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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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88/105

第88話 数える者は、なぜ孤立するのか

88話です。

翌朝。


鍋の前に立つ男は、昨日と同じ場所にいた。


だが――

昨日とは、周囲の距離が違った。



誰も近づかない。


視線だけが、集まっている。



男は気づいていた。


(……なんだ、この感じ)



「今日はどうする?」


誰かが聞く。


男は答える。


「昨日と同じだよ。

 一人、三つ」



器が差し出される。


男は黙って、芋を数える。


一、二、三。



だが、その手元を――

複数の目が追っていた。



「……今の、二つじゃなかった?」



男の指が止まる。


「三つだろ」



「いや、今のは――」



別の声が割り込む。


「いいだろ、三つだよ」



空気が、微妙に割れる。



男は、気づく。


(……俺、疑われてる)



次の器。


今度は、声が早い。


「ちゃんと数えろよ」



男は、少しだけ強く言う。


「数えてる」



その言い方が――

火種になった。



「なんだよ、その言い方」


「疑うなってのか?」


「疑われるのが嫌なら、代われよ」



沈黙。



男は、返せない。



ミナは、その様子を遠くから見ていた。


(……昨日までは……

 “配る人”だったのに……)



今日の男は違う。


「決める人」

「数える人」

「間違えたら責められる人」



先生は、まだ何も言わない。



次の器。


男は、慎重に数える。


一、二、三。


……四。



一瞬、迷う。


(……これ、入れていいか?)



後ろの視線が、突き刺さる。



男は、四つ目を戻した。



その瞬間。


「ほらな」



誰かが言う。


「今、迷っただろ」



男の顔が、赤くなる。


「迷っただけだ!

 入れてねぇだろ!」



「でも、入れようとした」



「……!」



空気が、重く沈む。



リオが、小さく言った。


「……もう無理だな」



ミナは、息を詰める。


(数を使っただけなのに……

 人が、こんなに変わる……)



そこで――

先生が、初めて前に出た。



男の横に立つ。



そして、静かに言った。


「代わろうか」



周囲がざわつく。



男は、呆然とする。


「……先生が?」



先生は、うなずく。



鍋の前に立ち、

同じように数え始める。


一、二、三。



誰も、口を出さない。



その沈黙は――

男のときと、質が違った。



ミナは、はっとする。


(……同じことしてるのに……

 疑われてない……)



配り終える。



先生は、器を置き、言った。


「今、何が違ったと思う?」



誰も答えない。



先生は、男を見る。


「君は、悪くなかった」



男は、唇を噛む。



先生は続ける。


「でも――

 “役目”が変わった瞬間、

 見え方が変わった」



「数える人は、

 公平の象徴になる」


「だから――

 一番疑われる」



ミナの胸に、言葉が落ちる。


(……制度って……

 人を守る前に……

 人を疑わせるんだ……)



先生は、最後に言った。


「だからね」


「“数”だけじゃ足りない」



「数を扱う“仕組み”が必要になる」



その言葉を聞いた瞬間。


遠くで、鐘が鳴った。



司祭は、まだ知らない。


街が今、“制度を必要とする段階”に入ったことを。


─────

誤字脱字はお許しください。

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