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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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91/105

第91話 正解を出したがる人

91話です。

次に集まったとき、

倉庫の空気は、前より少しだけ軽くなっていた。


人が増えている。


前回はいなかった顔もある。

噂を聞いて、様子を見に来た者たちだ。


ミナはそれを見て、胸の奥がざわついた。


(……増えるの、早くない……?)


先生は、特に何も言わない。

前回と同じように、床に円を描いただけだった。


「じゃあ、始めよう」


誰も反対しない。



最初に口を開いたのは、

よく通る声の男だった。


年は四十前後。

服は比較的きれいで、

話し方に自信がある。


「昨日の話、聞いた」


周囲が静かになる。


「失敗してもいい案を出す場所だろ?

 いいと思う。

 だが――」


男は、ぐるりと周囲を見渡した。


「そろそろ、

 “一つにまとめる”必要があるんじゃないか?」


ミナの背中が、ぞくりとした。


(……来た……)


男は続ける。


「いつまでも話してたら、

 結局、何も決まらない。

 それじゃ困る人も出る」


「だから――」


彼は、胸を張った。


「ここで、一番良さそうな案を決めよう。

 俺がまとめ役をやる」


沈黙。


否定は、出ない。

だが、賛同も出ない。


空気が、微妙に固くなる。



先生は、すぐに答えなかった。


代わりに、ゆっくり尋ねる。


「どうして、急ぐんだい?」


男は一瞬だけ言葉に詰まり、

すぐに言い返す。


「急いでるんじゃない。

 責任を持とうとしてるだけだ」


「責任、か」


「そうだ。

 誰かが決めなきゃ、前に進めない」


その言葉に、

数人が小さくうなずいた。


ミナは、その様子を見逃さなかった。


(……不安なんだ……

 “決まらない状態”が……)



先生は、床の円を指した。


「前に進む、っていうのは、

 何をすることだと思う?」


男は即答する。


「決めて、実行することだ」


「なるほど」


先生は否定しない。


「じゃあ、もう一つ聞こう」


静かに、言葉を置く。


「“間違った決定”をしたら、

 誰が責任を取る?」


男は、少しだけ黙った。


「……俺が取る」


「どうやって?」


「文句を言われるのも、恨まれるのも、

 全部引き受ける」


倉庫の空気が、ざわつく。


善意だ。

本物の。


だからこそ、扱いが難しい。



先生は、声を荒げない。


「それは、立派だと思う」


男の表情が、少し緩む。


「でも――」


そこで、間を置く。


「“恨まれる役”を一人に集めると、

 他の人は、考えなくなる」


男の眉が動く。


「考える必要がなくなるからね。

 “あの人が決めた”で済む」


ミナの胸が、きゅっと締まった。


(……それ……

 今までの街と、同じ……)



リオが、ぽつりと言う。


「それって……

 教団と、何が違うんだ?」


男は、ぴくりと反応した。


「一緒にするな。

 俺は、強制してない」


「してねぇけどさ」


リオは言葉を選ぶ。


「“任せる空気”は、作ってる」


空気が、重くなる。



先生は、男を責めない。


ただ、問いを重ねる。


「君が倒れたら、どうなる?」


「……代わりがやる」


「代わりは、どう決まる?」


男は、答えられなかった。


沈黙が落ちる。


その沈黙は、

前よりも深く、

前よりも考える沈黙だった。



先生は、ゆっくり結論を言う。


「“正解を早く出したがる人”は、

 悪じゃない」


男が、こちらを見る。


「でもね」


先生は、円を指でなぞった。


「正解を急ぐと、

 “間違える練習”ができなくなる」


「間違える練習がない街は、

 必ず、誰かに決めてもらう街になる」


ミナは、はっきり分かった。


(……これ……

 まとめ役の否定じゃない……

 “一人に背負わせる構造”の否定だ……)



男は、深く息を吐いた。


「……じゃあ、どうすればいい」


先生は、少しだけ笑った。


「まとめ役は、いらない」


「代わりに――」


「“質問役”を増やそう」


ざわめき。


「案を出す人じゃなくて、

 “それ、どこが失敗しそう?”って聞く人」


ミナの目が、わずかに開く。


(……それなら……

 強くなくても、できる……)



その日、

結局、何も決まらなかった。


けれど――

倉庫を出る人たちの表情は、

前より、少し軽かった。


外では、また視線があった。


見ている。

測っている。


教団のものだ。


ミナは思う。


(……決めさせないことが……

 ここまで効くなんて……)


先生は、何も言わずに歩く。


街は、まだ不安定だ。


だが確実に、

「誰かが正解を持ってくる街」から、

離れ始めていた。


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誤字脱字はお許しください。

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