表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/83

第59話 記録室の扉

59話です

塔で内部告発が起きた日の午後。

街はざわめきも声もなく、

ただ沈黙の波だけが広がっていた。


ミナは歩くたびに、

街の“空気の重さ”が昨日より増していることを感じていた。


(……沈黙が……街じゅうに染み込んでる……)


商人も、労働者も、老人も、子どもも、

誰も話さない。


でも、沈黙の目線だけは動いていた。


それは「諦めた沈黙」ではなく、

「何かを待つ沈黙」だった。



倉庫に入ると、

子どもたちは昨日よりさらに増えていた。


倉庫は狭いはずなのに、

人数が増えても不思議と“息が揃っている”感じがした。


ミナはその一体感に気づいて背筋を伸ばす。


(……怖い。

 でも……みんな、先生の言葉を待ってるんだ……)


リオが苦笑した。


「先生、倉庫が学校どころか……

 “街の中心”みたいになってきてるな」


「そうだね」


先生は淡々と言う。


だが、ミナは気づいた。


先生の声には、

昨日よりも深い落ち着きがあった。


まるで――

状況を“読んでいる”だけでなく、

“導く側”に立つ覚悟をしているように。


(先生……歩き方が変わった……

 なんで……?)



先生は壁にチョークで文字を書く。


 【うたがい】

 【しること】

 【みえない じばん】


子どもたちは小さく息を呑む。


意味の分からない言葉なのに、

胸の奥にひっかかる。


先生はゆっくりと説明した。


「街が揺れると、

 その下にあった“地盤”が見えてくるんだよ」


ミナは眉を寄せる。


「地盤……?」


「支配がどこから始まって、

 どこへ向かっていたのか。

 街がどう扱われてきたのか。


 それを知ったとき、

 街は初めて“考える街”になる」


リオが腕を組んだ。


「でもよ……

 そんなもん、どこに書いてあんだ?」


先生はチョークを止めずに言う。


「塔の“記録室”にね」


空気が凍る。


ミナは震えた。


「塔の……記録……?

 なにそれ……?」


先生はゆっくり言葉を選んで続けた。


「教団は“教え”を広めて支配してきた。

 でも、街を動かす仕組みは別のところにある。

 塔の最上階の奥に――

 “この街がどう作られたか”の記録がある」


「この街が……どう作られたか……?」


リオが息を呑む。


「なんだよそれ……

 そんなもんがあんのか……?」


先生は頷いた。


「教団が本当に恐れているのは、

 その記録なんだよ」


ミナは胸が痛くなるほど強く脈打つのを感じた。


(先生……

 どうしてそんなこと知ってるの……?)



そのとき、倉庫の外からまた慌ただしい足音が近づき、

息を切らした別の大人が飛び込んできた。


「先生!!

 塔の記録室が封鎖されました!!

 内部の司祭の一部が、

 “市民に記録を見せるべきだ”と言って……!」


倉庫の子どもたちの間にざわめきが走る。


ミナは声を失った。


(……教団の内部で……

 市民に記録を見せる……?

 そんなこと……ずっとタブーだったのに……)


男は続ける。


「“記録が真実なら、なぜ隠す必要があるのか”と

 言い出した者が現れて……

 塔の中が二つに割れています!!」


リオは半ば呆れ笑いで言った。


「こりゃ……本当に終わりが近いな……」


先生は静かに言う。


「まだ終わらないよ。

 崩壊じゃない。

 “生まれ直してる”だけ」


男は苦悶するように言った。


「先生……

 塔が生まれ変わったところで……

 俺たちの生活は……良くなるのか……?」


先生は微笑んだ。


「街が選べるようになれば、

 生活はゆっくり変わるよ」


男の瞳が揺れる。


「選べる……?

 俺たちが……?」


「そう。

 選ぶかどうかすら、

 “選ばされていた”ことに気づいたんだ」


男は胸を押さえ、目を伏せた。


「……こんな言葉……

 聞いたことなかった……」


「だからこそ、今が揺れの時なんです」


男は深くうなずき、去っていった。



街中が沈黙の渦に包まれはじめた頃。


ミナは気づいた。


街の沈黙は「乱れ」ではなく、

「揃った波」になっている。


歩く人の速度も、

振り返るタイミングも、

塔を見る目線も、

まるでひそかに“合図”でもあるかのように揃っていた。


(……街全体が……

 先生の言葉を待ってる……?)


リオも異変に気づいた。


「先生。

 ……ほんとに、街の空気……変わったぞ。

 誰も声を出してねぇのに、

 なんか“同じ方向”に流れてる」


先生はわずかに目を細めた。


「うん。

 沈黙が形になり始めた」


ミナの心臓が跳ねた。


(沈黙が……形に……?)


先生は立ち上がり、倉庫の扉に手をかけた。


「今日は、広場に行ってみよう」


ミナが慌てて袖を掴む。


「どうして!?」


「街が“沈黙で動いている”なら、

 その動きを見に行くべきだよ」


ミナは迷った。


先生が歩く街の中心に立つ姿が、

最近少しだけ“怖く”見えていたからだ。


だが結局、

先生の背中を追いかけるように歩き始めた。



広場にはすでに人が集まっていた。


誰も声を上げない。

ただ、塔の方向を見ている。


そこへ、塔から司祭ではない“別の影”が歩いてきた。


見習いでも、巡回でもない。


黒衣の上に白い布をまとった――

塔の中でも上位の司祭。


しかしその顔は、

恐怖ではなく、決意に満ちていた。


ミナがつぶやく。


「……あの人、上の……司祭……?」


リオも息を呑む。


「なんで街に降りてきた……?」


司祭は広場の中心に立ち、

街を見渡した。


沈黙の波の中、

たった一人の高位司祭。


だが彼は街を恐れていなかった。


目に宿っていたのは――

“何かを伝えたい者”の光。


司祭はゆっくり口を開いた。


「……街の者よ」


広場の空気が震える。


沈黙の波が司祭へ向かう。


彼は続けた。


「塔の記録室は……

 本日の午前、内部の者によって封鎖された」


ミナの喉が鳴った。


(やっぱり……本当だった……)


司祭は震える声で続ける。


「その中には……

 この街の“はじまり”と……

 教団の“本当の役割”が書かれている」


広場の沈黙が濃くなる。


司祭は言葉を震わせながらも続けた。


「我らは、

 それを“隠すべきではない”と考えた」


ミナの心臓が跳ねた。


(塔が……

 情報を……街に……?)


先生は静かに司祭を見ていた。


司祭は街に向かって深く頭を下げた。


「……街よ。

 どうか……

 沈黙のまま、我らの言葉を聞いてほしい」


その姿勢には、

支配者の傲慢はなく、

ただ“真実に触れた者の恐怖”があった。


ミナは横目で先生を見た。


先生は、

まるで計画通りというような静かな目で司祭を見ていた。


(……先生……

 なんで……そんな顔をしてるの……?)


この瞬間、

沈黙が――ついに方向を持った。


塔は揺れ、街はまとまり、

先生の影がほんの少しだけ濃くなった。


これはもう、

ただの沈黙ではない。


沈黙が、街の“意思”になろうとしていた。


────────────────────

誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ