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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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99/105

第99話 続けるために

99話です。

鍋は、今日も火にかかった。


昨日よりも早く、

昨日よりも迷いなく。


誰かが言わなくても、

誰かが動く。


それは、いい変化だった。



「今日は、俺が火を見る」

「じゃあ、私は水」


自然な分担。


誰も命じていない。

誰も拒んでいない。



ミナは、その様子を少し離れて見ていた。


(……うまく回ってる……

 昨日より、ずっと……)



配膳も、滞りない。


器の列。

柄杓の印。

壁の一本線。


|||||||


昨日と、同じ。


それが、安心だった。



だが、

途中で誰かが言った。


「このまま続けるならさ」


全員の手が、止まる。



「決めといた方がよくない?」

「何を?」


「当番」



小さなどよめき。



「毎回、集まって決めるの面倒だし」

「やる人、だいたい同じだろ?」


それも、事実だった。



「向いてる人がやった方が早い」

「火は慣れてるやつがいい」


異論は出ない。



ミナは、胸が少しだけ締まった。


(……“向いてる”って……

 悪くない言葉なのに……)



先生は、

少し離れた場所で、

ただ聞いている。



当番は、決まった。


火を見る人。

水を汲む人。

配る人。


名前は出ない。

顔だけで分かる。



「じゃ、明日も同じで」


その一言で、

“今日”は“明日”になった。



先生は、その夜、

子どもたちだけを集めた。


「今日は、

 “続ける”話をしよう」



地面に、

昨日と同じ円を描く。


中に点。

外に点。


「昨日は、

 数えたね」


頷き。


「今日は、

 分けたね」


また頷き。



「じゃあ質問だ」


先生は、間を置く。


「それを“続ける”ために、

 何が増えた?」


沈黙。



リオが、ぽつりと言った。


「……役割」


先生は、軽く頷く。



「役割は、

 続けるための道具だ」


「でも道具は――」


一瞬、言葉を切る。


「使い方を決めた人のものになる」



ミナは、はっとする。


(……昨日の問い……

 “道具は誰のものか”……)



「役割があると、

 楽になる」


「でも同時に――」


先生は、地面に小さく線を引く。


「“期待”が生まれる」



「火を見る人は、

 今日も火を見る」


「水を汲む人は、

 今日も水を汲む」



「それができなかったら?」


沈黙。



先生は、静かに続ける。


「誰も責めていなくても、

 “外れた”と感じる」



ミナの胸が、ざわつく。


(……外れた……

 まだ誰も言ってないのに……)



「期待は、

 善意から生まれる」


「でも――」


先生は、視線を上げる。


「期待が“当然”になった瞬間、

 それは“監視”になる」



倉庫の外を見る。


当番の話をする大人たち。

誰が今日いなかったかを、

何気なく確認する視線。



「今日、火を見る人が来なかったら」


「誰かは言うだろうね」


声を真似ない。

責める口調にもならない。


ただ、事実として。


「“どうしたんだろう”って」



「その言葉は、

 優しい」


「でも――」


一拍。


「重なると、

 “疑い”に変わる」



ミナは、思わず息を吸った。


(……昨日……

 来なかった理由を……

 考えた……)



先生は、最後にこう言った。


「悪意は、

 最初から悪意じゃない」


「たいていは――」


少しだけ、声を落とす。


「“うまく回っていたものを、

 壊したくない”気持ちから生まれる」



沈黙。


誰も否定できない沈黙。



「だから今日は、

 覚えておいてほしい」


先生は、ゆっくり言う。


「続けるための工夫は、

 誰かを縛り始めた瞬間に――

 “質問されるべきもの”になる」



外では、

鍋の火が落とされていた。


誰も困っていない。

誰も怒っていない。


それなのに――

小さな決まりが、

確かな重さを持ち始めている。


その重さに、

まだ名前はない。


だが――

いずれ誰かが、

それを“当然”と呼び、

別の誰かを測る。


静かに。

ごく自然に。

チョークシリーズは、他の先生の物語もありますので、よろしければご覧ください。

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