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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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51/93

第51話 揺れの翌日

51話です。

12月16日改稿

沈黙の反撃を仕掛けた翌朝。

街は、奇妙な空気に包まれていた。


昨日までの怯えとも、

怒りとも違う。


それは――

様子を見ている沈黙だった。


人々は奉仕登録の紙を手にしている。

だが、誰一人として提出に向かわない。


井戸の列では視線だけが動き、

言葉は交わされない。


(いい……)


僕は、街の変化を確かに感じ取っていた。


(沈黙が“恐怖”から“判断保留”に変わっている)


沈黙は、もう支配の結果ではない。

思考の結果になりつつあった。


ミナが小さな声で言う。


「……先生

 街の人の顔……違うよね」


「うん。昨日は怯えていた。

 今日は“考えている顔”だ」


リオが鼻で笑った。


「教団……

 今頃、やりづらくて仕方ねぇだろうな」



その“やりづらさ”は、

午前中にはっきり形になった。


広場に黒衣の見回りが現れ、

いつもより大きな声で叫んだ。


「奉仕登録の提出期限は――本日中だ!!

 提出しない者は――」


そこで、言葉が止まった。


理由は単純だった。


誰も反応しなかった。


怒号もない。

逃げる気配もない。

抗議すらない。


あるのは、

見回りを静かに見つめる視線だけ。


観察する沈黙。


見回りの喉が、わずかに鳴った。


「……き、今日中だからな……!」


それ以上、何も言えず、

彼らは足早に去っていった。


リオが低く呟く。


「……沈黙に、負けてるな」


「そうだね」


僕は頷いた。


「人は叫び声に怯える。

 でも沈黙には“意味”を読み取ろうとする」


ミナが、僕を見つめていた。


(……先生

 本当に“沈黙”で街を揺らしてる……)



その頃、教団の塔では

怒りが形を失っていた。


「なぜ登録が進まない!」

「昨日より静かになっているぞ!」

「街の空気が変わっている!」


司祭は机を叩いた。


「沈黙……沈黙……!

 なぜ沈黙が秩序を壊す!!」


使いの者が、恐る恐る答える。


「皆……従っているようで……

 判断を……保留しているようです……」


「判断保留だと!?」


司祭の声が跳ね上がる。


「それは反乱の前兆だ!

 見張れ! 全員を見張れ!!」


だが、その命令は

焦りの裏返しでしかなかった。


(沈黙に飲まれているのは……

 君たちのほうだよ、司祭)



夕方。

ミナとリオと共に街を歩いていると、

一人の中年の男に呼び止められた。


「……先生」


声は震えていた。

だが、それは恐怖ではない。


迷いの震えだった。


「俺は……どうすりゃいい……

 登録すれば守られるのか……

 しなければ……狙われるのか……」


その目は、逃げていなかった。


街の揺れが、

人に“考える場所”を与え始めている。


僕は静かに答えた。


「どちらを選んでも、後悔する可能性はあります」


男は息を呑む。


「……じゃあ……俺たちは……」


「“決めない”ことも、選択です」


男は驚いた顔で僕を見る。


僕は続けた。


「今日の沈黙は、教団の命令じゃない。

 あなたたち自身が選んだ沈黙です」


ミナが小さく呟く。


「……街そのものが……

 考え始めてる……」


男は、ゆっくりと頷いた。


「……あんたの言葉は、不思議だな。

 怖いのに……逃げたくならねぇ」


「変でいいんです」


僕は微笑んだ。


「変じゃなければ、

 教団の言葉と区別がつきませんから」


男は小さく笑い、

人波の中へ消えていった。


リオが肩をすくめる。


「先生……

 もう“普通の先生”じゃねぇだろ」


「普通だよ。

 ただ――

 沈黙の使い方を知ってるだけさ」


そのとき、

塔の鐘が鳴った。


沈黙の中で鳴る鐘は、

今までとは違う響きを持っていた。


街はまだ動かない。

だが――


確実に、揺れ始めていた。


誤字脱字はお許しください

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