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チート魔導師と魔女の箒  作者: 夢影
第三章 人が消える森
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第十七話 黄昏の探索者

 テーブルの上に高々と積み上げられた皿の山。俺の背丈の半分ほどにまで達したそれに、思わずため息が漏れた。俺はそれの製作者であるアルニアさんのお腹のあたりを、じっと見つめる。


「よくこれだけ食べれますね……」


「たくさん食べるのは元気の秘訣なの!」


 そう堂々と言ってのけたアルニアさんのお腹はぷっくりと膨らんでいた。しかし、どう見ても膨らんでるお腹の体積と皿に乗っていた料理の体積が合わない。皿にはそれぞれ大人一人がお腹いっぱいになるぐらいの料理が乗っていたのだ。

 一方、サレナは出された料理にほとんど手をつけていなかった。サラダを少し食べ、パンを一つかじったぐらいである。村の景気の良さを反映するかのように並べられた豪勢な料理の数々は、まるまる残っているような状態だ。


「サレナ、あんたどこか具合でも悪いの?」


「そういうわけではないんですけど……」


「じゃあ何? 料理が口に合わないとか?」


「そんなことありませんよ! ただ……」


 サレナは顔をうつむけた。額に皺を寄せたその表情は、とても暗い。


「活躍できなかった私がたくさん食べるのはちょっと……」


「なんだ、そんなこと。別に気にしないでいいわよ、逆に残した方がもったいないわ」


 アルニアさんが言うのはちょっと違うように思ったが、まあ指摘しないでおこう。俺も同じことを言おうと思ったところだし。

 彼女はサレナの方に身体を寄せると、眼の前にあった料理の皿を手に取った。それをサレナの顔にこれでもかと近づける。良い匂いが俺の方まで漂ってきた。


「サレナだってお腹すいてるんでしょ? ほら」


「い、いえ。その……」


 サレナが丁重にアルニアさんの誘いを断っていたその時。彼女のお腹がぎゅうっと鳴った。よっぽど空いていたのか、年頃の女の子にしてはずいぶんと大きな音である。少し離れたところにいるはずの俺の耳でも、はっきりと聞き取ることができた。


「……いただきますッ!」


 吹っ切れたのか、料理をすごい勢いで腹に詰め込んでいくサレナ。先ほどまでの少食っぷりが嘘のようである。アルニアさんほどではないが、サレナも結構な健啖家のようだ。

 その後、零時を過ぎたころに宴会は自然とお開きになり、俺たちは村長の屋敷に泊まった。部屋は成金趣味でギラギラしていたが、その分ベッドの質は良くぐっすりと眠ることができた。そして翌朝、すっかり疲れの取れた俺たちは村長たちに別れの挨拶をしていた。


「本当に、今回は皆さんのおかげで助かりました。それではみなさん、お達者で」


「村の皆さんも、どうかお元気で!」


 そういうと俺たちは報酬を受け取り、やってきていた飛行船のタラップを上った。こうしていろいろあった俺たちの初依頼は幕を閉じたのであった――。





 ◇ ◇ ◇





 村長から渡された袋の中を見てみると、何と金貨が十二枚も入っていた。一人当たり金貨三枚の契約だったはずだから、金貨が三枚も多い。渡された時に「少し色をつけておきました」と村長が言っていたが、これは予想外だ。不測の事態が起きた場合も含めての報酬だと思っていた。


「幸先いいわね! この調子でどんどん依頼をこなしていきましょ!」


「次回こそは私もしっかり働いてお役にたちます!」


 俄然、やる気に燃え始めた二人はラグナシルに着くや否や俺の前をズンズンと歩いていき、すぐにギルドの前へとたどり着いた。彼女たちは勢いよく扉を開けると、カウンターの方へと突き進んでいく。


「おかえり、依頼どうやった?」


 カウンターの奥に腰掛けていたナツメさんが、いつものように軽い調子で聞いてきた。それにアルニアさんが自信たっぷりに答える。


「ばっちりよ、報酬多くもらっちゃった」


「それは良かったなあ。で、ソルの戦い方とかはどうやったん?」


 ナツメさんの声のトーンが少し落ちた。アルニアさんはギルドの中にあまり人が居ないのを確認すると、彼女の方に近寄り小さな声で耳打ちする。


「初心者とは思えない強さだったわ。まんざら、嘘ではなさそうね」


「さよか。やっぱりうちの眼は正しかったんやな……」


 ナツメさんはふむふむと頷いた。アルニアさんは神妙な面持ちをしている彼女に頭を下げると、さっそく次のクエストを受注するべくフィリスさんの方へと向かう。


「あ、ちょっとその前に……」


 俺はコンテナバッグの中から例の宝玉を取り出した。それをナツメさんの前のカウンターに置く。


「依頼の最中に手に入れた物なんですけど、何だかわかりますか?」


「これは……どえらい魔力があるってことはわかるんやけど、何なのかはさっぱりやな……。フィリス、これ何かわかるか?」


 ナツメさんはこっちこっちと手招きをして、フィリスさんを呼び寄せた。ついでに彼女と依頼の相談をしていたアルニアさんたちもこちらへ戻ってくる。そういえば、宴会などいろいろあったのですっかりこれを見せるのを忘れていた。


「何それ? どこで拾ったのよ」


「あの巨大ゴブリンの腹の中から出てきたんです」


「へえ、あのゴブリンの腹からねえ……」


 アルニアさんが興味深げに見つめる中、フィリスさんが宝玉を手に持った。彼女はその重さをしっかりと確認すると、胸元のポケットからルーペを取り出してその表面を改める。


「魔結晶に似た何か……ですね。魔力の含有量が明らかに多すぎます。しかも、何者かが人為的に生み出したものですね」


「人為的に? 人工物ってこと?」


「はい、天然物にしては不純物が少なすぎますので。これ以上詳しいことは専門家ではない私にはわかりかねますが」


 フィリスさんはそういうと、宝玉をカウンターの上に戻した。その場にいた全員が、訝しげな眼で宝玉を見る。何というか、俺は相当ヤバい物を持って帰ってきてしまったらしい。その場の雰囲気が何となく真面目で重苦しいものとなる。

 そうしていると、ナツメさんが何かを思い出したようにポンと手をついた。


「そうや、それの正体を確かめるのにちょうどいい依頼があるで」


「依頼? 一体どこの?」


「驚いたらあかんで。超一流の発掘系ギルド『黄昏の探索者トワイライト・エクスプローラ』からの依頼や――」

次回から第四章「秘密の遺物」に突入です!

おそらく、これまでで最も長い章になると思いますのでご期待下さい!

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