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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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第60話 記録の影

60話です

広場の中心で、高位司祭が深く頭を下げたまま動かない。

街の沈黙が、彼の背中に重く落ちている。


僕はその姿を見つめていた。


(塔が……“隠す側”から“告げる側”へ揺れている)


どんな支配も、

真実を隠せなくなった瞬間から崩れ始める。


そして、いままさにその瞬間だった。


ミナは、司祭の姿に戸惑いを隠せなかった。


「……なんで……

 塔の人が……街に向かって頭を下げるの……?」


リオも低く唸る。


「教団の立場からしたら…これ、ありえねぇだろ」


先生は言う。


「塔の中で“疑いを持つ者”が増えた。

 疑いは、沈黙よりも早く広がる」


司祭が震える声で語り始めた。


「……塔の記録室には……

 この街が作られた理由と……

 民たちが“従うよう仕組まれた経緯”が記されている」


街の沈黙が一段深くなる。


ミナの胸が強く打つ。


(従うよう……仕組まれた……?)


司祭は続けた。


「そこには……

 “教え”ではなく……

 “政策”と呼ばれるものが記されている」


政策。


街には存在しない言葉。


でも、なぜか

先生の目だけがその言葉を知っている目だった。


リオが低く言う。


「先生……

 “政策”って……なんだ?」


先生は少しだけ目を伏せた。


この言葉を街で使うにはまだ早すぎる。

でも――避けられない。


「誰かが誰かを動かすために作った“仕組み”のことだよ」


ミナは息を呑む。


(仕組み……

 街全体を……動かす仕組み……?)


司祭は、街に向かってさらに深く頭を下げた。


「我らは……

 その記録を……

 街に見せるべきだと考えた」


周囲にいた市民たちの息が揃う。


声は出ない。

でも沈黙が、司祭の言葉を飲み込んでいく。


街の沈黙が、

司祭の背中を押すようだった。


司祭は苦しげに続けた。


「……しかし……

 塔の“強硬派”は、

 記録が外に出ることを禁じた」


リオは舌打ちする。


「やっぱ抵抗するヤツがいんだな……」


「当然だよ」


先生は静かに言った。


「記録を見られたら――

 街は二度と“従わなくなる”から」


ミナは震えた。


(街が……従わなくなる……

 そんな未来が……本当に来るの……?)



そのとき、広場の端から別の司祭見習いが走ってきた。


「司祭さま!!

 強硬派が記録室の扉を閉ざしました!!

 鍵を破壊して中に立てこもっています!!」


広場にざわめきが走る。


声は出ない。

しかし空気が乱れた。


司祭は顔をゆがめた。


「……ついに……

 記録そのものを“守る”のではなく、

 “隠すために壊す”行動に出たか……」


ミナが不安そうに先生を見る。


「せんせい……

 記録を……壊されちゃう……?」


先生は首を横に振った。


「壊せないよ」


「どうして……?」


先生は広場にいる街の人々を見渡す。


「だって――

 “記録より強いもの”がすでに街に生まれているから」


ミナは理解できずに瞬きをした。


(記録より強い……?

 そんなもの……どこに……?)


先生は胸に手を当てた。


「“疑う心”だよ。

 一度それが生まれれば、

 どんな記録でも支配の道具にならない」


リオが小さく笑う。


「……なるほどな。

 もう街は従わねぇってことか」


司祭は先生の言葉に、

驚愕と恐怖を混ぜたような顔を向ける。


「……あなたは……

 まるで……この流れを知っていたように……」


先生は沈黙した。


その沈黙が――

司祭の背筋を凍らせた。


ミナは、その沈黙をはっきり感じとった。


(先生……

 今……“わざと黙った”……

 司祭に“答えを想像させる”ために……)


先生の沈黙は、

もはや無自覚なものではなかった。


意図のある沈黙。

操作する沈黙。


ミナは胸がぎゅっと締め付けられる。


(先生……

 あなたは……どこまで知ってるの……?

 どこまで……この街を見てるの……?)



高位司祭は苦しげに頭を下げたまま言った。


「街よ……

 記録室を開く方法は……

 もはや我々にはありません……

 しかし……

 あなた方の沈黙が、

 塔の強硬派を追い詰めています……」


その言葉に、

広場の沈黙がゆっくりと密度を増していく。


街全体の視線が、塔へ向かった。


声はない。

でもその沈黙は、

塔の最上階まで届くほど強かった。


ミナは震えた。


(……本当に……

 沈黙が……塔を動かしてる……)


先生はその沈黙を眺めながら、小さく呟いた。


「ここから先は……

 街が選ぶ番だ」


しかしミナは気づいてしまった。


(でも……

 街の沈黙を“選ばせた”のは……

 先生……あなたなんじゃないの……?)


先生は沈黙の中心に立ち、

沈黙を理解し、

沈黙を操ることができる。


その事実が、

ミナの胸の奥に小さな影を落とした。


影はまだ小さい。

だが確実に形を持っていた。


塔が揺れるたび、

記録に近づくたび、

その影は深くなっていく。


沈黙は街を変え始め、

街は塔を揺らし、

塔は真実を吐き出そうとしていた。


その中心に立つのは――

僕だった。


────────────────────

誤字脱字はお許しください。

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