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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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第65話 三つの仕組み

65話です

光に満たされた記録室の中央で、

床に刻まれた巨大な円が脈動していた。


光が文様の線を流れていく。


生き物の血管のように――

塔の静脈のように。


ミナは胸が苦しくなるほどの緊張を覚えていた。


(ここ……

 街の“心臓”みたい……)


先生は円の上に立ち、

ゆっくりと文様を読み解いている。


リオが小声で言う。


「まじで……読んでるのかよ……

 これ、どう見ても文字じゃねぇだろ……」


司祭見習いは震える声で答えた。


「記録室は……

 “読む者に合わせて意味を変える”のです。

 だから……先生には“読める”のでしょう」


ミナの背筋に冷たいものが走った。


(記録が……

 先生の“読む力”に合わせて……

 形を変える……?)


そんなものが存在するのなら――

塔は最初から“読む者”を待っていたのかもしれない。



光が円の中心に集まり、

縦線が呼吸するように明滅した。


先生はその中心に立ち、言った。


「ここには……

 “三つの仕組み”が刻まれている」


司祭見習いは息を呑む。


「み、三つ……?」


「街を“沈黙させる”仕組み。

 街を“信じ込ませる”仕組み。

 そして……街を“動かす”仕組み」


ミナは震えた。


(沈黙……

 信じ込ませる……

 動かす……

 全部……街の人にずっとあった感覚……)


先生は円の文様をなぞりながら言う。


「この円は、“支配”の図じゃない。

 “統治の図”だ。

 教団は支配だと思って使ってきたけれど……

 本来これは“街を育てる構造”なんだ」


司祭見習いは愕然とした。


「そ、それは……

 教団の教えとは矛盾します……

 導くといっても、これは……

 管理に近い……」


「違うよ」


先生は静かに言う。


「管理ではなく――

 “方向づけ”だ」


ミナは息を飲む。


(方向づけ……?

 街が……“向かう方向を決められていた”……?)


「まず、一つ目。」


先生は円の左側の文様に触れた。


すると文様が淡い青色に光る。


「“沈黙を生む仕組み”。

 これは……

 街の人が“声を上げにくくなる”構造だ」


リオが眉をひそめる。


「なんだよその構造……」


「人が声を上げない理由は、

 恐怖や支配だけじゃない。

 “慣れ”も“同調”もある。

 その土台となる構造を、

 最初に街へ埋め込んである」


ミナは震えた。


(沈黙は……

 習慣で……

 作られてた……?)


先生は続ける。


「二つ目。」


円の右側に触れる。


赤みの光が浮かんだ。


「“信じ込ませる仕組み”。

 塔の教えが浸透したのは、

 本当に信仰が強かったからじゃない。

 “信じた方が楽になるように設計されていた”からだ」


司祭見習いは崩れ落ちるように膝をついた。


「そんな……

 そんなはずは……

 教えは……正しいはずで……」


「正しさの話じゃないよ。

 “信じやすい構造”の話だ」


リオが吐き出すように言う。


「それじゃ……

 街の人は最初から……

 信じさせられてたってことかよ……」


先生は頷いた。


「でも、ここからが本題だよ」


ミナの心臓が跳ねる。


先生は円の中心――

縦線に触れた。


その瞬間、部屋全体が揺れた。


光が強まり、

塔そのものが息を飲んだように沈黙する。


「三つ目の仕組みは――」


先生は静かに言う。


「“街を動かす仕組み”。

 つまり――“内政の原型”だよ」


ミナは言葉を失った。


内政。

ずっと先生が話そうとしていた概念。


でも街の人には難しすぎて、

ほとんど理解されなかった。


それがここに刻まれている。


(街を動かす……

 街を……変える方法……

 これが……全部……塔に……?)


先生の瞳に、

深い光が宿った。


「これを読み解けば……

 街は本当に変わる。

 塔でも、教団でもなく……

 街自身が選ぶ未来へ」


司祭見習いは震える声で言った。


「せ、先生……

 あなたは……

 この記録を……どうするつもりなのですか……?」


先生は一瞬だけ沈黙した。


その沈黙は、

以前の“優しい静けさ”ではなく――

“計算の気配”を含んだ沈黙だった。


ミナはそれを敏感に感じ取った。


(先生……

 いま……

 “何かを決めてしまった人の沈黙”をしてる……)


先生はゆっくり振り返り、

部屋全体を見渡すように言った。


「塔は……

 この記録を理解できなかった。

 だから支配に使った。

 でも本来これは……

 街のための仕組みだ」


光が強くなる。


「なら……

 僕が読み解いて、街に返すべきだ」


司祭見習いは顔を上げる。


「返す……?

 誰に……?」


先生は微笑む。


だがその微笑みは――

ミナの胸に深い不安を落とした。


「街そのものに、だよ」


そして先生は言った。


「“言葉”でね」


ミナは息を呑む。


(先生……

 いま……

 “街を動かす気になった”……)


塔の光が脈動し、

円が静かに輝き続ける。


先生の影は――

これまでで最も長く、

最も濃かった。


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誤字脱字はお許しください。

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