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たぶん後で侍女に怒られる

以後、近親婚等に関する描写が続きます。ご注意ください。


もしかしたら、今までのコルネリアは〝訳あり〟の一貫で候爵令息を宛てがわれたのかもしれない。愛人持ちの。


などと考えていた結子に、立ち上がった長兄が拳を握る。


「どうせ訳ありなら、父上の方がマシではありませんか!」


「……」


「……」


時が止まった。


ややあって、自らの発言に頭を抱える長兄を尻目に、結子は首を傾げる。


「公爵、何歳ですか?」


「四十二」


「あれ……意外と」


普通、訳あり相手といえば、孫がいたり七十を超えていたりするものだ。

なお、この国の貴族の平均寿命は、結子の世界とあまり変わらない。


四十二歳なら、介護要員として嫁ぐより、だいぶいい。

生前は五十八歳まで生き、精神年齢がかなり高めの結子とは、釣り合うのではなかろうか。


だんだん明るい顔になる結子とは反対に、公爵の眉間の皺がどんどん深くなる。


「乗った!」


「馬鹿かおまえは!」


「ピチピチの十五歳の何が不満です!?」


「若いからだ! この先何だってできるだろうが!」


「ルネと離れたくない! 結婚して離れるなんて嫌だ!」


「お嬢様……」


「なら、嫁ぎ先に連れていけ!」


「ルネはシェフのノアンといい感じだもの! 引き離すなんて可哀想です!」


「お嬢様!?」


ルネの悲痛な声は耳に入らない結子は、珍しく思い切り顔を顰める公爵に詰め寄る。


「公爵、考えてみてください。これから先、独身になった公爵には、わらわらと女性が集まりますよ。未婚淑女、未亡人、みんな目の色を変えます。公爵、かっこいいもの」


「……それは、面倒だ。だが、」


「それに、再婚しなかったとして、老後はどうします? 使用人はいるでしょうが、対等に話せる者が一人もいないんですよ。日がな一日、ぼんやり庭でも眺めます?」


「妙な想像をさせるな……」


「家族ですよ、公爵。家族。……家族?」


「自分で言って首を傾げるな」


「いえ……なんか、家族っぽい思い出がなくて。でも、これからはできますね。今までは家族未満だったけど、親子でも血縁でもないなら、家族を作れるじゃないですか」


「…………」


「わたし、家族が欲しい。公爵。わたしの、家族が欲しい」


寂しい。本当はずっと、寂しかった。

好きだったり嫌いだったりしながら、長いこと寄り添っていた夫。

手がかかったりお金がかかったり時には反抗的だったりしても、どうしようもなく愛した子供たち。


みんな、もう、手の届かないところにいる。


ぎゅっと強く噛み締めた唇に、かさついた指先が触れる。

口を開かせようとするけれど、今力を緩めたら泣いてしまいそうで、強情に首を振った。


「みな外せ」


素早く人払いした公爵が、頭、髪、肩、腕と順に触れて撫でて、逆立つ結子の感情を宥める。

それは、我が子に対する親愛の仕草というよりも、もっと未熟でたどたどしい。


その慣れない仕草に、堪えきれなかった涙が落ちた。


結子は、本当は異世界の人間で、夫と三人の子供たちと、山あり谷ありの人生を歩んでいた。

病で死んだ後に、こうして別の世界で別の人生を与えられるなんて、ラッキーなことだと思う。


コルネリアの元へ行きたかった。だから、ここに来れて嬉しい。

でもそれとは違うところで、家族が恋しい。

それだけ、結子にとっては大切な人生だった。


思い返して、恋しさに泣いてしまうほど、愛しい日々だった。

楽しいことばかりでも、嬉しいことばかりでもない、我武者羅さが、恋しいのだ。

この身すべてで毎日を乗り越えたから、悔いはなくとも、惜しんでしまう。


「……ごめんなさい、公爵。娘と結婚なんて気まずいですよね」


泣きながら笑って誤魔化そうとする結子に、公爵は紳士らしくハンカチを差し出す。

いつか結子があげたゴテゴテのハンカチに、なぜかまた泣けた。


「あれは娘だが……おまえを、娘だと感じることはない」


「他人?」


「言い方はどうかと思うが、まあそうだな。ただの人だ」


その言い方もどうなの。

不器用な言葉に、自然と笑みがこぼれた。


「わたしも、公爵を父親と思ったことないです。わたしのお父さんは、もっとぽっちゃりしてて、ちゃんとおじさんで、ちょっと髪が薄かった」


「ひどい言い草だな。……そうか。おまえにも、他で生きた人生があったのか」


そういえば、詳しく話したことはなかった。

いつか、話せるだろうか。この人に話したいと、結子は思うのだけれど。


「ご一考ください」


「…………わかった」


泣きながら笑う結子の額を、長い指の背がコツリと叩いた。




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