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チート魔導師と魔女の箒  作者: 夢影
第四章 秘密の遺物
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第十九話 鏡

 鐘の鳴り響く駅前の広場に、一人の少女が駆け込んできた。豊かな金髪をなびかせ、活動的だがあちこちに装飾の施されたドレスを着た彼女は、どこぞの貴族のようである。さらに、お供の執事よろしく二人の男が彼女の後を追いかけていた。

 そんな少女は俺たちの姿を目にすると大きく手を振った。そしてこちらへと駆けてくる。


「ごきげんよう。あなた方が魔女の箒マジック・ブルームの冒険者さんたちかしら?」


「ええ、そうよ。あなたが依頼人のメリルさん?」


「そうですわ。確認してくださいまし」


 そういうとメリルさんは薄いカードを差し出した。アルニアさんはそれを受け取ると、自身も懐からカードを取り出す。日本で言うところの、名刺交換のようなものだろうか。カードを持つのはPTの代表者だけだそうなので、俺たちはまだ持たされていないけれど。


「私がアルニア、こちらに居るのがソル。一番奥に居るのがサレナです」


「わかりましたわ。これからよろしく頼みますわね」


 メリルさんはスカートの裾をつかむと、優雅に礼をした。本当に貴族の令嬢のような人である。俺たちもそれにつられて、出来るだけ上品に頭を下げる。もっとも、作法の教育などは受けていないのでかなり不格好な礼だが。


「こちらこそ。それで、後ろの方たちは?」


「護衛に雇った冒険者の方ですわ。年上の方が深紅の竜牙ドラゴンファングのジーンさん。年下の方が白銀の十字剣シルバー・クロスソードのライヘンさんですの」


深紅の竜牙ドラゴンファング白銀の十字剣シルバー・クロスソードですか……」


 アルニアさんは噛みしめるように二つのギルドの名を呟いた。その顔は何やら複雑そうである。俺はとっさに、横にいたサレナに聞いてみる。


「二つのギルドとうちのギルドとの間で何かあるのかな?」


「さあ、私にはさっぱり。でも、どちらもかなり有名なギルドですね。だからじゃないでしょうか」


「ライバル意識ってことか」


 俺はメリルさんの奥に居る冒険者二人に視線を走らせた。ジーンと紹介された方は冴えない印象のある中年の男。頭が少し後退していて、角ばったデザインの黒縁メガネをかけている。純粋な魔法使いタイプなのか手には小ぶりの杖を持ち、服装はYシャツに似たラフな恰好をしている。

 一方、ライヘンと紹介された美丈夫は背中に巨大な剣を背負っていた。白銀に輝く鋼の胸当てを付けた彼の姿はいかにも騎士といった雰囲気である。剣に宝玉が埋め込まれているところを見ると、魔法剣か何かの使い手だろう。

 ジーンさんの方は俺の視線に気づくと軽く頭を下げた。柔和な笑みを浮かべた彼は、人の良さそうなおじさんそのものである。しかし一方で、ライヘンの方は俺の視線に気づくと鋭くにらみ返してきた。青い瞳が俺の身体を射抜くようだった。


「それでは全員そろいましたし、出発しましょうか」


「その前に、ひとついいですかな?」


 メリルさんが出発の合図をすると、ジーンさんがそれに待ったをかけた。メリルさんは彼の方を見ると、少し不機嫌そうな顔をする。


「何かありまして?」


「警護する側としては、何を守ってるのかぐらい教えていただきたいかなと。その、発掘品の中身を知りたいのです」


「それもそうですわね……。ですが、ここでは人目がありますわ。列車に乗ってからに致しましょう」


「わかりました、わざわざすみませんなあ」


 ジーンさんはそういうと照れたように後頭部を掻いた。俺たちはそんな彼にクスッと笑いながらも荷物を手にし、ゆっくりと駅舎の方へと歩き始める。

 メリルさんを先頭にし、そのあとにライヘンさんとジーンさんが横に並んで続いた。そして最後尾を俺たちのPTが歩いていく。午前中の中途半端な時間のためか駅を歩く人は少なく、団体で歩いてもそれほど通行人の邪魔にはならない。俺はサレナと横に並び、話しながら歩いていた。


「人目があるところじゃ言えないもの……何か、大変なものなのでしょうか?」


「たぶん、そうじゃないかな」


「まさか麻薬とかなんじゃ……」


「そんなわけないわ」


 それを言ったのは、いつの間にか俺たち二人の間に割り込んでいたアルニアさんだった。俺たちは思わず肩をびくっとさせてしまう。しかし、彼女はそれに構うことなく話を続けた。


黄昏の探索者トワイライト・エクスプローラはそんなことをするようなところじゃないわ。それに、そういうものだったらこんなにたくさんの護衛は付けないわよ。もっとこそこそやるはずだわ」


「それもそうですね」


 確かに、麻薬のようなものだったら運ぶのにわざわざ護衛など付けない。護衛など付けたら逆に怪しまれてしまうだろう。ということは、今回輸送される品はそういったアングラなものではない何かではあるのだ。

 しかしそうであれば、人前で名前を言っても大丈夫そうなわけで。発掘品とは一体何なのか。俺の頭の中をまとまらない考えがグルグルと果てしなく渦巻いていく。

 そうしているうちに俺たちは駅のホームへと到着した。かなり広々としたホームで、日本のキオスクのように店まである。そのホームの向こう側には、クラシックなデザインの列車が止まっていた。蒸気機関車から煙突を取ったような黒い先頭車両と、それに連なる濃緑の客車。どことなく気品のあるそれらは、間違いなく特等列車とやらだろう。


「これが特等列車か。すげえ高そう」


「片道で金貨一枚とられるらしいわよ」


「うわ……」


 庶民根性全開の俺は、その列車のうち後ろから二両目の車両へとおっかなびっくり乗り込んだ。すると車内は見た目以上に広々としていて、高級ホテルのような趣がある。飴色をした木の扉などが実にセンスがいい。

 車内はいくつかの部屋に区切られていて、メリルさんはそのうちの三部屋を借りていた。一つはメリルさんが泊まる部屋、もう一つはジーンさんとライヘンさんが泊まる部屋、そして最後に俺たちのPTが泊まる部屋である。ただし、護衛の冒険者たちが部屋に戻るのは交代で寝るときだけで、それ以外は基本的にメリルさんの部屋に詰めることになっていた。

 一つの部屋に六人も入ったら狭いのではないかと思ったが、意外とそうではなかった。コンテナバッグの技術でも応用しているのか、大人が六人入っても余裕の広さがある。さらに驚いたことに、この部屋には今いるベッドルームだけではなくシャワールームまであるとのことだった。


「さて、列車に着きましたしお約束通り、発掘品についてお話ししましょうか」


 メリルさんはドアに鍵をかけると、手に持っていたカバンを開いた。彼女はその中からうすい正方形の箱を取り出す。金属製の箱はかなりがっしりとしていて、見るからに頑丈そうな鍵がついていた。箱というよりも手持ち金庫か何かに近い。


「この中に入っているのは鏡ですわ。今回、あなた方に守っていただく発掘品はこの鏡ですの」


「鏡だァ? そんなもの守るのに、これだけのメンツをそろえたのかい?」


 ライヘンが不満げにつぶやいた。その顔はいかにもつまらないと言った様子だ。それを見たメリルさんは、とんでもないとばかりに声を荒げる。


「ただの鏡ではありませんわ! 映したものの魂を吸い込んでしまう、最悪の鏡ですの――」

大幅改定した第十九話です。

このたびはご迷惑をおかけしました。

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