表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/108

第78話 なぜ腹を壊す子が出るのか

78話です。

朝、倉庫に集まった顔ぶれの中に、

昨日はいなかった子どもが混じっていた。


痩せて、顔色が悪い。


ミナはすぐに気づいた。


(……あの子……

 歩くの、つらそう……)


先生は何も言わず、

その子が腰を下ろすまで待った。



しばらくして、先生が口を開く。


「今日は、水の話をする」


井戸の方角へ、視線を向ける。


「飲み水だ」


ざわり、と空気が揺れた。


水は、この街の“命”だ。

それを疑うことは、

これまで誰もしなかった。



先生は地面に、

昨日より少し大きな円を描いた。


「この街で、

 昨日、お腹を壊した人は何人?」


誰も答えない。


「分からないなら、

 “分からない”でいい」


そう言って、

先生は小石を一つ置いた。


「これは、一人」


そしてもう一つ。


「二人」


さらにもう一つ。


「三人」


ミナは、はっとする。


(……数えるって……

 こういうこと……?)



先生は続ける。


「じゃあ質問だ」


「昨日、水を飲んだ人は何人?」


今度は、

小さな笑いが起きた。


「全員だろ」

「飲まないと死ぬ」


先生は頷く。


「そう。

 水は“全員に共通している”」



次に、

別の円を描く。


「昨日、雨は降った?」


「降った」

「夕方に」


「強かった?」

「一気に来た」


先生は、

その円の端に小さな線を引く。


「雨が降ると、

 何が動く?」


沈黙。


リオが口を開く。


「……泥」

「ゴミ」


先生は何も言わず、

その言葉の横に印をつけた。



「じゃあ」


先生は、静かに言う。


「雨のあと、

 どこの水を飲んだ?」


視線が、井戸へ集まる。


だが、先生は首を振った。


「“井戸”じゃない」


「“どの井戸”だ」


空気が変わった。



この街には、

小さな井戸がいくつもある。


古いもの。

新しいもの。

修理されたもの。

放置されたもの。


先生は、

地面に点をいくつも打つ。


「ここ」

「ここ」

「ここ」


「全部、水だ。

 でも――

 同じ水じゃない」



ミナの胸がざわつく。


(……水って……

 同じだと思ってた……)



先生は、

子どもたちを見渡した。


「昨日、お腹を壊した人」


「その人たちは、

 どの井戸を使っていたか」


誰も答えられない。


「だから、

 今日は“決めない”」


先生は言う。


「原因は、まだ分からない」



その言葉に、

安堵の空気が流れた。


決めつけられない。

責められない。


それだけで、

胸が軽くなる人がいた。



先生は続ける。


「でも――

 “調べる”ことはできる」


「今日は、

 井戸の水を“比べる”」


ミナが目を丸くする。


「……比べる?」



先生は、

木の器をいくつか並べた。


「同じ量の水を汲む」


「同じ場所に置く」


「同じ時間、待つ」


誰かが聞く。


「……それで?」


先生は答える。


「“違い”が出る」



夕方。


器の底に、

薄い沈殿が見えた。


ある水には、ない。

ある水には、ある。


誰かが呟いた。


「……色、違うな」



先生は、

そこで初めて強く言った。


「いいか」


「水が悪いんじゃない」


「人が悪いんでもない」


「“流れ”が、混ざってるだけだ」



ミナは、

雨のあと流れていたゴミを思い出す。


(……あれ……

 水に……入ってた……?)



先生は、

地面に一本の線を引く。



「上から下へ、

 水は流れる」


「人も、

 ゴミも、

 同じだ」



誰も声を出さなかった。


だが、

誰も目を逸らさなかった。



先生は最後に言った。


「明日は、

 “流れを変える”話をする」


「水を止めるんじゃない」


「通り道を、

 少し変えるだけだ」


井戸の方から、

桶の音が聞こえた。


街は、

“見えないもの”を

見始めていた。


─────────

誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ