやろうか。いや、すでに日が沈んでいる。今から山越えは危険だ。

「クソ……」

 その後、街の人々から街を守るように言われた。流言飛語であるといっても納得しない。しぶしぶ10騎ほどを街に残すことになった。



「同志セルゲイ!! ただいま帰還しました!」

「よくやった同志ケニノ。オーチンハラショー」

 これで準備は整った。私たちケリトアザ解放赤軍(命名は私)は街道を塞ぐように塹壕陣地を構築した。

 ケニノたち商人は塹壕を作っている間にズルワルドに向かってもらい、偽の情報を流して敵を混乱させる作戦を行ってもらっていた。

 魔物が出たと話が出れば街の防備をしなければならないだろう。つまりこちらに向かう人数が減るかもしれない。

「いいか諸君!! 今まさに我々、赤軍を殺そうと貴族主義者が迫っている!! ここにいる全員が力を発揮しなければただ、死ぬだけだ! 家族を殺されるだけだ! 家を焼かれるだけだ!! 私は断じてそんな事を許せない!! 今こそ革命の時だ!」

 陣地から上ずったように「うらー」「うらー」と聞こえる。もっと元気があればよいのだが……。まぁもう少し人数が集まれば督戦隊でも組織しよう。そうしよう。

「しかし、セルゲイさん、いくらなんでも女子供も戦うことは……」

 塹壕には女が数人いた。子供もいる。ちなみに老人や戦闘を行えないような女は後方部隊として火薬の製造や伝令といった任務を行っている。

「私はいったはずだ。老若男女すべの人民が力を合わせなければ勝てないのだ」

 我が祖国でも女性スナイパーやパイロットといった兵士がいた。戦えるものは戦うべきなのだ。

「来たぞ!! 騎士団だ!」

 木の上で見張りをしていた村人が叫んだ。気がつけばだいぶ明るくなってきていた。

 遠くから蹄の音がする。

「総員戦闘用意!! 装填!!」

 俺の号令を各小隊長が復唱する。銃口を上に向け、黒色火薬と弾を一まとめにしたカートリッジを入れて、カルカで薬室に弾丸を送り込む。

 馬脚に混じって人の声が聞こえた。

「火縄渡せ!」

 年端もいかない少年少女たちが着火した火縄を配るために塹壕を走る。受け取るとそれを銃後端の金具――ハンマーに差し込む。

「構え!」

 塹壕から銃と頭を出す。敵の騎兵が見えた。まだ遠い。塹壕を見渡す。予定通り、銃をもった人間が3列、その後方には火縄や予備のカーリッジをつめた箱を運ぶ子供たち。その後ろには火縄と大人の頭ほどの布の塊に紐と導火線がついたものをもつ男たちが緊張した顔で私を見ていた。

 騎兵隊を見る。数は30騎もど。あっちも俺たちを視認したのか、横に広がるように隊形を変えた。運がいい。距離は500メートルを切る。

「あぁ……神様!」

「誰だ!? 情けない声を上げるな!!」

 その瞬間、弓が襲ってきた。騎兵を見れば数人が短弓を放っている。だがこちらは塹壕に入っているので当たらない。

「もう駄目だ!」

「駄目なのは敵だ! ひるむな! いや、全員射撃姿勢やめ! 塹壕に隠れろ!!」

 不用意に発砲させてはだめだ。それに塹壕にいるほうが安心感があるだろう。私はもう一度顔をだす。距離は50メートルを切る。

「第10小隊! 投擲!!」

 一番後列にいた男が布の塊から伸びた導火線に火をつける。男たちは紐をつかんで力いっぱいそれを投げ飛ばした。

「耳を塞げ!!」

 私は塹壕に頭を静めて耳と目を塞ぐ。

 爆発、轟音、悲鳴。頭上を衝撃波と熱が通り過ぎた。

 恐る恐る顔を出せば砂埃でよく見えない。だが悲鳴はよく聞こえる。塹壕を振り返れば全員が呆然としている。

 私は自分の銃を空に向けて一度撃つ。

「構え!!」

 我に返った人民が銃を構える。砂埃が晴れてきた。倒れたり暴れる馬を落ち着かせよとするもの、倒れ付したもの、何かを騒ぐもの。距離、よし。

「放て!!」

 銃を構えたものが金具を押す。火が薬室に伝達され、すさまじい運動エネルギーが弾丸襲う。

 爆発、轟音、少なくなった悲鳴。

 敵の騎兵隊が、馬が、兵士が混沌に包まれる。

「第1から3小隊は後退!! 他の小隊は1歩前進!!」

 先ほど射撃をした最前列の小隊が後退し、他の隊が前進する。まだまだぎこちないが、これでも3日かけて行われた練兵の成果だ。

「前列、構え!! 後列は装填!!」

 敵は我々の革命的手榴弾と革命的射撃によりほとんどが壊滅している。だが、念には念を。

「放て!!」

 爆発、轟音、さらに少なくなった悲鳴。

 十分か?

「総員射撃やめ!! 突撃用意!!」

 銃から火縄をはずして塹壕に立てかけて、鉈や鎌といった刃物を抜き放つ。

「突撃!!」

 私もその一言で塹壕を飛び出す。みな口々に「ウラー」と叫ぶ。

 最期の仕上げだ。奇跡的に馬にまだ乗っているものは馬から引きずり落とし、剣を持ったものは弩でしとめた。

「馬は殺すな!! 大事な戦略物資だ」

 そうは言うが、うまくいかないだろう。これだけ派手にぶち込んだのだから。

 だが、戦果は上々。士気も高い。一通り片付いたところで私は号令をかける。

「集まれ!!」

 小隊ごとに集まった面々。戦場の興奮でまだ顔が赤い。

「我々は勝利した!! だがこのままではいづれまた敵が来る。敵を待つ必要性はない。今度はこちらの番だ!! 旗を掲げよ!!」

 棒切れについた赤い旗。我が祖国の旗。我らが共産主義の旗。

 鎌と槌。農夫も工夫も全ての労働者が団結する旗。

 我らケリトアザ解放赤軍の旗だ。



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