第6話 パンの値段と、数字の意味
6話目です。
12月11日改稿
「今日は“パンの話”をしようか」
四日目。
僕はいつもの板の前に立って、宣言した。
「パン?」
「食いもんの話なら聞く」
子どもたちの食いつきはいい。
生き延びることに直結している話題だからだ。
「パンってさ、いくらくらいするか知ってる?」
「知らねぇよ。金持ちの食いもんだろ」
リオが肩をすくめる。
「スラムにも、たまに売りに来るだろ。
“不良品”ってやつ」
ミナが言った。
「形が悪いのとか、硬くなったの。
あれは一切れで銅貨一枚」
「そうだね」
僕は板に書く。
硬いパン:銅貨1枚
「じゃあ、上の街で売られてる“焼きたての白パン”は?」
子どもたちはそろって首を傾げた。
「知らねぇって」「買ったことねぇし」
「銀貨二枚だ」
「たっか!!」
素直な反応だ。
「銅貨十枚で銀貨一枚。
銀貨十枚で金貨一枚」
簡単に貨幣の関係を書きながら続ける。
「つまり、“硬いパン二十個分の価値”が、
“白パン一個”ってことになる」
「そんなに違うの!?」「色が白いだけで!?」
子どもたちがざわついた。
「色だけじゃないだろうけどね。
小麦の質、焼き方、店の場所、買う人の財布の厚さ……」
そういうもの全部をまとめた“結果”が、値段になる。
「ここで数字を使って考えてみよう」
僕は板に簡単な式を書く。
白パン1個 = 硬いパン20個分
「銀貨二枚持ってる人が、全部硬いパンに変えたら二十個分の食料になる」
「家族で分けたら二日くらい食えそう」
「そうだね。
でも同じ銀貨二枚を白パンに変えたら、一個しか食べられない」
「……なんかムカついてきた」
小さな声が漏れる。
僕はうなずいた。
「ここで大事なのは、“損か得か”だけじゃない」
板に大きく書く。
誰が決めているのか?
「“なんでこんなに値段が違うのか”。
“どういう人がどっちを買っているのか”。
“同じ街なのに、どうしてこうなっているのか”」
そこまで考えて初めて、数字が意味を持つ。
「数字は、“すごい話”をするための飾りじゃない」
「すごい話?」
「“俺は金貨百枚稼いだ”とか、“税金がいくらだ”とかさ」
子どもたちはなんとなくのイメージでうなずく。
「そうじゃなくて――」
僕はチョークを握り直した。
「“おかしなところ”を見つけるための道具なんだ」
「おかしなところ……」
ミナが繰り返す。
「例えば、“静かな子はいい子”って教会で言いながら、
上の街のうるさい連中が白パン食べてたら、おかしくない?」
「あー……」「確かに」
リオが苦笑する。
「“沈黙は美徳”って言ってる人の声が、一番でかかったりな」
くすくす笑いが起きた。
「そう。“言ってること”と“やってること”の差。
それを測るのにも、数字や文字は役に立つ」
「先生、急にむずかしいこと言い出した」
「むずかしい話はいずれやるから、今はこれだけ覚えて」
僕は板の真ん中に今日のまとめを書く。
数字は「おかしさ」を見つける道具
「今日の授業はここまで。
次は、教会の“昔話”を使って考えてみよう」
「また教会ネタ?」
リオがぼやく。
「だって君たちの頭の中で、一番場所を取ってるのが、
あの教えだから」
それを書き換えるには、まず中身を分解して見せる必要がある。
教会は、歌と説教と沈黙で人を縛る。
ならこちらは、問いと数字で、少しずつほどいていくしかない。
誤字脱字はお許しください。




