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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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第67話 沈黙の教室

67話です

塔から戻ったあと、先生は歩き続けた。


目的地を告げることもなく、

ただ静かに、街の中心へ向かっていく。


ミナとリオ、

そして気づけば、街の人々が後に続いていた。


誰も話さない。


けれどその沈黙は、

昨日までのそれとは明らかに違っていた。


考えている沈黙。

待っている沈黙。


――言葉を浴びる準備をした沈黙。


ミナは胸の奥が落ち着かない。


(先生……

 街が……

 “何かを聞く側”になってる……)



広場に着くと、先生は立ち止まり、

ゆっくりと手を上げた。


それだけで、

人の流れが止まった。


声を出さずとも、

沈黙が一斉に揃う。


街の視線が、

一点に集まっていく。


ミナは、その光景に小さく息を呑んだ。


(……先生

 今の先生、

 誰かの上に立ってるみたい……)


だが先生は、

威圧するような立ち方はしなかった。


深く息を吸い、

落ち着いた声で切り出す。


「今日は、

 答えの話はしない」


ざわり、と空気が揺れる。


「代わりに、

 “仕組み”の話をする」


仕組み。


聞き慣れない言葉に、

広場が静かにざわつく。


「仕組みっていうのはね」


先生は地面に、一本の線を引いた。


「人が、

 何度も同じ行動を選んでしまう理由のことだ」


ミナの胸が小さく鳴る。


(……先生がよく言うやつ……)


リオも無意識に、

線へ視線を落としていた。


「たとえば――」


先生は続ける。


「人が声を上げないのは、

 臆病だからじゃない」


一拍。


「声を上げないほうが、

 “安全だと教えられてきた”からだ」


広場の空気が、わずかに張る。


否定も、反論も起きない。


「それは、

 正しいかどうかの問題じゃない」


先生は線をなぞる。


「“そう学んできた”というだけの話だ」


沈黙が、

言葉を吸い込み、

そして静かに広げていく。


街が、

一つの教室のように整っていく。



先生は、もう一本線を引いた。


二本の線が、

並んで地面に残る。


「人が変わるときは、

 一度に変わらない」


指を折る。


「まず、

 “気づく”」


折る。


「次に、

 “試す”」


折る。


「最後に、

 “続ける”」


ミナの喉が、きゅっと締まった。


(……難しい話なのに

 分かる……)


先生は静かに続ける。


「街は長い間、

 沈黙に慣れすぎていた」


人々が息を呑む。


「だから、

 “気づく力”が鈍っていた」


一拍。


「でも――

 昨日から、何かが変わり始めている」


その言葉に、

誰かがわずかに姿勢を正した。


「今日はね」


先生は線を消さないまま、言った。


「次の段階に“進む話”はしない」


ざわめき。


「ただ、

 “準備が整っているかどうか”を

 街に聞きに来ただけだ」


ミナは気づく。


(……先生

 答えを渡してない……

 置いてる……)



そのとき、

広場の端で、黒い外套が揺れた。


教団の強硬派。


視線を伏せ、

だが確かにこちらを見ている。


空気が、きゅっと締まる。


ミナの背中に冷たいものが走った。


(……見られてる)


だが先生は、

そちらを見ない。


見ないまま、言った。


「今日は、

 ここまででいい」


ざわめきが起きる。


「え……?」

「もう……?」

「何もしないのか……?」


先生は振り返らず、

静かに言葉を落とす。


「今日、何も言わなかったこと」


一拍。


「それ自体が、

 次の学びになる」


それだけ告げて、

歩き出した。


ミナとリオが、後を追う。


背後では、

街の人々がまだ立ち尽くしていた。


声はない。


だが、

誰一人、考えるのをやめていない。


沈黙が、

重く、深く、

街に根を張り始めていた。


そしてその沈黙を、

最も嫌う存在だけが――

遠くで、確かに息を詰めていた。


─────────────────

誤字脱字はお許しください。

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