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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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第63話 塔の静脈

63話です

塔へ向かう道は、

街の沈黙によって自然に開いていた。


誰かが道を作ったわけではない。

声も指示もない。


ただ、

“街が先生を通した”

その事実だけがあった。


ミナはその光景に圧倒されていた。


(先生は……

 もう街に“道を作られている”……

 選ばれてるみたい……)


リオが小さく言う。


「静かすぎて……逆に怖ぇな」


先生は歩き続ける。

塔はすぐそこだ。


以前はただの象徴だった塔が、

今は“心臓の鼓動”のように見える。


近づくほどに、

石壁の奥から何かが脈動しているような気配がある。



塔の門に着くと、

数人の司祭見習いが慌てて頭を下げた。


その表情には

恐怖でも敵意でもなく――

“判断不能の戸惑い”

だけが浮かんでいた。


「せ、先生……

 本当に……お越しになるとは……」


先生は静かに言った。


「案内してほしい」


司祭見習いは震えながらうなずく。


塔の内部は、

外とは違う静けさに満ちていた。


外の沈黙は“意思ある沈黙”。

内の沈黙は“崩れかけた沈黙”。


不安の沈黙だった。


ミナは自然と先生のそばに寄った。


(ここ……昔は怖かったのに……

 今日は……もっと怖い……)


階段を昇るたびに、

塔の“脈拍”が強くなるような感覚があった。


リオが低く言う。


「なんだこれ……

 塔の奥から……音がするな」


ミナも聞こえた。


石の隙間を通る風音のようだが、

なぜか規則的。


まるで――

塔そのものが呼吸しているようだった。


司祭見習いは震えながら言う。


「……記録室は……

 塔の“静脈”の先にあります」


ミナはその言葉の意味が分からず聞き返した。


「静脈……?」


司祭見習いは壁に手を当てる。


「塔の中には……

 教団が“言葉”を通した道があります。

 人が動かされ、

 思想が広がる“通路”です」


ミナは凍りつく。


(塔は……

 “喋らない”のに……

 言葉の通る道……?)


先生は淡々と言う。


「“支配の仕組み”だろうね」


司祭見習いはうなずいた。


「はい……

 塔は……街を動かす“中心脳”です。

 その脳が……いま……

 壊れかけている」


塔の脈動が一段強まった。


ミナの胸が締め付けられる。


(塔が……

 生き物みたいに動いてる……)



最上階へ向かう階段は、

他の階と違っていた。


段差が浅く、

壁には無数の小さな穴が空いている。


風が抜ける音ではない。


これは――

“誰かの息遣い”を模した構造。


リオが吐き捨てる。


「気持ち悪い造りしてんな……」


司祭見習いは震える声で言う。


「ここは……

 心を試すための階です」


ミナは思わず立ち止まった。


(心を……試す……?

 塔は……人の“心の反応”を見てるの……?)


先生は振り返り、二人に言う。


「大丈夫。

 ここはただ、

 “沈黙に耐えられるかどうか”を見ているだけだよ」


ミナの胸に雷が落ちた。


(沈黙……

 ここでも……?

 先生は……

 最初からこの仕組みを知ってるみたい……)


ミナは震える指先で先生の袖を掴んだ。


「先生……

 もう……戻れないよ……?」


先生は一瞬だけ視線を落とし――

微笑んだ。


しかしその微笑みは、

これまでの優しい笑顔とは違った。


決意に似ていて、

どこか危うかった。


「戻る必要はないよ」


ミナの心臓が痛む。


(先生……

 本当に……行くんだ……)



ついに、

記録室の扉の前に到達した。


扉は意外にも小さく、

人ひとりが入れるほどの幅しかない。


だが、

その前に立つだけで空気が変わる。


圧迫感。

静寂。

異様な重み。


リオが息を呑む。


「……なんだよ……この感じ……

 誰かに見られてるみてぇだ……」


ミナは震えた。


(扉が……

 私たちを見てる……?)


その瞬間、

扉の表面がわずかに波打った。


まるで呼吸をするように。


司祭見習いが叫ぶ。


「記録室が……

 “誰かを判別し始めている”!!」


ミナは息を呑んだ。


(扉が……

 先生たちを見て……

 判断してる……?)


先生は一歩、扉へ近づいた。


扉は揺れ、

塔全体の脈動が強まり――

沈黙がさらに濃くなる。


“選んでいる沈黙”。


ミナの膝が震えた。


(やめて……

 先生が拒まれたら……

 どうなるの……?)


そして先生は、

ついに扉に手を伸ばした。


その瞬間――

扉が震えた。


塔全体が震えた。


ミナの胸が張り裂けそうになる。


先生の指先が扉に触れ――

扉の模様が、静かに光り始めた。


司祭見習いが絶叫する。


「開く……!!

 扉が……先生を“受け入れている”!!」


塔が、

街が、

沈黙が、

揺れた。


そしてミナは確信する。


(記録が選んだのは……

 先生……

 やっぱり……先生なんだ……)


扉が、ゆっくりと動き始めた。


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