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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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第47話 最初の子の家

47話です

12月16日改稿


スラムの外れにある、小さな石造りの家。

教団に「連れていかれた」少女が、昨夜戻された家だ。


そこへ向かう途中、

街の空気はさらに重く沈んでいた。


井戸の前では、

大人たちが声を潜めて話している。


「一人目の“識別”が出たらしいぞ……」

「次は誰だ……?」

「先生に関わった家だって噂も……」


どの声にも、

怒りよりも先に“怯え”が滲んでいた。


(……街が切り替わったな)


恐怖が共有されるとき、

人は考える前に“居場所”を探し始める。


ミナが、かすれる声で言った。


「先生……

 ほんとに、行くの……?

 教団に見つかったら……」


「見つかるよ」


即答だった。


「でも、問題ない」


「問題ない……!?」


リオが思わず声を上げる。


「逆だよ。

 ここに行かなかったほうが疑われる」


二人が立ち止まる。


「ここは、僕が最初に助けた家だ。

 ここを見捨てたら――

 街の人は、“先生は逃げた”と判断する」


ミナは息を呑んだ。


(……先生は、

 もう“自分”じゃなく

 “街の視線”で動いてる……)



扉を叩くと、

中から少女の父親が飛び出してきた。


「せ、先生……!

 やっと……やっと来てくれた……!」


「何があった?」


父親は震える手で、扉を示す。


「今朝、教団の人間が来て……

 “娘を祈り室の候補に戻す”って……

 抵抗したら……これを……!」


扉には、

見慣れない赤い印が刻まれていた。


(……選別の印)


ミナが声を上げる。


「ひどい……!

 どうして、この子が……!」


リオは奥歯を噛みしめた。


「先生、なんとかしねぇと……!」


父親は、崩れるように頭を下げた。


「お願いします……

 もう……何が正しいのか……

 分からなくて……」


僕は家の中を見た。


布団の上で、

少女が膝を抱えて座っている。


目は開いているのに、

どこも見ていない。


(……教団は、

 “戻した”んじゃない。

 “壊して返した”だけだ)


僕は、父親に言った。


「今日一日、

 僕の言うとおりにしてください」


「……なんでもします……!」


「まず――

 その印を、消さないこと」


父親が息を呑む。


「え……?」


ミナが思わず叫ぶ。


「先生!?

 印があるほうが危ないよ!」


「消したほうが危ない」


僕は静かに答えた。


「印を消せば、

 教団は“逃げた”と判断する。

 次は、もっと強い手で来る」


リオが低く聞いた。


「……じゃあ、どうすんだ」


「印の意味を変える」


二人が、言葉を失う。


「印は脅しだ。

 でも、人は“印そのもの”じゃなく、

 意味に怯える」


ミナが気づいたように目を見開く。


「……意味を……

 別のものにする……?」


「そう。

 恐怖は言葉で作られる。

 なら、言葉で上書きできる」


リオが、乾いた笑いを漏らす。


「……先生。

 やっぱ悪役だろ、それ」


「教育者だよ。

 言葉で戦うのが仕事だからね」



僕は、父親に言った。


「これから人が来たら、

 こう言ってください」


一拍。


「“この印は、教団が娘の帰りを認めた証です”」


父親の目が大きく開く。


「そ、そんな……

 嘘を……!」


「嘘じゃありません」


僕は少女を見る。


「本当に教団が狙っているのは、

 “あなたたちの反応”です」


ミナが、息を呑む。


「……怯えない姿を見せる……?」


「そう。

 印に怯えなければ、

 教団は“効果が薄い”と判断する」


少女が、かすかに顔を上げた。


「……ほんと……?」


「大丈夫」


僕はうなずいた。


「この印は、

 君を縛る鎖じゃない。

 盾にもなる」


少女の目に、

ほんのわずかだが、光が戻った。



そのとき――

外から、足音。


「……来たぞ」


リオが小さく言う。


見回りが二人、姿を現した。


「この家は、印を消していないな」


一人が言う。


「忠実な家だ。安心しろ」


父親は震えながらも、

言われた通り口を開いた。


「娘は……戻りました。

 印も、そのための……目印ですよね……?」


見回りの動きが止まる。


「……戻った?」


「ええ。

 教団のおかげで、

 怯えは消えました」


ミナが息を止める。


(……本当に……言った……)


見回りたちは互いに顔を見合わせた。


「……司祭さまは……

 沈黙を守る家には加護を……」


理屈が、彼らを縛る。


結局、何もできずに、

見回りは去っていった。



父親は、その場に崩れ落ちた。


「先生……

 あなたは……

 本当に、ただの先生なんですか……?」


僕は、少し笑った。


「ただの先生ですよ。

 子どもと言葉を守るためなら、

 なんだってやるだけです」


ミナが、震えた声で呟く。


「先生……

 ほんとに……

 危ない人だよ……」


リオは、肩をすくめた。


「……でもよ。

 必要な危なさだな」


街は、この日、確かに揺れた。


だがそれ以上に――

“抗い方”を、初めて学んだ。


そしてその夜。

教団の司祭は、


「印の効果が薄れている」


という、

予想外の報告を受けることになる。


誤字脱字はお許しください。

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