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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革〜』  作者: くろめがね


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44/99

第44話 揺れの一日目

44話です。

12月15日改稿

教団から宣告された「三日間」が始まった。


朝のスラムは、表面上はいつもと変わらない。

井戸へ向かう人々、店を開く商人、通りを行き交う子どもたち――

だが、細部が違った。


足取りがわずかに速い。

視線が合うと、すぐに逸らされる。

子どもたちの声は、不自然なほど小さい。


街全体が、

見えない何かを恐れている。


倉庫裏へ向かう途中、路地から言い争う声が聞こえた。


「お前んとこの子、授業に行ってるって噂、本当か?」

「行ってねぇって言ってんだろ!」

「嘘つけ。見たって奴がいるんだ!」


怒鳴り声ではない。

そこにあるのは、苛立ちよりも怯えだった。


(……早いな)


教団は「禁止」を出した翌日から、すでに次の段階へ進んでいる。

罰ではない。

監視でもない。


――分断だ。



倉庫の陰に入ると、ミナが駆け寄ってきた。


「先生……今日、街の人たち、変だよ」


「どう変?」


「視線が……怖いの。

昨日はまだ“迷ってる”感じだったのに、今日は……

誰かが、誰かを疑ってる」


続いて、リオが顔を出す。


「噂も流れてる。

“授業に通ってる家は、教団に反逆してる”ってさ」


「反逆……」


ミナの顔色が一気に悪くなる。


(司祭……そこまで踏み込んだか)


僕は静かに言った。


「スラムの人たちは、反逆なんてしない。

ただ、生きたいだけだ」


二人を見る。


「教団は、その“普通の願い”を人質に取ってる」


ミナの目が潤む。


「……私、嫌だよ。

みんなが、こんなふうに疑い合うの」


僕は彼女の頭に手を置いた。


「疑いは“揺れ”だよ。

でもね、揺れは必ず収まる」


「……ほんと?」


「揺れたあとに残るのは、二つだけだ。

変わった街か、壊れた街か」


リオが苦笑する。


「先生、よくそんな冷静でいられるな……

逆に怖ぇよ」


「教育は、冷静じゃないとできない。

感情で動いたら、子どもが迷うからね」


「……ほんと悪役みてぇ」


「自覚はあるよ」


僕ははっきり言った。


「僕は街の味方じゃない。

子どもの味方だから」


その言葉に、ミナもリオも息を呑んだ。



やがて、今日の授業に来た子どもたちが、少しずつ姿を見せた。

皆、周囲を警戒しながら倉庫に入ってくる。


チョークを握った、そのとき――

外から低い声が聞こえた。


「……ここか?」


リオの体が強張る。


「先生、見回り……?」


だが、足音は入口で止まり、入ってこなかった。


「……いや、誰もいないな」


声は遠ざかる。


(探していない。

“探すふり”をしているだけだ)


僕は小声で言った。


「今日は予定を変える。

“観察”の授業だ」


「観察……?」


「街を見る。

人の歩き方、視線、言葉の選び方。

それ全部が“情報”だ」


ミナが息をのむ。


「……教団を、見るってこと?」


「そう。

相手を知らなければ、守れない」


リオが呆れたように言う。


「先生、ほんとに教育してんのか……?」


「してるよ。

生き残るための教育だ」



授業が終わり、子どもたちを帰したあと。

ミナとリオが残った。


「先生……

なんか、悪いこと起きそう」


「起きるよ」


即答した。


「でも、悪いことは“変わる前兆”だ」


リオが唇を噛む。


「これから、どうなる……?」


「一日目は“疑い”。

二日目は“対立”。

三日目は――」


二人が固唾を呑む。


「誰かが試される」


「……誰が?」


僕は答えなかった。


倉庫を出ると、教団の塔から鐘が鳴った。

低く、重く、逃げ場のない音。


(……司祭が動いている)


揺れの一日目は終わった。


街は、静かに、しかし確実に――

裂け目へ向かって歩き始めていた。


誤字脱字はお許しください。

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