雲をつかむクモ
あるところに、クモのくもくんがいました。
くもくんはまだ小さな蜘蛛でしたが、いつもみんなからあきれられていました。
みんなが、
「いかにすばらしい巣をつくるか」、
「いかにおいしい虫を捕まえるか」、
を考えているのに、くもくんときたら、一日中上を向いて、空に浮かぶ白い雲ばかりをながめていたからです。
「ぼく、あの雲をつかんでみたいんだ」
くもくんが言うと、年寄りのクモたちはため息をつきました。
「くもくん、そんなことは誰もやったことないんだよ。世の中にはできないこともあるんだ。周りの子みたいに、立派な巣を作ろう」
それでも、くもくんはあきらめません。
「だってぼくの名前は、くもなんだ。雲をつかむのはぼくにしかできないはずさ」
そう言って、またうっとりと雲を眺めました。
ある秋の、風が心地よく吹く日のことです。
くもくんは、森で一番背の高いクヌギの木の一番てっぺんの枝へと登っていきました。
見上げると、いわし雲がすぐそこまで降りてきているように見えます。
くもくんは、おしりをツンと空に向け、風を感じると、お気に入りの細い細い銀色の糸を放ちました。
シューーー、シューーーッ。
糸は風に乗って、ぐんぐん、ぐんぐんと空へのぼっていきます。
すると、つよい風がその糸をグッと引っ張りました。くもくんのからだが、フワリと宙に浮かびます。
「わああああ!」
くもくんはどんどん高くへとのぼっていきます。
草むらが小さくなり、森が小さくなり、やがてくもくんは、鳥さんたちよりも高い空にきました。
くもくんは、目を閉じて高い空の上をふわふわと浮いていました。
...ふわっ。
突然、くもくんの手に、綿菓子を触ったときのような、やわらかくて、少し冷たい感覚が伝わってきました。
「つかまえた!」
くもくんは、ちいさな、ちぎれたひとかけらの雲をつかみました。
くもくんは、その雲を大切に抱えて、木の枝に持ち帰りました。
そして、その雲で一日中かけて特別な巣を編みました。
次の日の朝。
森の仲間たちは、くもくんの巣を見て、おどろきました。
そこにあったのは、朝露をあびてきらきらと輝く巣だけではありません。
巣の真ん中には、あさやけの光をあびて、ほんのりピンク色に光る、本物の雲がぱっかりと浮かんでいたのです。
「本当に、雲をつかんだんだね」
みんながうっとりとその巣を見つめる中、くもくんは言いました。
「うん。でもね、雲の巣は、おなかがすいたからって虫をつかまえたりしないんだ」
「じゃあ、なんでつくったんだい?」
くもくんは、雲のベッドにそっと体をうずめて言いました。
「こうしてお昼寝するためさ」
それからというもの、森のクモたちは、上を向いてあるくのがちょっぴり流行りになったということです。




