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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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66/71

第66話 揺れ戻り

66話です

記録室を出た瞬間、

塔の階段に満ちていた沈黙が、

まったく別の意味を帯びていることに

ミナは気づいた。


(……空気が……軽くない……

 でも、重さの向きが違う……)


行きは“塔の圧力”が沈黙の源だった。

だが今は――

“街の沈黙”が塔に押し返している。


塔が弱っている。

街が強くなっている。


その境目に先生が立っていた。


リオが小声で言った。


「……先生、

 なんか……雰囲気が変わったな」


「どう変わったの?」


「前は“街を知りたい先生”だったのに……

 今は……“街を動かす方法を知ってる顔”をしてる」


ミナは喉がつまる。


(その通り……

 先生の歩き方が……

 “迷いのない人の歩き方”になってる……)


先生は淡々と階段を降り続けた。


しかしその背中は、

どこか“重さ”をまとっている。


記録を読んだことで、

何かを背負った――

そんな背中。



塔を出ると、

広場にいた市民たちが一斉に振り向いた。


声はあがらない。


でも沈黙が変わっていた。


“待つ沈黙”。


“期待の沈黙”。


“次の言葉を求める沈黙”。


ミナはその圧に胸が苦しくなる。


(みんな……

 先生の……言葉を……待ってる……

 怖いくらい……)


リオは息を呑む。


「先生……

 街が……先生を“判断する側”じゃなくて……

 “頼る側”になってるぞ……」


先生は広場を見渡した。


一人ひとりの表情は暗い。

恐れもある。

迷いもある。


だが、目だけは同じ方向を向いている。


先生へ。


ミナは気づいた。


(みんな……

 先生が“記録を読んだ”ことを……

 知らないのに……

 分かってるみたいに見てる……)


塔の光が弱まり、

沈黙の波が街を包む。


その中心に先生が立つと、

沈黙がわずかに震えた。


ミナは鳥肌が立つ。


(街が……

 先生の息遣いだけで……動いてる……?)



塔の扉が急に開き、

上層司祭が駆け寄ってきた。


昨日、先生に

「あなたが選ばれた」と告げた男だ。


だが今日は――

その目に焦りと恐怖があった。


「先生……!!

 記録室が……“開きっぱなし”になっています!

 強硬派は扉を閉じられず……

 中に近づくこともできない!」


先生は静かに答える。


「扉はもう“選んだ”からね」


司祭は青ざめる。


「選んだ……

 ということは……

 あなたを……?」


先生は肯定も否定もせずに沈黙した。


それだけで、

司祭は震えた。


「……強硬派が……

 あなたを“排除対象”と見なしました……!」


ミナは凍りつく。


リオが舌打ちする。


「めんどくせぇ……

 また来やがるのか強硬派……」


司祭は震える声を続けた。


「彼らは……

 “記録を読んだ者は必ず街を変える”と

 信じ切っているのです……

 だから……

 あなたを恐れている……!」


先生はわずかに眉を動かした。


「恐れているのは……

 “変わる街”の方じゃない?」


司祭が息を呑む。


「……街……?」


「記録を読んだ僕じゃない。

 “僕が街に伝えようとしている言葉”を恐れている」


広場がざわついた。


ミナは胸が締め付けられる。


(先生……

 いま……

 はっきり言った……

 “街を変える言葉を伝える”って……)


先生はゆっくり続けた。


「街に沈黙があるのは、

 “声を奪われたから”じゃない。

 “声をあげられない仕組みの中に閉じ込められていたから”だ」


司祭は揺れる声で言った。


「先生……

 あなたは……

 記録の本質を……理解しすぎている……」


先生は広場を見渡す。


沈黙の波が、

先生の視線にあわせてゆっくり揺れた。


ミナは震える。


(街が……

 先生の“視線”に……反応してる……)


これはもう、

ただの先生と街の関係じゃない。


先生は、

街の沈黙を“動かせる人”になってしまった。



司祭が警告する。


「先生……

 本当にお気をつけください……

 強硬派は……

 あなたを“記録よりも危険”と判断している……」


ミナの胸が凍る。


(先生……

 本当に……危ない……)


だが先生は微笑んだ。


その微笑みは、

記録室で見せた“理解の光”とは違う。


もっと静かで、

もっと深くて、

“どこか冷たい影のある微笑み”。


「心配はいらないよ。

 もう……街は動き始めている」


ミナはその言葉に背筋を震わせた。


(先生……

 街を……

 “動かす存在”になってしまった……)


沈黙が深く波打つ。


塔は揺れ、

街はざわつき、

先生の影は、

またひとつ深くなった。


そして――

物語はもう後戻りできなくなる。


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誤字脱字はお許しください。

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