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速攻希少動物じゃなくなった


そのうち婚約者と顔を合わせるのかなと思いつつ、さほど興味を持っていない結子は、相変わらず詰め込まれているスケジュールを消化して過ごした。


勉強はもちろん、礼儀作法、外国語、家政や領地経営、ダンス、etc…

よくもまあこれだけの教師を確保したものだと半ば呆れつつも、過ぎ去って久しい学生時代を思い出すようで楽しくもあった。


「仕立て屋さん?」


「ええ。旦那様より、新しいドレスをとのことです。それから、さん、は不要です。お嬢様」


伯爵家の三女でもあるルネは、教育係も兼ねているようで、時折り結子の言葉遣いや所作を指摘する。

素直に言い直してから、結子は首を傾げた。


「不足もないのに?」


「経済を回すのも、貴族令嬢の務めです」


「そうだけど……」


着ないものをストックしていても、コルネリアの身体はまだ成長期。すぐに着れなくなる。

ガッツリ庶民として生きてきた結子の脳裏で、たくさんの諭吉様が舞う。いや、今は諭吉様じゃないんだったか。


「あ、なら、リメイクはどうかしら」


「りめいく?」


「ええと……ルネ、着られなくなったドレスは、どうしているの?」


「寄り子の令嬢たちや使用人に配ってくださいます」


「そのドレスで小物を作ったら、もっと使いやすいんじゃない? ルネだって、お仕事しながらドレスは着れないじゃない」


「ええ……」


「たとえば、リボンにしたら華やかになりそうだし、つけ襟とかぬいぐるみ、クッションカバーにサシェ、髪飾りだって作れるわ。あああ、滾るっ! ルネ、ちょっと作ってみていいかしら!」


生前、サイズアウトした子供たちの服で、人形の洋服やら小物やらを作っていた。

結構楽しいもので、今思えば趣味と呼べるものだったように思う。


勢いよく立ち上がった結子に、突拍子のない言動に慣れてきたルネは静かに頷いた。


「お嬢様がドレスを仕立てられる間に、用意させていただきます」


「まあ! ありがとう、ルネ」


「はい。では、こちらへ」


仕立て屋が来ているという客間に案内されると、なぜか希少動物であるはずの父もいた。

出没頻度が高すぎやしないだろうか。


「ああ、来たな。選べ」


数々のカタログが並べられ、端的に命じられる。

どれも主張が強めの色で、フリルやリボンがわんさか付いていて、結子は顔を引きつらせた。


いや、似合う。美少女であるコルネリアには、絶対似合う。ただ、結子へのダメージが多大すぎる。


「あの……淡いクリーム色などはありますか?」


「なんだ。目立ちたくないのか」


「公爵令嬢というだけで目立つかと……それに、露出はちょっと」


「まあ確かに、露出はなくてもいい」


「ですが、公爵、お嬢様。詰め襟は喪服か寡婦がなさる服装ですわ」


母娘のやり取りにそっと口を挟んだのは、キリッとしたお団子がチャームポイントの仕立て屋。マダム・ミラー。

コルネリアの記憶では、公爵家の依頼なら多少の無理も聞いてくれるお得意さんだ。


「素人の浅知恵なのだけど、たとえば肌と同色のレースで、首元から手の甲までを覆うドレスはどう? やはり、地味かしら」


「まあ! お嬢様、それは斬新ですわね! そうですね、小さな宝石を煌めかせれば華やかですし、裾のドレープを工夫すればもっとよくなりますわね」


「ふんわりし過ぎずに、身体のラインを綺麗に見せるデザインとか、裾だけを広げるか、スリットを入れたり」


「まあまあ、楽しくなってまいりましたね! ええ、ええ。では、ここをこうして……」


ささっとスケッチされたデザインに、遠慮がちながら次々と注文をつけると、意図を汲んだ上でさらに素敵な案が返ってくる。

いつの間にか父は退出しており、白熱した会話にほっと息をついた時には、ずいぶんな時間が経っていた。


できるだけ目立ちたくないし、可能な限り露出はしたくない。

結子の我儘を詰め込んだドレスは、最優先に仕立ててもらえることになった。





「お嬢様、器用でいらっしゃいますね……」


サイズアウトしたドレスから布を拝借し、針を動かす結子の手元を見つめながら、ルネが感心したように呟く。

近ごろ表情も態度も柔らかくなってきた彼女は、必要以上に堅苦しく接することが少なくなってきた。


人は鏡とよく言うが、こちらの対応で変化が起きることもあるのだなと実感しながら、結子は手を動かした。

いくつかの布をバランスよく配置して鮮やかに、さらに別の布で作った小さな花で飾り、布で組んだ紐を通す。


「はい。ルネ、どうぞ」


お腹にルネがくれた匂い袋を詰めた、手のひらサイズのうさぎ。

折れ耳に拘った、少しキリッとした顔のうさぎは、ルネをイメージしたものだ。


驚くルネの手に置くと、おずおずと働き者の指がうさぎの頭を撫でた。


「お嬢様……よろしいのですか」


「もちろん。ドレスの代わりにはならないけど」


「いいえ。いいえ、お嬢様。とても嬉しいです」


人が喜ぶ姿とは、こちらも嬉しいものだ。それが自分の手によるものなら、余計に。


「それは、ルネの特別版サシェよ。他の使用人たちも、リボンやハンカチを作ったら、もらってくれるかしら」


「もちろんです。お嬢様が手作りしてくださったものなら、より嬉しく思います」


「よかったわ」


何枚か生地を重ねて、しっかり汗を拭き取れるハンカチにしよう。女性のリボンは、色とりどりで鮮やかに。


コルネリアには、愛らしいシマエナガを作ろう。

コロンとしてまあるい、優しい顔の。きっと喜ぶ。


次々と浮かぶアイデアを書き留める結子に、ルネが控えめに声をかけた。


「お嬢様、あの……旦那様へは、いかがいたしましょう」


まさか厚手のハンカチではあるまい。

そう思ったルネは、きょとんとした顔に思わず口を噤んだ。


「え、いる? 別に欲しくないんじゃないかな」


「そんなことありえません!」


「そうかな。え、ほんと? あげたら冷たい目で見られたりしないかしら」


いつになく強い口調になってしまったが、渋々といったふうに頷いた結子に、ルネは冷や汗をかきながらほっと胸を撫で下ろした。




ドレスや小物の表現は筆者の妄想100%…

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