トイレのカッツンさん
9月10日、午後6:30。
わたしは、A香。中1。美術部に入っている。いつもなら、とっくに部活終わって学校を出て、自転車で家に向かっている時間。でも、今日は、家まであと100㍍ぐらいのところで、大事な忘れ物に気づいてしまった。あわててUターンする。
ああ、もう、最悪だ。ここのところ、なんだかついていない。
学校につくと、門をよじ登り、いつも内緒で鍵を開けておいている窓から忍び込む。
美術室についた。忘れ物をとって、さあ帰ろうという時、誰かの気配がした。
わたしの背後、ちょうど美術準備室のほうから、ゴソゴソと物音がした。
こんな時間に、一体誰だろう?幽霊?それとも、凶悪な殺人犯?
わたしは、顔が青ざめていくのを感じた。音を立てないようにして、なんとか美術部から抜け出す。
誰かの気配が、わたしに近づいてきた。
わたしは、近くにあったトイレの一番奥の個室に駆け込んで、鍵をかけた。
・・・カツーン・・・カツーン・・・カツーン・・・カツーン・・・カツーン・・・カツーン・・・カツーン・・・カツーン
しいんとした校舎に、誰かの足音だけが響く。
・・・カツーン・・・カツーン・・・カツーン・・・カッ。
足が、わたしが入っている個室の前で止まった。ガタガタッっと音がして、壁が揺れた。
しばらくして、人の気配が消えた。ホッとして上を見上げたわたしは、思わず、あっと声をあげた。
そこにあったのは・・・
親友のM恵の笑顔だった。
「わたしも忘れ物して、取りにいったら、A香ちゃんがいたから、脅かそうと思って」
そうして、彼女は、軽やかな足音とともに、去っていった。
「全く、とんだ迷惑だよー」
わたしは、脱力しながらも、安心して、また、上を見上げた。
そこには、再び、人がのぞいていた。
その人には・・・
目が、なかった。