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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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第55話 塔の揺らぎ

55話です

12月16日改稿

街が揺れ、沈黙が厚みを増していく。

倉庫では子どもたちが息を潜め、

外では大人たちが言葉を探している。


そしてその揺れは――

ついに、塔の内部へと染み込み始めていた。



朝の鐘が鳴った。


だがその音は、昨日よりさらに不規則だった。

高音と低音が噛み合わず、

まるで鳴らす手が迷っているような響き。


ミナが小さく呟く。


「……今日も、鐘……おかしいね……」


「おかしいよ」


僕は空を見上げて言った。


「教団が“自分たちの沈黙”を失い始めている音だ」


リオが眉をひそめる。


「沈黙……失うって、どういうことだよ」


「支配する側にとっての沈黙は、

 “従わせた結果”でなきゃ意味がない。

 でも今は違う」


一拍置く。


「街が、沈黙を“選んでいる”。

 だから、意味が裏返ってるんだ」


ミナの胸の奥が、ざわりと揺れた。


(沈黙が……

 教団のものじゃなくなってきてる……?)



倉庫に入ると、

昨日よりも多くの子どもたちが集まっていた。


本来なら、人数が増えるのは危険だ。

それでも彼らは来た。


怯えてではない。

「知りたい」「分かりたい」

その気持ちが、恐怖を上回ったからだ。


ミナは思わず息を呑む。


(……街の子たち……

 自分で決めて、来てる……)


僕はチョークを取り、壁に三行書いた。


 【なぜ こわいのか】

 【なぜ だまるのか】

 【なぜ ゆらぐのか】


そして、ゆっくりと言う。


「この三つが、

 今、街に流れている“揺れ”の正体だ」


子どもたちの間に、かすかなざわめきが走る。

言葉の意味を、必死に掴もうとする気配。


(……聞いてる。

 ちゃんと、考えようとしてる)



そのとき、

倉庫の扉が勢いよく開いた。


息を切らした大人が、顔を真っ青にして立っていた。


「せ、先生……!

 塔で……塔の中で……!」


「落ち着いて。

 何があったんですか」


男は喉を鳴らし、震える声で続けた。


「司祭同士が……言い争ってる!

 “どうやって街をまとめるか”で……

 怒鳴り声が……外まで聞こえた!」


倉庫の空気が、一瞬で凍る。


塔は本来、

外に声が漏れないように作られている。


それなのに――

外まで聞こえるほどの口論。


(……ついに、来た)


「詳しく」


男は唾を飲み込む。


「奉仕登録のやり方で割れてるんだ……

 “もっと強制すべきだ”って派と、

 “今は様子を見るべきだ”って派で……

 誰も引かねぇ!」


ミナが口元を押さえた。


「教団の……中でも……

 揺れてる……?」


「うん」


僕は静かに頷いた。


「揺れは外から始まって、

 必ず内側に伝わる。

 これは……街が変わり始めた証拠だ」



その直後、

また足音が駆け込んできた。


ミナが振り向く。


「あ……!」


現れたのは、

以前“誇り”の話をした男だった。


顔色は悪い。

だが、目だけは逃げていない。


「先生……

 また来ちまった……

 もう……どうすりゃいいか……」


「今日は、何がありました?」


男は息を整えながら言った。


「奉仕登録の紙が……

 “新しい紙”に変わり始めてる……」


ミナが息を呑む。


「新しい……紙……?」


「そこには……

 “この登録は、街を守る者としての誇りである”って……

 大きく書いてある……」


リオが吐き捨てる。


「見やがったな……

 先生の動きを……」


僕は、思わず笑った。


「教団は、“誇り”を奪いに来ている」


ミナが揺れる瞳で聞く。


「……奪う……?」


「そう。

 誇りを“与えるもの”に変えた時点で、

 それは支配の道具になる」


男が胸元を掴む。


「……俺……

 誇りなんて……

 考えたこともなかった……」


「誇りはね」


僕は、はっきり言った。


「誰かに言われて持つものじゃない。

 自分で“持つ”と決めたときにだけ、誇りになる」


男の目に、涙が滲んだ。


「……なんか……

 胸が……軽くなった……」


ミナは思った。


(先生の言葉……

 本当に……人を動かす……

 怖いくらい……)



その夜。


塔の最上階では、

前代未聞の内部会議が続いていた。


司祭は額を押さえ、低く言う。


「街の沈黙は……

 もはや恐怖ではない」


別の司祭が叫ぶ。


「だからこそ、強制が必要だ!」


「違う!!

 強制すれば、沈黙は反発に変わる!」


「ではどうする!

 制度を弱めるのか!?」


「弱めれば、

 支配が揺らいでいると悟られる!」


怒号が飛び交う。


塔の中で初めて、

支配者たち自身の恐怖が露わになっていた。


廊下を歩く見習い司祭が、思わず呟く。


「……塔の中って……

 こんなに声、漏れるものだったか……」


揺れているのは、街だけじゃない。


教団もまた――

確実に、崩れ始めていた。



倉庫で。


ミナが、そっと聞いた。


「先生……

 今日の街……どう見える……?」


僕は少し考えてから答えた。


「分かれ道に立っている街だ」


ミナの胸に、

小さな温かさが灯る。


(先生の言葉が……

 街を……少しずつ……)


遠くで、また鐘が鳴った。


今日も、不規則な音。


(司祭……

 そろそろ、気づくべきだ)


沈黙に支配されていた街は今、

ゆっくりと――

沈黙を“自分のもの”にし始めている。


誤字脱字はお許しください。

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