繰り返す生
平坦じゃない道を歩いてきた者同士、これから先を共に行くのはどうだろう。
「…………おまえは、私の娘ではない」
考えるように視線を木々の向こうに向け、低く静かな声がゆっくりと言葉を綴る。
「見目はあれのものだが、表情も仕草も雰囲気もすべて違う。娘と見紛うことは決してない」
自分との答え合わせみたいな、ぽつぽつと確かめるような声音。
「私は、あれを救えなかった。救ったのはおまえだ」
「……」
「若さを理由にしても、おまえは納得しないのだろうな」
ため息混じりの問いに、苦笑が漏れた。
それはそう。確かに身体的にはだいぶ若いが、結子の精神は若者とは言い難い。
むしろ十代の青年と夫婦になる方が、だいぶきつい。
「若さが一番の問題なのだがな……」
「人生は長いですから。ほんのひと時、一緒にいればいいと思います。ちゃんとあなたを見送って、死ぬまでしっかり生きます」
「……そうか」
珍しく表情を崩し困ったように笑った公爵が、躊躇うように乾いた唇を舐め、言葉を探す。
そして唐突に。
「…………私は、死んだことがない」
「 ? 」
「もう幾度も、今の生がある。長子が生まれて始まり、末娘が死んだ手紙を読んで、舞い戻る」
それは。それはつまり。結子の足が震えた。
コルネリアは、生まれて死ぬまでを何度も繰り返していたと言った。
公爵は、人生のうちの一部だけを、何度も繰り返してきたのか。
一人目の子をもうけ、二人目、三人目、四人目を授かり、コルネリアが死ぬと回帰する。
────繰り返し、繰り返し、子を喪う。
それはどれほどつらく、身を引き裂かれる人生だろう。
この人は、コルネリアを確かに自分の娘だと言った。娘を何度も何度も見送るのか。
「選択や道筋を変えても、一度目をなぞるようにしか流れず、末娘は必ず死んでしまう。そして、長子の産声を聞いて、また始まる」
「それは……苦しい、悔しいことですね」
「そうなのだろうな。繰り返し過ぎて、もうよくわからないが」
どこか他人事のような口調は、そうなるほどに傷つき硬い殻に覆われた心そのもののようで、結子の胸が傷んだ。
大抵のことに寛容で鷹揚なのは、慣れたり諦めたりせざるを得なかったから。
いちいちに傷ついては、とても正気ではいられない。
「数えることをしなくなって何度も過ぎて、おまえが来た。一目見てすぐにわかった。人形にしか育ててやれなかった娘が、生気に溢れた顔をしていれば、嫌でも別人だと気づく」
人形よりはマシ、と言っていた。初めて会った時。
結子は、人形に育てたのは誰だと瞬間的に苛立ったけれど、そういう意味ではなかったのだ。
「目まぐるしいと感じるのは久しぶりだった。会話を新鮮だと思うことも、何かをしてみようと思うことも、すべて」
「……」
「おまえが私に与えたものだ。私は今、生が慕わしい」
結子の中で、色が咲く。
コルネリアがいた時と同じ、あたたかく柔らかい光あふれる色が。
「いつか私が死ねたら、よかったと言ってやってくれ」
それは切実な、悲しくも希望を見たがる心の慟哭。
たった一人結子だけに向けた、信頼と好意の証だった。




