第十八話 東大陸鉄道で行こう
黄昏の探索者とは、ラグナシルからみて東部の大都市ライカネンの都に拠点を構える発掘系ギルドである。五十を超えるメンバー数と確かな技術力を誇り、発掘を専門としているギルドの中ではアトラティカ大陸最大手のギルドだ。未知の古代遺跡を発掘した実績もあり、その道では知らないものが居ないほどのギルドである。専門書を開けば名前が必ず見つけられるほど有名だそうだ。
そんなギルドとうちのギルドはほとんど知られていないが先代の頃から付き合いがあるのだそうだ。黄昏の探索者は優秀ゆえに貴重な発掘品を良く見つけるのだが、それをめぐってたびたびトラブルが発生する。それをうちのギルドが解決しているとのことらしい。
このようなことをナツメさんから聞かされた俺は、そうなんだと軽い調子でうなずいた。一方、サレナやアルニアさんは少し驚いた顔をしている。
「うちと黄昏の探索者が繋がってるなんて、全く知らなかったわ」
「そんなつながりがあるなんて、うちのギルドって意外と凄いんですねえ」
「意外とやなくて普通に凄いんや。……ま、つながりといっても希薄なものなんやけどな。それで、肝心の依頼の内容なんやけど――」
ナツメさんはカウンターの中に手を突っ込むと、赤色の依頼書を取り出した。ブラックに次ぐ難易度を誇る依頼にしか用いられない色である。それを見た俺たちは思わず目をぱちぱちとさせた。それなりに実力があるとは自負しているが、まだこんな高い難易度の依頼を引き受けられるほどではない。
「四代目、いくらなんでもレッドは無理よ!」
「いやそれがな、便宜上レッドにしてあるんやけど実質的な難易度はそれほどでもないんや」
「どういうこと?」
「とにかく、依頼書を見ればわかる」
ナツメさんは俺たちの方へ依頼書を寄せた。俺たち三人は額を寄せて依頼書の内容に目を通す。
『発掘品の警護依頼
拘束期間:三日から五日
報酬:一人当たり金貨四枚
依頼人:黄昏の探索者マスター・オルガノ
内容:我がギルドが発掘した宝を安全に輸送するため、警護の者を募集する。オスカーナからライカネンまでの区間を護衛として我がギルドの者ととも行動してほしい。
備考:この依頼はできるだけ強力な冒険者に紹介するように』
俺が見る限り、特に怪しい点はなさそうだった。どこにでもありそうな普通の依頼だろう。サレナも特に疑問は感じなかったようで、キツネにつままれたような顔をしている。ただ、アルニアさんだけは訝しげな顔をしていた。
「なるほど、わざわざ強力な冒険者にしてくれとか書いてあるからレッドなのね」
「そうや、普通の依頼人はわざわざ指定なんてせえへん。素人ならともかく、何回も依頼をしてる所ならなおさらや」
そう言われてみればそうだ。その依頼にどのような冒険者を回すかはギルドの判断である。ギルドを信頼しているならばよほどのことがない限り、強力な冒険者を頼むなどとは言わないだろう。そんなこと言わなくとも、その依頼を十分こなせるであろう人物が派遣されてくるはずなのだから。
特に数十年単位で付き合いのあるところがわざわざ強い冒険者を頼むなどといってきたということは、そう言わなければいけない理由があると考えるべきだ。ナツメさんがこの依頼をレッドにしたのも、依頼書に書かれていない事情を何か感じたからだろう。さすがギルドマスター、よく考えている。
アルニアさんは腕を抱えると、目を閉じてうんうんと唸り始めた。依頼を受けるかどうか悩んでいるようだ。しかしここで、ナツメさんが一気に畳みかけてくる。
「黄昏の探索者のメンバーなら、さっきの宝玉の正体を知っとるんやなかろうか。鑑定してもらういいチャンスやと思うで。それに、この依頼を受けれるメンバーが今はアルニアたち以外にはおらんのや」
「あれ、カグラはどうしたのよ? そろそろ『あの時期』だから、ギルドに待機してたと思うけど」
「緊急のブラック依頼が入ってしもうてな、今頃は飛行船の警備をしとるはずや。なんでも、飛行船を爆破するとか言う物騒極まりない連中が現れたそうやで」
「うわ、相変わらずハードな依頼受けてるわね」
俺は頭の中でカグラさんの姿を想像すると、ご苦労様ですと一礼した。隣のサレナも同じことを感じたようで、天を拝んでいる。テロリストまがいの連中の相手とか、俺だったら間違いなく辞退するだろうからなぁ……。
魔物相手ならともかくとして、人間の集団相手に戦うとか元日本人の俺としては心理的な抵抗がある。もっとも、母さんの教育の賜物かどうしてもという状況になればできるけれど。出来るだけ避けたいところではある。
「……カグラが居ないんだったら、仕方ないわ」
「俺も賛成です。宝玉の正体を知りたいですし」
「私はソル様の意見に合わせますので」
「よっしゃ、依頼成立やな!」
ナツメさんはガッツポーズをすると、依頼用紙をフィリスさんに手渡した。彼女は依頼用紙の右上に大きな赤い判子を押すと、受諾済みのボックスへと入れる。こうして俺たちは、発掘品の警護の依頼を引き受けたのであった――。
◇ ◇ ◇
翌々日、俺たちは依頼人のいるオスカーナの街までやってきていた。湖畔にたたずむ街は落ち着いた雰囲気で、ラグナシルとはまた違った趣のある場所だ。立ち並ぶ建物は白を基調としていて強い日差しをキラキラと反射している。
街の中央に聳えるオスカーナ駅。俺たちはその駅舎の前に立っている時計塔の前にいた。驚いたことに、この世界には鉄道というものがある。その歴史は意外にも古く、百年以上前からあったらしい。ただ、魔物が大量に出現する世界ゆえに地球ほどは発達せず、今でもメインの交通手段は馬車や飛行船なのであるが。
「列車……。なんで飛行船じゃないんですか?」
「言ったでしょ、飛行船は爆破予告とかされてて危ないって。だから列車なのよ」
「むう…………」
サレナはふくれっ面をすると、不満げに唸った。いつも大人しい彼女にしてはずいぶんと珍しい行動である。いつも「はいッ!」と元気よく返事をするのが彼女だと思っていたのに。
「サレナ、なんでそんなに列車が嫌なんだ?」
「座ってるとお尻が痛くなるんですよ。ガタガタ、ガタガタって凄く揺れるんです。あれがどうにも……」
「そりゃ、飛行船に比べると揺れるだろうからなあ……。でも仕方ないよ、列車なんだから」
リニアのように宙に浮いているのならともかく、普通に大地を走る列車が揺れるのは当然だろう。駅から伸びていく線路を見る限り、動力源はともかくとして線路の上を走るということは地球の列車と同じようだし。加えて、車両が地球に比べるとぼろいだろうから地球の列車に比べて乗り心地がひどく悪いのかもしれない。
俺の言葉に渋々といった顔でうなずくサレナ。しかしここで、アルニアさんが意外なことを言う。
「あ、それならたぶん大丈夫よ」
「……どういうことですか?」
「実はね、安全上の都合で私たちが乗る列車は特等列車なの!」
アルニアさんはニッと微笑んだ。するとサレナの顔がたちまち驚愕の色を浮かべる。いまいち俺にはよくわからないが、特等列車というのは相当高級な列車か何かのようらしい。
「やった! それならお尻が痛くならないで済みます!」
「そういうこと。ふふ、乗るのが今から楽しみね……」
そういったアルニアさんの顔は緩み、口が半開きになっていた。たぶん、車内で出されるであろう高級料理のことでも考えているに違いない。基本的に食欲で動いてるからなあ、この人……。
こうして俺たちが他愛もない雑談に興じていると、目の前の時計がゴーンと鐘を鳴らした。午前十時、依頼人の到着する時刻である――。
黄昏の探索者の黄昏という部分は、実はトワイライトエキスプレスにかけていたりします。
……作者は乗ったことがありませんが(汗)




