★ 窓側の席
彼に出逢ってから数日後の朝、
私は「大宮高等学校」と書かれた門の前に立っていた。
お母さんに言われて転入する事になったけれど、
正直、不安でいっぱいだった。
「―――――健人くん、いる・・・?」
もちろん返事はない。
急に寂しくなって泣きそうになってしまった。
その時、
私の携帯にメールが入った。
健人からだ。
「今日、
俺のクラスに転校生が来るんだって。
楽しみだなー♪」
すぐに、
何処の高校か聞きたかったけれど、
腕時計を見た私はそれどころじゃなくなってしまい、
微かな期待を寄せながら大宮高等学校の門をくぐった。
時間ピッタリに職員室に着いた私を迎えてくれたのは、
私がこれから仲間入りする二年C組担任の菊池先生だった。
「柏木明日香です、よろしくお願いします。」
先生の微笑みで少し緊張がほぐれた私は、
先生の後ろについて行って、教室まで歩き始めた。
二年C組の前で先生が、
「僕が紹介するまでここで待っててね。」と言い、
挨拶をしながら教室に入って行った。
教室に入る前に、
緊張をほぐすために携帯を開くと、
新着メールが入っていた。
メールは健人からだった。
「今、先生が入ってきたとこ。
転校生は男だって言ってるけど、
そっちはどう?」
このメールで私は確信した。
健人と私は同じ学校じゃない。
不安で押し潰れそうな時、
先生がこちらに向かって手招きしてきた。
―――――健人と同じクラスだといいな。
絶対そんなことは起きないのに、
心でそう思ってしまう私が情けなくってしょうがなかった。
そんな複雑な気分で教室のドアを開いた。
おぼつかない足取りで教壇に立って教室を見渡した私は、
目を疑った。
だって、
健人がこのクラスにいるのだから。
嬉しさと感動のあまり、
泣いてしまいそうだったけれど、
何とかみんなの前に立って、
「みなさん、初めまして。柏木明日香です。よろしくお願いします。」
と言う事が出来た。
みんなが拍手してくれるあたたかさが心に染みた。
このクラスではきっと、
何か「奇跡」が起きるような気がした。
みんなの拍手が鳴り終わった後、
先生が私の席を指定してくれたのだが、
そこですぐに「奇跡」が起きた。
私の席は窓側の席。
しかも健人の隣なのだ。
みんなが笑顔で私を迎え入れてくれている中、
私は自分の席に向かってゆっくり歩き始めた。
私が席に着いてカバンを掛けたら、
先生が挨拶をしてホームルームは終わった。
その時健人が、
「また逢ったね。」
そう言って笑顔を向けてくれた事は今でも覚えている。
開いていた窓から心地よい風が吹いた。
私の最高に幸せな高校生活はここから始まった。