第7話 昔話を分解する授業
7話です
12月11日改稿
五日目の授業。
僕はあらかじめもらってきた紙切れを取り出した。
「今日は“昔話の授業”だ」
「先生、その紙、字が書いてある?」
「教会でもらった小冊子の一部。
“良い子のための物語”ってタイトルだ」
ミナが顔をしかめる。
「それ……たまに読み聞かせされるやつ。
“静かな子のマリー”とか」
「そう、それだ」
僕は簡単に要約して聞かせる。
――静かなマリーという少女がいました。
マリーはいつも口を閉ざし、おとなしく、大人の言うことに逆らいませんでした。
騒ぐ子は転んで怪我をし、パンを落としましたが、
静かなマリーはいつも守られ、祝福されました――
「……」
子どもたちは、あからさまに退屈そうだ。
耳にたこができるほど聞かされているのだろう。
「じゃあ、ここからが授業」
僕は板を三つに区切る。
1)この話で褒められていること
2)この話で怒られていること
3)この話を読んだ子どもにしてほしいこと
「この三つを、一緒に考えてみよう」
最初に手を上げたのはミナだった。
「1)は、“静かで、逆らわないこと”」
「いいね。じゃあ2)は?」
リオが言う。
「大人の言うこと聞かないで騒ぐ子」
「そうだね。
3)は?」
「……静かにしろってこと?」
苦笑混じりの声が上がる。
僕はそれらを書き出しながらまとめる。
「じゃあ、ここに“もしも”を足してみよう」
「もしも?」
「“静かなマリー”が、
“おかしいと思ったことは口にする子”だったら、
この話はどう変わりそう?」
子どもたちがざわつく。
「怒られる」「罰当たるだろ」
「でも現実に、“全員が黙ってたらどうなるか”も考えてほしい」
僕は板に簡単な別の話を書く。
――ある街で、偉い人たちが
「明日から誰も働くな」と言いました。
みんな静かに従い、誰も問いませんでした。
やがて街は――
「どうなると思う?」
「働かなかったら、飯がなくなる」
「スラム全部が死ぬ」
即答だった。
「そう。
誰かが“おかしくない?”って言わないと、
変なこともそのまま通ってしまう」
僕はゆっくりと言う。
「昔話っていうのは、
“大人がこうなってほしい子どもの姿”を、
物語にして覚えやすくしたものなんだ」
「……」
「それ自体が悪いわけじゃない。
でも、“どういう子どもにしたいのか”は、
作った側の都合で決まる」
ミナが小さく手を上げる。
「教会の人は、“静かな子”が好きなの?」
「そのほうが、扱いやすいからね」
僕ははっきり言った。
「だから、君たちには
“扱われる側のままでいるかどうか”を、
自分で決めてほしい」
リオが鼻で笑う。
「決められんのかよ、そんなの」
「今すぐ全部は無理でも、
“決めようとするかどうか”は選べる」
「またそれかよ」
「大事なことだから、何度でも言う」
僕は板の端にまとめを書く。
物語は「誰の都合で作られているか」を疑え
「教会の話も、僕の話も、だよ」
「先生のも?」
ミナが目を丸くする。
「もちろん。
先生も間違える。完璧じゃない」
僕は笑った。
「だから、“なんで先生はそう言うの?”って考えるのも、
君たちの自由だ」
こうして少しずつ、
教会が染み込ませた“静けさの物語”に、
細かなひびを入れていく。
暴力で殴られる前に、
問いで自分を守れるようにするために。
誤字脱字はお許しください。




