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チート魔導師と魔女の箒  作者: 夢影
第二章 魔女の箒
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第五話 出会い

 それから半年。母さんは帰ってこなかった。

 そこで置き手紙に従って箱を開いた俺は、二つの選択肢で悩んでいる。

 一つは母さんが向かった西へ旅立つこと。もう一つは、紹介状のあるギルド「魔女の箒ウィッチ・ブルーム」へ向かうこと。 この塔を出ることはすでに決めたが、そのどちらにするのかを俺は決めかねていた。義理ではあるが息子として半年の間に母さんに何が起きたのかを知りたい。けれど、同時に母さんの意志も尊重してギルドにも行きたい。その二つの間で心が激しく揺れていたのだ。


「さて、どちらにしようか」


 旅支度はもうすっかりできていた。母さんが家に遺してくれた数々のアイテムの一つ、コンテナバッグ。倉庫一つ分の物が入るこの超便利な魔法のアイテムに、着替えや携帯食料、さらには家の中に置いてあったわずかばかりの貨幣など必要なものをあらかた詰め込んである。あとはこれを手にして家を出るだけだ。

 バッグからコインを取り出すと、その数を数えてみる。金貨が十枚に銀貨が三枚、そして銅貨が六枚。銀貨一枚で銅貨百枚、金貨一枚で銀貨十枚。銅貨一枚で小さなパンを一つ買えるかどうかだというから、銅貨一枚で百円ぐらいの価値だろうか。つまり、銅貨千枚分の価値がある金貨は十万円分ぐらいの価値があると考えればいい。

 つまり俺の所持金は大体百万円ぐらいだ。かなり多いともいえるが、何年かかるかわからない長旅をするための路銀としては少々心もとない。行く先々で仕事をして金を得られればいいのだが、そうは都合よくいかないだろう。よそ者を簡単に雇ってくれるようなところがそうはあると思えない。


「やっぱギルドだな」


 ようやく俺の心は決まった。

 外套を羽織って杖を手にする。紅の宝玉を先端にあしらった銀色の杖は、俺の肩ぐらいまでの長さがあり、恐ろしく丈夫で硬かった。懐には相棒の暴食の書を携え、杖を持っていない左手にはコンテナバッグを持つ。これでもう準備万端だ。

 最後に散らかっていた物をきれいに整えると、俺は家を出た。塔の入り口であるさながら城門のような鋼鉄の扉にしっかりと鍵をかけると、ここで改めて塔の全景を眺める。最初のうちはどこからどう見てもダンジョンにしか思えなかったこの叡智の塔は、今ではもうすっかり俺の家となっていた。白い塔が際限なく空へ伸びていくという非常識な景色に郷愁さえ覚えてしまう。


「行ってきます!」


 そう言って俺は塔に背を向けると、一歩足を踏み出した。向かうは魔女の箒ウィッチ・ブルームの拠点がある古都ラグナシル。

 未知の世界が、いま俺を待っている――!




 ◇ ◇ ◇




 古都ラグナシル。かつての巨大都市の廃墟に寄生するような形で建てられた都で、大陸有数の大都市である。町の地下に眠る古代の遺産目当てに集まってきた山師たちが発展させてきたという歴史を持つ街でもあり、現在でも冒険者たちが数多く住んでいるそうだ。冒険者たちの性質に影響されてか独立的な気風の強い街で、所属しているコーライン王国からは半ば独立状態にあるという。

 そんな古都ラグナシルは、叡智の塔から割と近い場所にあった。地図で見る限り、歩いて一週間といったところだろうか。初めての旅ということでゆっくり歩くことにした俺は、まず塔の周辺に広がる大森林を抜けるべく木々の間を突き進んでいく。

 森の魔獣たちは俺の強さを気配で察しているのか、ほとんど姿を現さなかった。たまに知能の低い魔物が飛び出してくることもあるが、全く問題にならない。むしろ気分転換になっていいぐらいだった。……戦闘が気分転換というのは、人としてどうなんだとは思わないでもないけど。

 そうして森を歩くこと三日。ようやく俺は森の出口に達することができた。森の向こうは広大な草原となっていて、その中に大きな岩がポツリポツリと点在している。どこまでも果てしなく広がる緑が風で波打つ景色は雄大で、これぞファンタジーって感じだ。

 草原を抜けていく街道を見つけたので、俺はのんびりとそこを歩いていく。太陽が燦々と射す中を風に吹かれながら行くのはとても壮快な気分だ。マイナスイオンたっぷりの湿り気のある森の空気も悪くないが、カラッとした草原の風もまたとても心地が良い。

 あんまり気持ちがいいものだから、少しうつらうつらとしてきてしまった俺。するとここで、そんな俺の耳を甲高い悲鳴が引き裂く。


「うぬ?」


 声のした方に振り向くと、人が狼のような魔物に追われていた。近づいてみると、追われているのは女の子のようだ。ぼろきれのような酷く粗末な服を着た彼女は、魔物の群れから必死に逃げている。


「ヤバいな」


 少女は弱っているようだった。しかもまともな靴を履いていないせいか、走るのがかなり遅い。そのせいで足の速い魔物との距離はドンドン詰まっていき、このままでは餌になるのも時間の問題だった。

 見知らぬ少女には縁もゆかりもないから、助ける義理など俺にはない。だが、見過ごすのもまた寝覚めが悪かった。加えて、目の前で女の子が喰われるシーンなどを見たら、いくら前世に比べて精神的にタフになった俺でも吐きだしてしまう自信がある。

 すぐに助けようと決めると、足に強化魔法をかけた。直後、足元が吹き飛び身体が爆発的な勢いを得る。俺は弾丸のごとく加速していき、瞬く間に少女と魔物の群れの間に到着した――。

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