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チート魔導師と魔女の箒  作者: 夢影
第二章 魔女の箒
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第六話 旅は道連れ

 俺は少女の前に立つと、杖を構えて魔物たちを一瞥した。突然現れた俺に、魔物は警戒するようにグルグルと唸り声を上げる。


「おい、大丈夫か?」


「え、ええ……」


「少し離れてろ、巻き添えを食うぞ!」


「わ、わかりました!」


 少女は近くにあった岩の陰へと隠れた。俺がそれを確認するのとほぼ同時に、魔物が一斉に飛びかかってくる。しかし、その動きは俺からしてみると相当鈍かった。

 長めの杖を顔の前で円を描くように振り回し、魔物たちを薙ぐ。先頭付近の魔物が三匹吹き飛ばされた。続いて杖を大きく横に薙ぎ、手前の地面に着地した後続の魔物をまとめて吹き飛ばす。杖全体に重い感触が伝わるのと同時に、魔物の身体が草をなでるようにして飛んで行った。こうして五メートルほど飛ばされた魔物たちはしばらく痙攣していたものの、やがて動かなくなる。


「ウオォーーン!!」


 ここで他の魔物より一回り身体の大きな魔物が吠え、一目散に逃げ出した。その個体が群れのリーダーだったのか、他の個体も次々と俺の周りから逃げ出していく。どうやら実力の差を悟ったようだ。

 あっという間に魔物たちの姿は見えなくなり、草原に平穏が戻った。俺は少女が隠れた岩の方を振り返ると、彼女に声をかけてやる。


「もう大丈夫だぞ!」


 俺がそういうと、そろりそろり、おっかなびっくりという様子で少女は岩陰から顔を出した。彼女は近くに魔物が居ないことをひとしきり確認すると、茫然とした顔をしながら俺の方へと近づいてくる。

 色素の薄い蒼髪に、白みの強いシルバーの瞳。目鼻立ちは控えめだが非常にバランスがとれていて、凄く神秘的な印象だ。人形のようなという喩えがあるが、まさにそれがしっくりくるような雰囲気の少女である。

 低めの身長と幼げな顔だけ見ていると歳は十四、五歳に見えた。しかし、細身の体に反するかのようにたっぷりと育っている胸元を見ると十七、八歳にも見える。

 そんな少女は、俺の前に立つとペこっと頭を下げた。


「魔物を追い払っていただいたようですね。ありがとうございます」


「どういたしまして。……ところで君、なんでそんな恰好で魔物に追われてたの?」


「はい、実はその……奴隷商人のところから逃げ出してきたんです」


 ど、奴隷商人!? もしかしてこの世界、奴隷制があるのか! 母さんは全然そんなこと教えてくれなかったぞ……!

 こうして俺が奴隷の存在に激しく動揺していると、少女は「ああ、違うんです!」と声を上げた。彼女は俺の眼をまっすぐに見ながら話し始める。


「私は正規の手段で奴隷にされたわけではありません! だからあなたが私を助けたからといって罪に問われるようなことはないんです! なので、安心ください、大丈夫ですから!」


「いや、そういうことじゃないんだけどさ……。うん、安心しておく」


 安心すると言わないと、少女は今にも泣き出してしまいそうだった。なので、俺はとりあえずそう言っておく。どこの世界でも、女の涙って強いんだな。超美人の母さんと生活していたけど、全く女の子に対しての免疫が付かなかった俺はそれを痛感してしまう。

 その後、気を取り直した俺は少女にさらに詳しい事情を聞いてみた。すると見た目に反して話すのが好きなのか、彼女は滔々と自身の身に降りかかったことを教えてくれる。




 ◇ ◇ ◇




「……つまり、新米冒険者の君は所属したギルドに騙されて売られちまった。それで奴隷商人の馬車に乗っていたところをたまたま魔物が襲ってきて、その隙に逃げ出したと」


「大体そうですね」


「ひ、ひでえ……」


 なんというか、凄く世紀末な状況だ。神なんてものが実在しているという割には、治安最悪じゃないかこの世界。たぶん、聖府の小回りが利かない部分の悪い面とかがもろに出ちゃってるんだろう。

 日本ではまずありえないような少女の境遇に、俺は思わず同情の念が湧いてきた。この世界ではよくあることなのかもしれないが、根が日本人な俺には結構くるものがある。


「……なあ、君はこれから行くあてはあるのか?」


「ありません。でも、街まで行けばきっと何とかなりますよ。自分で言うのもなんですが、見た目には恵まれてます。なので最悪でも娼婦になれば……暮らしてはいけますし」


 少女はそういうと、俺に笑いかけて見せた。しかし、その笑いがとてもぎこちなくて影があることは、ろくに人と触れ合っていない俺にもわかってしまう。これからのことが不安で不安で仕方ないという彼女の感情が、ダイレクトに伝わってくるようだった。

 ――ここでこの子を見捨てたら、男じゃないよな。

 お人よしな考えなのかもしれないが、俺は純粋にそう感じた。困った人などこの世界にはごまんといるだろう。そういう人をいちいち助けていたらキリなどないし、そんなことをするつもりもない。だけど、たまたま出会ったこの子を助けるぐらいは良いんじゃないだろうか。


「……君は何か得意なこととかある?」


「そうですね……家事はだいたいできますし、戦いもある程度はできます。特に魔法は結構得意です」


「よし、決めた。君のことはしばらく俺が面倒をみるよ。ただ俺にもあんまり余裕はないから、たくさん働いてもらうけどな」


「そ、そんな……悪いですよ! 助けていただいただけで十分すぎるくらいです!」


「んなこといっても、ここで俺が放りだしたら君は行くとこないんだろ? だったら素直に甘えとけばいい」


 少女は唸ったり、頭を抱えたりしながらしばらく迷っていた。だがやがて、彼女は決心したような顔をすると、地面に頭がぶつかるんじゃないかというぐらいの勢いで頭を下げる。


「よろしくお願いします! 精一杯全力で働かせていただきますッ!」


「えっと、君の名前は?」


「申し遅れました! サレナ・コーストンと申します!」


「俺はソル・ステンシア。よろしくな」


 こうして俺は、旅の道連れを得たのであった――。


主人公の名前が初登場です。

ソル・ステンシア君をこれからもよろしくお願いします!

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