兄は意外と熱血
そういえば、婚約者はどうなっているのかな。
興味がないといえばないが、確認しておこうと結子は公爵に先触れを出した。
ジルヴァの時のようにしれっと裏で決まっていたりしたら、そのうちどこかで知らないまま顔を合わせてはまずい。
婚約者を相手に『初めまして』なんて言ったら、末代までの恥である。
二日後の晩餐後に指定された通り執務室に行くと、いつかのようにそこには長兄もいた。
社交シーズン後、次兄と末兄は母を修道院まで送りがてら領地に戻ったが、長兄はしばらく王都に滞在し、後継として仕事をこなすらしい。
相変わらず微妙に目を合わせられないまま、ソファの公爵の隣に腰かける。
「婚約者だったか。いったん保留だ」
前置きというものをしないのが、公爵という人である。
結子としても、話は早い方がいいので異論はない。
「出自の件ですね」
「まあな」
そうかなーとは、少し思っていたのだ。
公爵の血を引いていないということは、コルネリアは公爵令嬢と呼ぶには微妙すぎる。
家系図には実子として入っているだろうが、本当は血縁がないとしたら、後にバレたら大変なことになる。
血筋を重んじるのが貴族であり、筆頭公爵家であるデイビス家と縁を結ぶというのは、その血を取り入れたいという思惑があるものだ。
「一生独身でも構いませんよ。資産はそれなりにありますし、仕事をしながら生きていけばいいのです」
「おまえはどこからどう見ても貴族令嬢だ。それを一人で放り出してみろ、あっという間に襲われるぞ」
「うーん……髪を切って、化粧で顔を変えるとか?」
「や、やめなさい!」
声を荒らげたのは、意外なことに長兄だった。
公爵そっくりの顔を引き攣らせて結子を見ている。
首を傾げつつ、結子はまた考えを巡らせる。
正直、仕事をして生活することは、まったく苦じゃない。当たり前のことだ。
「そうですね。化粧品も高価なものですからね。簡単に手に入るかわかりませんし」
「そういうことじゃない……」
「オディット伯爵の商会で働かせてもらうとか?」
「間男の傍など冗談じゃない! まともな生活にならんぞ!」
「じゃあ、使用人の誰かにもらってもらいます。そしたら事業の仕事もできて、身元も保証できますし」
「使用人!?」
いちいちうるさい人だ。文句があるなら、案の一つでも言ってみろ。
半目になった結子の視線を受け、一瞬たじろいだ長兄は、コホンと咳払いをした。
「……従兄弟や縁者の誰かと婚姻してはどうだろう」
「…………」
理屈として、まあ言わんとすることはわかる。
とはいえ、このまま公爵令嬢として嫁ぐというのは、少々無理がある。
「現実的じゃないのでは。出自というのは、いずれ必ず公になります。表立って言う者はいなくとも、確実に噂になる」
「そうだな。現に、今社交界は同じ髪と目の二人の噂でもちきりだ。おまえ、狙っただろう」
「狙ったというか、不意打ちよりは意図した時期に噂される方がマシだなとは。ドレスも売上を伸ばしていますし、母の件も片づくわけですし、今かなって」
「確かにな。まあ、それでもいいという縁談も、ないわけではない。全員訳ありだが」
「訳ありなんてだめです!」
必死になる長兄には申し訳ないが、結子もといコルネリアこそが訳ありである。縁談があるだけマシでは。
親の行いのツケを子供が払うことになるのは、まあ、非常に思うところはあれど。
ちなみに、兄たちはコルネリアの中身が違う人間であることは知らない。そもそも、お互いを知らないので。
純粋に、離ればなれで暮らしてきた妹を思っての発言なのだろう。




