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チート魔導師と魔女の箒  作者: 夢影
第三章 人が消える森
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第十二話 出発

 旅支度を整えるため買い物に出かけることにした俺たちは、サレナの先導でラグナシルの中心街へと来ていた。馬車が三台ならんですれ違えるほどの広い通りを、たくさんの通行人が埋め尽くしている。道の両脇にはびっしりと露店が立っていて、商人たちが威勢のいい掛け声をあげていた。それを適当に聞き流しながら、俺たちは人波をかき分けていく。


「ソル様、このあたりはスリが多いので気を付けてくださいね」


「ああ、そうだな……っと!」


 噂をすれば影とでも言うのか、さっそく雑踏にまぎれて俺の懐に手を伸ばしてきた不届き者が居た。俺はその男の腹にドンと一発かましてやる。すると男は唸り声をあげて、よろよろと路地の方へと消えていった。腰を曲げて結構苦しそうにしていたが、自業自得である。


「ずいぶん治安が悪いんだな」


「この近くに闇市もありますからね。ほら、あれを見てください」


 サレナが指差した先には薄暗い路地があった。その両脇には、さながらスラムのように煤けたボロイ建物が立ち並んでいる。しかし、そこへ出入りしている人々はずいぶんといい身なりをしていた。

 そんな彼らは大抵、首輪をつけた人を連れていた。おそらくは奴隷だろう。公然と奴隷が売買されている光景を見て、俺は少し気分が悪くなる。


「うわッ……」


「私もソル様と出会わなかったら危ない所でした。感謝しております」


 サレナは俺に深々と頭を下げた。俺はそんな彼女に笑いながら手を振って返す。


「いいんだよ、俺もサレナと出会っていろいろ助かってる」


「そう言ってもらえるとありがたいです」


 こうしてサレナと話しているうちに、目的の服屋へと着いた。俺はここでサレナに銀貨を五枚渡してやる。サレナはそんなに受け取れませんといったが、着替えを一式買うのにこれぐらいは必要だろうと言って無理やりに受け取らせた。

 どこの世界でも女性の買い物には時間がかかるようだ。だいたい一時間ほどはかかっただろうか。サレナは動きやすそうな服を三点と下着を買うと、店の端で通りを眺めて手持無沙汰にしていた俺の方へと駆け寄ってくる。


「お待たせしました! 遅くなってすみません!」


「いいよいいよ、じゃあ武具屋へ行くか」


「はいッ!」


 途中、露店で買った串焼きを昼食代わりに食べながら、俺たちは武具屋のある工房街へと向かった。なんでも魔女の箒ウィッチ・ブルームのメンバーご用達の武具屋があるとかで、そこで買うと多少おまけをしてくれるんだそうだ。この世界において武具は相当高価なものらしいので、少しでも割引してもらって節約したい。


「そういえば、サレナってどんな武器を使うんだ?」


「私は杖ですね。ソル様のような打撃武器にもなるようなタイプではなくて、純粋な増幅器として小さい杖を使ってました」


 おとぎ話の魔法使いのように、小さな杖をふるって魔法を出すサレナ。神秘的な外見と相まって、とても似合いそうである。彼女の武器として小さい杖というのはぴったりに思えた。


「サレナによく似合いそうだなあ。うん」


「ソル様も、その杖はよく似合ってますよ」


「ありがと。うれしいよ」


 話しているうちに俺たちは工房街へとたどり着いた。煙突がいくつも伸びていて、あちこちからトンテンカンと鋼を叩く音が響いている。しかしその一方で、銃器を扱う工房などもあってかなり雑然とした雰囲気の場所だ。

 そんな工房街の一角に箒のマークを掲げた武具屋があった。目的の店である。古ぼけた扉を開けてそこへ入ると、奥からぶっきらぼうな声が響いてきた。筋骨隆々としたガタイのいいオッサンが店先へと出てくる。


「らっしゃい、箒の新人だな? 話は豪火から聞いてるぞ、何をお求めだい?」


「俺の防具とこの子の武具を一式、お願いするよ」


「あいよ、サイズを見るからちょっとこっちへ来な」


 店主は医者が触診をするようにしてポンポンと身体を叩いた。サレナの時は少し顔がゆるんでいた気がするが……武具屋の特権だから仕方ない。サレナ自身もあまり気にしていないようだったし。

 そうしてサイズを確認した店主は奥から防具の山を持ってきた。俺とサレナはその中から適当な鎧を選び出す。俺は黒を基調とした薄い金属製の板金鎧、サレナは赤の革鎧を選んだ。いわゆるビキニアーマーより露出度を若干抑えた、といった程度の鎧だ。

 あまり頼りにならなさそうな鎧を選んだサレナに、俺は思わず尋ねてしまう。

 

「サレナ、それでいいのか? もっとしっかりした奴を買ってもいいんだぞ?」


「大丈夫ですよ。私、あまり力がないのでこれぐらいの方がいいんです」


「ならいいんだけどさ。代金について遠慮はしなくていいからな? サレナが怪我でもしたら俺、アルニアさんと二人になっちまうし」


「……ありがとうございます。でも、本当にこれでいいですよ」


 俺が遠慮はしなくていいと言ったのが効いたのか、サレナは武器はそれなりに上等な杖を選んだ。五百年物のケヤキに、芯としてミスリルが入っているという逸品である。小ぶりながらも手にずっしりとくる重みのある杖だ。

 サレナの武具と俺の防具を合わせると、金貨五枚も掛ってしまった。しかし、命を預けるものなのでケチってしまうとロクなことにはならないだろう。必要経費だったと割り切ると、俺たちは店を後にして石楽亭へと帰ったのだった。




 ◇ ◇ ◇




 そうして、いよいよ依頼に出発する朝が来た。前日の内に市場で食料なども買いそろえた俺たちは、アルニアさんとの待ち合わせ場所であるギルド前へと直行する。するとそこには、大きなリュックを背負ったアルニアさんが立っていた。


「おはよ。あれ、あんたたち荷物はどうしたのよ?」


「ああ、全部この中に入ってるんですよ」


 俺は手に提げているコンテナバッグをポンポンと叩いた。するとアルニアさんの目が丸くなる。


「も、もしかしてコンテナバッグ!?」


「ええ、そうですけど」


「うわ、いいな! 私も前々からほしかったんだけど全然手に入らないのよね……」


 コンテナバッグをさすりながらため息をつくアルニアさん。よっぽどほしかったんだなあ……俺はさりげなく彼女の背負っているリュックに眼をやった。登山家が背負うようなそれは、重さはともかく背負っているだけでかなり動きにくそうである。


「アルニアさんも荷物を入れますか?」


「サンキュ!」


 彼女はさっそくリュックを下ろすと、コンテナバッグの中へと詰め込んだ。そしてそれが終わるとポーンと何かを投げてよこす。俺がとっさにそれを受け取ると、驚いたことに銀貨だった。さすが最高クラスの冒険者、めちゃくちゃ気前いいな……。


「さて、出発しますか。シェンガ村までは乗合船があるから、割と楽よ」


 そういうとアルニアさんはスタスタと歩き始めた。俺とサレナはすぐにあとを追っていく。

 こうして俺たちはシェンガ村へと出発した――。


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