表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート魔導師と魔女の箒  作者: 夢影
第一章 塔と魔女
2/24

第二話 魔導書との出会い

 月日が過ぎるのは早い物で、俺は六歳になった。地球では小学校に入学する年だが、この世界でも六歳というのは子供が勉強や習い事などを始める年らしい。俺もまた、育ての親であるエリーファさんこと「母さん」から魔法の訓練を受けることとなった。

 俺と母さんが住んでいるのは、森のど真ん中に立っている高い塔だった。地平線の果てまで緑が続くようなだだっ広い森の真ん中に、十円ハゲのような感じでちょっとした広場があり、その中央に塔がそびえている。一度だけ好奇心から塔の外に出て外観を眺めたことがあるが、まさにバベルの塔といった高さだった。頂上がかすんでしまって、まともに見えないほどだったのだ。

 正式名称を「叡智の塔」というこの塔の一番下の部分を占拠するような形で、俺と母さんの二人は暮らしていた。母さんが言うには、塔の上の方はすべて本に占拠されていて図書館のようになっているらしい。しかも魔導書などと呼ばれる類の本などが散乱していて、曰く「お前が入ったら一分で死ぬ」だそうだ。そういった母さんの顔はいつになくマジだったので、たぶん本当だと思う。

 加えて、塔の周りに広がる森も相当な危険ゾーンだった。一度塔の外に出てみたと言ったが、あのときもすぐに山犬の王様みたいなやつに攻撃された。駆けつけた母さんが一撃でぶっとばしたので、俺は全く無事だったけれど。

 こんな明らかにヤバい地域にどうして母さんが住み着いたのかというと、ある魔法の研究をしたかったかららしい。俺にはまだ早いと言って詳しくは教えてくれなかったが、かなり壮大な魔法を研究しているようだ。時折「時間基軸が調整できない」とか「高次元波動が揺らぐ」とか、物理学者が言うようなことをつぶやいている。

 研究一筋の母さんだったが、魔法の訓練についてはとても熱心だった。前世で憧れていた上に、魔法を覚えなければ家から出ることすらできないということで、訓練を受ける俺の方も必死。そのおかげかどうかはわからないが、俺はどんどん魔法を身につけていった。

 比較する対象がないので自分では何とも言えないが、母さんに言わせると俺は相当な才能を持っているらしい。母さんも俺と同じ六歳で魔法の訓練を始めたらしいが、俺ほど早くは習得できなかったそうだ。大魔導師とかそういう称号を持っていそうな母さんを超えているということは、きっと魔法に関しては天才なんだと思う。

 勉強はできれば楽しいというが、魔法も同じだった。やればやっただけリターンがあるので訓練が楽しくてしょうがない。毎日ちょっとずつでも強くなっていく感じがたまらないのだ。

 そうしてジャンキーとかマニアといったレベルで鍛錬を続けること四年。十歳になった俺は、母さんから塔の中層部へ入る許可をもらっていた――。




 ◇ ◇ ◇




 上に向かって果てしなく続く本棚。それに沿うようにして伸びる螺旋階段を、俺はズンズンと突き進んでいた。現在地は叡智の塔中層部のそのまた真ん中のあたり。目的地が中層部と上層部の境目のあたりなので、あともう少しである。

 下層部を出発してすでに三十分ほどが経過していた。これだけでこの叡智の塔の圧倒的な高さがわかる。しかしこの塔の厄介なところは高さだけではない。なによりも所蔵されている本が物騒なのである。


「キィ―!!」


 遠雷のような音ともに空中に紅い魔法陣が現れた。そこから無数の蝙蝠が現れ、一斉に俺の首元へと殺到する。黒い塊のようなそれらを杖で袈裟斬りにすると、一歩足を踏み出し魔法陣との間合いを詰めた。そして構えた杖の先を突っ込み、勢いよく魔力を放出。魔法陣に罅が入って、ガラスよろしく砕け散る。その瞬間に、蝙蝠たちの死骸もまた消えていった。


「またか」


 俺は階段に落ちていた「召喚魔術概論」と書かれた本を拾った。この本は中層部の魔導書の中では下の上の力しか持たないのだが、たまにこうして意味もなく魔法を発動させたりする困った本だ。特に俺のことはあまり好きではないらしく、近づくと十中八九こうして魔法を発動させてくる。

 魔導書というのは意識と魔力を持った本の通称だ。意識といっても会話ができるほどのレベルに達した本というのは上位のごく一部だけで、大多数の魔導書はせいぜい下等生物クラスである。しかし本というものの性質か魔力を扱うことには長けていて、最下級の魔導書でも何らかの魔法を行使することはできる。だから魔導書は気まぐれに魔法を撃つ、人間にとっては害を為す存在だ。……母さんが研究材料として魔導書を可愛がっているので、俺自身はどんなに絡まれても破壊するようなことはできないのだけれど。

 本をもとの棚に戻してやると、再び俺は道を急ぎ始めた。すると俺の目に酷く薄っぺらな本が飛び込んでくる。幼稚園児が読む絵本よりもさらに薄いようなその本は、階段の真ん中を占拠していた。黒に金文字という豪華な装丁の施されたそれは、薄さに反する存在感を放っていて酷く不気味である。


「なんかヤバそうな本だな、こいつ」


 そろりそろりと、階段の端をすり抜けようとする俺。すると本は読んでくれというようにこちらへとすり寄ってきた。長方形の身体をフリフリと揺らすその様子は、犬か何かのようだ。

 しばらく進んだが、本はけなげにくっついてきた。「キューン、キューン……」という哀しげな幻聴すら聞こえてきそうである。こんなに薄いんだし、読んでやるか。俺は本を持ち上げると、ゆっくりとページを開いた。


「あれ、白……」


 最初から最後まで目を通したが、本はノートのようにまっさらだった。インクの染み一つない。何がなんだかさっぱりわからなかった俺は、本を閉じて適当な棚の隙間へと放り込んだ。しかし手を離すや否や本は階段の上に落ちてきて、また俺を追いかけてくる。

 やばい、呪いの本でも開いちまったか?

 しつこくついてくる本を見てそう思った俺は、呪いを解いてもらうべく母さんのもとへと急ぐのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ