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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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89/105

第89話 決め方を、決めるということ

89話です。

鍋の前の騒ぎが収まったあとも、

広場の空気は元に戻らなかった。


人々は散ったが――

何かを抱えたまま、家路についた。



ミナは歩きながら、違和感を覚えていた。


昨日までは、

「どう配るか」

「足りるか」

そんな話ばかりだった。


でも今日は違う。


(……みんな……

 “誰が決めたか”を見てた……)



リオが、小声で言う。


「なあ……

 さっきの男、悪くなかったよな」


「うん……」


「でもさ……

 数え始めた瞬間、

 急に“信用される側”じゃなくなった」



先生は、歩きながら答える。


「役目が変わるとね、

 評価の基準も変わる」



「“善い人かどうか”じゃなくて、

 “間違えないかどうか”を見られるようになる」



ミナの背中に、冷たいものが走る。


(それって……

 教団と同じ……?)



倉庫に戻ると、

すでに何人かの大人が集まっていた。


昨日まで、

こんなことはなかった。



一人が言う。


「先生……

 今日の配給のことなんだが」



別の一人が続ける。


「誰が数えるか……

 毎回揉めるだろ、これ」



「今日は先生がいたからよかったけど」



視線が集まる。



ミナは、思わず先生を見る。


(……来た……

 “決めてほしい”って空気……)



先生は、すぐに答えなかった。


代わりに、問いを返す。


「君たちは、どうしたい?」



沈黙。



誰かが、ぽつりと言う。


「……誰か一人に任せるのは、怖い」



別の声。


「でも、毎回話し合うのも無理だ」



「じゃあ、交代制は?」



「その交代を、誰が決める?」



空気が、絡まり始める。



先生は、その様子を見て、静かに言った。


「今、みんなが困ってるのは――」



「“何を決めるか”じゃない」



「“どうやって決めるか”だ」



その言葉に、何人かが顔を上げる。



ミナの胸が鳴った。


(……先生……

 いま……

 “制度の入口”を指してる……)



先生は続ける。


「一人に任せると、不安が生まれる」


「話し合うと、時間がかかる」


「多数決にすると、恨みが残る」



「つまりね」



「どの方法にも、欠点がある」



誰かが苛立ったように言う。


「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」



先生は、少しだけ首を傾けた。


「だから――

 “完璧な決め方”を探すんじゃない」



「“間違えたときに、戻れる決め方”を選ぶ」



その言葉が、静かに広がる。



リオが、思わず聞く。


「……戻れる?」



「そう」


先生は、床に小さな円を描く。


「一度決めたら、

 二度と変えられない仕組みは――

 必ず、誰かを潰す」



円の横に、矢印を書く。


「でも、

 “やり直せる”って分かっていたら、

 人は役目を引き受けられる」



ミナは、今日の男の顔を思い出す。


(……あの人……

 やり直せないと思ったから……

 追い詰められたんだ……)



先生は、最後にこう言った。


「今日は、決めなくていい」



ざわつき。



「代わりに――

 “決め方の候補”を出してみよう」



「正解じゃなくていい。

 失敗しそうな案でいい」



「それを、並べてみる」



その瞬間。


誰かが、初めて手を挙げた。



声は小さかった。


けれど――

確かに“声”だった。


──────

誤字脱字はお許しください。

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