表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/105

第82話 汚れは数字になる

82話です。

朝。


通りの空気が、

昨日よりわずかに軽かった。


誰かがそう口にすることはない。

だが、

鼻をしかめる回数が減っている。


それだけで、

違いは確かだった。



井戸のそばで、

一人の女が立ち止まっていた。


「……あれ?」


水桶を覗き込み、

首を傾げる。


「今日は……

 あんまり濁ってない……?」



その様子を、

先生は少し離れた場所から見ていた。


何も言わない。


だが、

足元にあった小石を拾い、

地面に並べる。


三つ。



ミナが気づく。


「……先生?」


先生は、井戸を指した。


「昨日、

 お腹を壊した子は、

 何人だった?」


ミナは一瞬考える。


「……四人……だったと思う」


先生は、

小石を四つ並べた。



次に、通りを指す。


「今日は?」


ミナは、

周囲を見回す。


母親たち。

子どもたち。


「……今のところ……

 二人……?」


先生は、

小石を二つに減らす。



誰かが、

その動きに気づいた。


「……減ってる?」



先生は、

初めて皆の方を見た。


「これは、

 “気のせい”じゃない」


ざわり、と空気が揺れる。



「匂いが減った」

「気分がいい」

「なんとなく楽」


それらは、

嘘ではない。


だが――

確かめられない。



先生は、

小石を指差した。


「でも、

 数は、嘘をつかない」



沈黙。


だが、

昨日までの沈黙とは違う。


“聞いている沈黙”。



先生は続ける。


「昨日、

 掃除をした通りは、

 何本あった?」


誰かが答える。


「……三本……?」


先生は、

線を三つ引く。



「その三本の通りで、

 今日は何人が休んでいる?」


しばしの沈黙。


一人が言う。


「……一人……」


別の声。


「……うちの子は来てる……」



先生は頷く。


「じゃあ、

 掃除していない通りは?」


空気が、少し重くなる。


「……三人……」

「四人……」



先生は、

何も評価しない。


ただ、

地面に並んだ石と線を、

皆に見せた。



「これは、

 “答え”じゃない」


「でも、

 “考える材料”にはなる」



ミナは、

喉の奥がひりつくのを感じた。


(……これ……

 責めてない……

 でも……

 目を逸らせない……)



先生は、

声を低くして言った。


「掃除をしろ、とは言わない」


ざわつき。


「でも、

 “何が起きたか”は、

 一緒に見よう」



子どもが、

ぽつりと言う。


「……じゃあ……

 明日も……数える?」


先生は、

少しだけ笑った。


「数えるかどうかは、

 君たちが決める」



その言葉に、

誰かが小さく息を吐いた。



昼。


通りの端で、

自然と声が交わされ始めた。


「今日は……

 うち、平気だった」


「昨日、

 あっち掃除してたよな……」



誰も、

“正しい”とは言わない。


だが、

同じ話題が、

何度も繰り返される。



リオが、

先生の横で言った。


「……これ……

 誰も命令してねぇのに……」


先生は、

通りを見たまま答える。


「数字は、

 命令より静かだからね」



夕方。


小石は、

一つの布の上にまとめられていた。


誰が集めたわけでもない。


ただ、

邪魔にならない場所に、

置かれている。



ミナは、それを見て思った。


(……数が……

 “自分たちのもの”になってる……)



夜。


鐘が鳴る。


その音を聞きながら、

街の誰かが、

こう呟いた。


「……明日……

 うちの通りも……」


誰に向けた言葉でもない。


だが――

それで十分だった。


街は今、

汚れを“罰”としてではなく、

“変化として数える”ことを覚え始めている。


─────────────

誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ