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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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64/71

第64話 記録の間

64話です

扉が開くときの音は、

金属の軋みや石の震動ではなかった。


もっと静かで、

もっと柔らかく、

“息を吐くような音”だった。


ミナは思わず後ずさる。


(扉が……生きてるみたい……)


リオも低く唸る。


「なんだよ……この空気……

 急に温度が変わったみてぇだ……」


先生は一歩前に出ると、

静かに扉の奥を覗き込んだ。


記録室は暗闇ではなく、

どこからともなく白い光が満ちている。


それは灯りではなく――

“何かを見せるための光”。


司祭見習いは震える声で言った。


「ここは……

 塔が建てられた当初から存在する……

 “はじまりの部屋”です」


ミナは息を飲んだ。


(はじまり……?

 街の……塔の……?)


先生は静かに歩き始めた。


リオとミナも後に続く。


扉の先の室内は広く、

まるで洞窟のような形状をしているのに、

光だけは均一に満ちている。


音がしない。

風もない。

呼吸の音すら吸い込まれるような静けさ。


その静けさの中心に――

巨大な「円」があった。


床に刻まれた円形の文様。

石なのに、文字が生きているように見える。


ミナは息を呑む。


(これが……

 記録……?)


司祭見習いが震えながら説明する。


「これは……

 “書かれた記録”ではありません。

 “仕組みそのもの”が刻まれています」


リオは眉をひそめた。


「文字じゃねぇのかよ」


「はい。

 これは……“理念”です」


ミナの胸がざわつく。


(理念……?

 どういうこと……?)


先生は円の文様をじっと見つめた。


その目は、

過去に何度も見た“理解の光”ではなく――

もっと深い、

“読み解く者の目”だった。


ミナは気づく。


(先生……

 この部屋を初めて見るはずなのに……

 まるで“分かってる人の目”をしてる……)


司祭見習いが恐る恐る近づき、言う。


「この文様は……

 “街をどう扱うか”が書かれています」


ミナの心臓が跳ねた。


「扱う……?」


「はい。

 街を“支配”すると書いてはありません。

 しかし“導く”“黙らせる”“従わせる”という意図が

 流れとして刻まれています」


ミナは背筋が凍った。


(街は……

 最初から……

 従わされるように作られてた……?)


先生は円を歩きながら言った。


「……これは“政策”だ」


司祭見習いは目を見開いた。


「その言葉を……

 あなたは知っているのですか……?」


先生は答えなかった。


しかし沈黙の質だけで、

“知っている”と示していた。


ミナは胸が痛くなった。


(先生……

 どうして“政策”なんて……

 街にはない言葉を……

 知ってるの……?)



円の中心には、

一本の縦線が刻まれていた。


まるで塔そのもののような線。


先生はその線に手を伸ばし、

軽く触れた。


瞬間――

部屋全体に微かな震動が走った。


司祭見習いが叫ぶ。


「反応した……!

 記録が……

 “先生を読んでいる”!!」


ミナは息を呑む。


(読んでる……?

 記録が……先生を……?)


先生の目は揺れない。


むしろ、理解を深めていくように

静かに円を指でなぞっている。


「これは……

 “沈黙を生む仕組み”だね」


司祭見習いは震えた。


「そ、そこまで読み取れるのですか……?」


「街の沈黙は生まれたものではなく……

 “与えられたもの”だ」


ミナの心臓が止まりかける。


(沈黙……

 街のみんなが……

 本当は……

 自分たちの意思で黙ってたんじゃなくて……)


先生は静かに続けた。


「でも今、その沈黙は……

 街のものに“戻ってきている”」


リオが小さく言う。


「支配のための沈黙が、

 街の意思になった……ってことか?」


先生は頷いた。


「そう。

 そしてその“変化”を、

 塔は制御できなくなった」


司祭見習いは震えながら言った。


「だから……記録室が開いた……

 塔が……“先生に教えようとしている”……?」


先生は縦線に触れたまま、

静かに目を閉じた。


部屋がさらに低く、

深くうなり始める。


塔が――

先生の呼吸に合わせて動いているかのようだった。


ミナは震えた。


(先生……

 本当に……

 塔と“話してるみたい”……)



円の外側にある文様が、

ふっと光を帯び始めた。


司祭見習いが叫ぶ。


「記録が開示を始めています!!

 内部の仕組みが……解放される!!」


ミナは先生の横顔を見る。


その顔は、

優しさでも、怒りでもない。


“ただ理解しようとする目”。


だけど――

そこにはほんの少しだけ、

危うい光が宿っていた。


(先生……

 あなた……

 なにを読もうとしてるの……?)


円の文様が一つ、また一つと光り、

部屋全体が呼吸するように波打つ。


最後に縦線が光を放った。


先生は、深く息を吸い――

静かに言った。


「ここに刻まれているのは……

 “街を黙らせる方法”じゃない」


ミナは息を止める。


「“街を動かすための仕組み”だ」


司祭見習いは震える。


「動かす……?

 街を……?」


先生は言った。


「これは――

 “内政の基盤”だよ」


ミナは愕然とした。


(内政……

 先生が……ずっと教えようとしてた……

 あの“街を変える方法”……?)


先生はゆっくり振り返り、

ミナとリオを見た。


その目は、

もうただの先生ではなかった。


「街がどう作られ、

 どう動かされてきたか。

 それが分かれば――」


光が縦線から流れ出す。


先生の影が、

床に長く伸びる。


「街を変える方法が……

 すべて見えてくる」


ミナは震えた。


(先生……

 あなたは……

 この記録を……

 武器にするつもりなんじゃ……?)


塔は沈黙し、

記録は光り、

先生の影は深くなった。


ここから先は――

もう後戻りできない。


────────────────────

誤字脱字はお許しください。

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